13.いめちぇん
教室に入る。
ぱっと沢山の目が自分に集まったのを感じて、宗佑はすこしぎくしゃくとして席にランドセルを置いた。
筆箱、宿題、タブレット、水筒。
席に置く持ち物をルーティーンで取り出して、軽くなったランドセルを棚にしまうために教室の後ろに向かう。
そこに、あの子が入ってきた。
宗佑を頭のてっぺんから上履きまで眺めるのが分かる。
「おはよー、そうちゃんイメチェンー」
ぽんと言われ、そしてそのまますれ違う。
あの子の視線によるスキャンを受けて、宗佑は棒立ちのまま自分の服装を確認した。
近くにいたクラスメイトが同じように宗佑の前に来て、「そうちゃんイケメーン」と言った。
似合う似合う、誰かと思った、かっこいい、
みんなが口々に感想を言ってくれて、
僕のなけなしの勇気はしぼまずにすんだ。
ジーエーピー改めギャップを自分も着こなせるのだ、というのは宗佑にとって、難しい算数の問題に答えられる以上に自信をくれる出来事だった。
給食の時間。
揚げパンを咀嚼しながらふと考える。
あれ、あの子は褒めてくれたわけじゃないのか。
イケメンと弄ってきたのはクラスメイトだし、
あの子からは似合うとは言われていない。
イメチェンってなんだ?
イメージチェンジ。
変化について気づいたよ、というだけのことか。
イメージチェンジしたらなんなんだ?
わるいかよ!
誰とも話していないのに心がささくれだっていくようだった。あの子はいいとも悪いとも言っていない。ただ宗佑の変化を捉え、口にしただけ。分かっている。分かっているのに、宗佑にとっては面白くなかった。思春期のせいだ。チャンスがあればすぐに表に出てこようと体の中でいつも機会を伺っている不機嫌がもう胸のあたりまで迫り出してきていて、じゃりじゃりと揚げパンにまぶされたシナモンシュガーを噛み潰しながら、宗佑は落ち着かない気持ちでいた。
昼休みの時間、宗佑はみんなと外遊びする気にもなれず、折り紙の本を開いて黙々とドラゴンを折っていた。立体にするのが難しいが、立体になるからこそこの歳でも十分楽しい。出来上がったフィギュアのような折り紙を、担任の先生はいつも黒板の上に並べてくれた。茶色いTレックスが4体。大きな折り紙を買ってもらったので、背中の翼が作れるようになり、このまま順調に行けば翼の生えた青いドラゴンが出来る予定だ。
黙々と折っていると、あの子が自由帳を持ってきた。
「見て、描いた!」
そこには、GAPのパーカーを来て、フードを被り、厚い前髪の奥でメガネで目つきの悪い宗佑がいた。特徴をつかんでいると思った。せっかく目が大きいのに…メガネもかけてるのにどうしてそんなに目を細めてみるのよ、とお母さんにいつも言われる、そのいつもの自分だ。慢性的に不機嫌でどうにもならない。そんな僕が、少し可愛げなキャラクターにされてそこに存在した。
「邪魔しないでよ、いまここ難しいんだから」
宗佑はノートから自分の手元にだけ、決してあの子を見ないように慎重に目線を動かした。
「えー!終わったらみといてよ!あ、ねぇ一緒に外遊びいこー!」
あの子は、まさか、僕の席にノートを置き去りにして、友達をみつけて教室から出ていってしまった。
ノートに白い余白が際立つ中で、一際機嫌の悪そうな鉛筆書きの僕がじっとこちらを見つめていた。
あの子はちっとも帰って来なかった。昼休みって長いんだなと思う。ぽつんとした、イラストの自分が寂しそうに見えてきた。尾島宗佑。イラストの横に名前を書き入れてみた。
いい感じにイラストが締まった感じがした。
宗佑はノートを閉じ、あの子の席に戻しておいた。




