11.じーえーぴー
その日、宗佑は授業なんて手につかない、と思った。
が、持ち前の集中力を発揮して、手につかない事態には陥らなかった。
いつもと同じ。
知らないことを知るのは面白いし、
特に算数なんて、立体を切断する問題は想像力を掻き立てられてワクワクした。
2教科が終わると、ミヤが近づいてきて、自習室行くから帰る時声かけてよ、と言ってきた。
「2教科しかやらないの?」
宗佑が聞くと、理科と社会はオンラインで授業受けてるから大丈夫なんだ、と言った。自学自習なのか!
ただ者ではない感じに、宗佑は今一度焦りを感じた。
宗佑が授業を終えて教室を出ると、
自習室にいると言っていたミヤが既に教室の前で待っていた。先に宿題終わったから、と言い、コンビニで買ってきたであろうチキンナゲットを食べていた。宗佑なら、1人でお金を持ってコンビニには行かない。今日の夕飯として持っていたハンバーガーだって、たまに、家族と行って買ってもらうくらいで、自分1人でお店に行って、自分1人で買って帰ってきたことなんてない。ミヤがすごく大人に見えた。
駅に着くと、家族に連絡を入れる。家から歩いて迎えに向かうとお母さんが言う。ミヤは、駅の目の前のマンションが家だといい、一歩たりとも暗い中は歩かずにエントランスに消えた。
駅から家までの道のり。宗佑の足で10分ほどだ。だんだん駅前の明るさから、地面の種類が代わり、街灯が少し減っていく。住宅街の中の、中層大型マンションのいちばん上。眺めが悪くはないが、高層でもない合間のフロア。大人っぽいミヤと、自分の差がそこにあるような気がした。
「おかえり」
宗佑をみつけて街灯の下で立ち止まり、お母さんが手を振ってきた。
「今日、同じクラスの宮崎さんが塾入ってきたよ」
いの一番に伝える。
「塾行くのは今日からだけど、おんなじクラスだった」
宗佑は息もつかずにまくし立てた。
「ひとりでお店で夕飯買ってきてたし、塾に通うのは2科だけで、理社は1人でできるんだって。それで同じクラスなんだって」
そんな様子の宗佑を見て、お母さんは目をまるくして、いつもと変わらず優しく正しい声で、いろんな子がいるからねぇ、と言った
「そんなの、わかってる!」
宗佑の言葉は、思ったよりも鋭くひびいた。
お風呂に浸かると、いろんなもやもやが溶けていくようだ。初めに寒い湯につかってみようと思った哺乳類は天才だなと思った。
お風呂から上がると、お父さんが帰ってきていて、卒業した学校の寄付のパンフレットを見ていた。ぱらぱらとめくる冊子の中には、学校のグッズ販売についても載っていて、宗佑も隣に座ってのぞきこんでいた。学校の建物を模した置物や、文房具、マグカップ、タオル…ふと、宗佑の目にとまったのは、学校のロゴが全面について、フードと大きなポケットがついているトレーナーのような服だった。
「こういうの、着てみたい」
宗佑は指さした。頭には、今日ミヤが着ていた灰色の同じような服が浮かんでいた。そういうかたちの服があるのは知っていたが、宗佑も弟も着たことはなかったし、家の中に無いような気がした。
「パーカーか、これからあったかくていいかもな」
お父さんが言った。
お父さんの同意にわが意を得たりと僕は気が大きくなって、続けて言った。「こういう形で、胸にアルファベットでジー、エー、ピーって書いてあるやつ」
「じーえーぴー」
お父さんは思案した顔になった。
「ああ、じーえーぴーのやつな」
少しにやにやと笑って僕を見る。なんだか分からないけど失敗した!と思った。
「お母さん、宗佑がじーえーぴーのパーカーがほしいって」
お父さんがお母さんまで話をひろげた。
「あぁ…じ、じーえーぴーね」
お母さんまで!
僕は何が違うのかも分からず、ものすごく恥ずかしい思いをした。
そしてその翌日、僕が学校から家に帰ってくると、
ジーエーピーのパーカーが家に用意されていた。




