恋愛バトル
今日は久しぶりのデートである。
俺は19歳の頃までモテモテだった。インチキ神様から突き付けられた青写真通り、スポーツ万能で女子から黄色い声援を送られていた。同級生はそんな俺を遠い眼差しで見つめていた。
だが、20歳を超えた頃から急にモテなくなった。ある日突然、牛になったりヤカンになったり。原因はアイツだと思われ、この1年間散々な目に遭っている。
まあ、そんな愚痴を言っても仕方がない。今日は久しぶりのデートだ。高校の頃に付き合っていた彼女で卒業と同時に疎遠になっていた。この間、街で偶然に再会を果たした。その際、思い出話に会話がはずみ、それをキッカケに再びデートの約束を取り付けた。
約2年ぶり再会である。何もかも忘れて思いっきり楽しもう。
待ち合わせ10分前に現地へ到着した。
彼女はまだ来ていなかったが、この待ち合わせ時間がドキドキワクワクで楽しい。今日は何をしようか。どこへ行こうか。食事をして、お酒でも飲んで、その後は……。
彼女の到着をアドレナリン全開で待っていた。
「ごめん。待ったぁ~」
15分遅れで彼女の姿が見えた。
「おう、久しぶり」
「ごめんごめん。出がけにちょっとあってさ」
「気にするなよ。ぜんぜん待ってないから」
そう言って彼女に駆け寄った時、道の段差に躓いて顔面から倒れ込んだ。
気が付くと、お花畑にいた。
「クッソおぉ~。よりにもよってこんな時に……」
遠くから例の奴が走り寄って来た。
「ごめん。待ったぁ~」
茶髪のロングヘアーにパットをてんこ盛りにした胸。体にジャストフィットしたニットワンピを着て登場した。
「出がけにちょっとあってさ、遅れちゃったぁ~」
「遅れたじゃねぇよ」
「なに怒ってるの? ちょっと遅れただけじゃな~い」
「遅れろ。そして消えて無くなれ!」
「ひど~~い。それが恋人に言う言葉ぁ~?」
「だ、誰が恋人だ」
「今日は寝かさないからねっ!」
「永遠に寝ろ!」
久しぶりのデートだというのに何故コイツが現れる。
「なあ、俺に恨みでもあるのか?」
「神様のワシが恨むなんて、そんな人間的な事はしないよ」
「じゃあ、なんで俺に付きまとうんだ」
「運命じゃない?」
「か、顔を赤らめるな!」
本当に勘弁して欲しい。なぜ朝の挨拶のように軽い感じで現れるのか。
よしんば、俺の普段の行いが悪いとしよう。人の心をエグるような発言をしたならば、喜んで罪を受け入れる。イキがって煽り運転をする基地外なら当然だ。脳みそ底辺のDQNの行動に呆れた神様が戒めの制裁を加えるなら納得もいく。
しかし、考えうる限り悪い事はしていないと思う。人様に危害を加えた訳じゃない。己の保身のために他人を蹴落とした覚えもない。
ただ、彼女とデートをしようと思っただけだ。
「今日は久しぶりのデートなんだよ。勘弁してくれよ」
「自分だけ?」
「は? どういう事だ?」
「ワシも一緒に」
「何でお前も一緒に連れて行かなきゃならないんだよ!」
「た、たまには複数プレ……」
「マジでやめろ!」
ダメだ。完全に脳が破壊してる。
「今回は邪魔しないでくれ、な」
「恋の障害。乗り越えたら愛」
「はい?」
「愛の障害。進んだ先は永遠」
「……」
「永遠の先。それは生涯」
「ダジャレか?」
「てへぺろぺろ」
「ぺろが1個多いわ」
ここまで来ると、もはや望みが分からない。遊び相手がいなくてヒマなら、わざわざ手の込んだ事をする必要はない。素直に「ヒマだから遊んでよ」でいいじゃないか。それならこっちも「ヒマな時に遊んでやるよ」で丸く収まると思う。
それを好き勝手に呼び出しやがって。
「今日はお前に付き合っているヒマはない」
「いやぁ~ん。いけず」
「って言うか、お前は邪魔なんだよ」
「邪魔ならハッキリ言って!」
「だ・か・ら。ハッキリ言ってるだろうがっ!」
「うふぅ~ん。恥ずかしがり屋さんね」
「もう分かったから遊んでやるよ」
「やっぱり。私の事は遊びだったのね!」
「遊ばれてるのは俺の方だ!」
「お腹にはあなたの子が……」
「お前は男だろう。妊娠などするか」
「養育費を払って!」
「……なあ、早くゲームをやって終わらせようぜ」
打たれても堪えない精神力だけは感服する。ここまで自己中だと怖いモノ無しだろう。生きていくのが楽そうである。
変に感心している俺を見た老人は、不敵な笑みを浮かべて例の青写真を広げた。
「さぁ~て、お立合い。この青写真には恋人の名前が書かれています。その名前とは一体誰でしょう」
「それを当てればいいだけか?」
「シンキングターーイム!」
「そんなの簡単だよ」
「スズメのガッコの先生わ~」
「今の彼女に決まってるわ」
「ムーチをフリフリ、さあ、おナメ!」
「どうだ。当たったろ」
「ビシバシアンアン、ブタ野郎ぉ~」
「ゲスな歌はやめろ!」
口を酸っぱくして言うが、下ネタに走ろうとするんじゃない。
自信満々で彼女の名前を呼ぶと、老人は青写真と俺を見比べた。そして「プッ」と吹き出した。
「何だよ。感じ悪いな」
「ごめんごめん。あまりにも意外だったから」
「で、そこに書かれている名前は?」
「それよりも……」
「何だよ」
「君はモテモテだったから調子に乗っている感があるね」
「別に調子には乗ってないと思うが?」
「この子がダメなら別の子、みたいな」
「そんな事は無いぞ」
「それって女性に失礼じゃない?」
「色んな人と付き合って将来を決めるのは普通だろう」
「それは遊び人のセリフだね」
「結婚したら浮気は出来ないんだから」
「背徳が萌えるのよぉ~」
「お前こそバカにしてないか?」
「そこが畜生の浅ましさ」
「……」
「これからワシと勝負しよう」
「勝負?」
続けてこう言った。
「君は一旦、元の世界へ戻る。そして彼女に全力で告白する。彼女が受け入れたら君の勝ち。もしフラれた場合、すぐに「次の子へ」などと思わない事。悲しみ、苦しんで涙を流した時、相手がどれだけ自分に必要だったかが分かる。そうして彼女の幸せを願う事が出来たら、君は新たなステージに立てる。そして出会うのは本物の愛なのさ」
別にモテモテだったからと言って、とっかえひっかえしているつもりはない。
ただ、心の奥底では「この恋がダメなら次があるさ」と軽んじている自分も存在する。それが長く付き合えなかった原因なのだろう。
他人に言われるまでもない。本当に欲しいのは真実の愛である。
「一理あるな」
「なかなか素直でよろしい」
「よし。分かった」
「本当に?」
「これから告白してくる」
「なんて?」
「そんなの人に言えるか!」
「恥ずかしがり屋さん!」
「う、うっせーよ」
途端に急激な目眩に襲われ、気が付いたら彼女の前に居た。
改めて言うのは気恥ずかしいが、これは未来を変えるための通過点でもある。
俺は彼女の目を見つめ、全身全霊で告白した。
「気持ちはありがたいけど……ごめん」
「な、なぜ?」
「実は私、好きな人ができたの」
「……」
心がえぐられた。本気で告白した時、これほどダメージを喰らうは思っても見なかった。今まで恋を軽んじていたのが如実に語っていた。
「そ、そうか……」
「ごめんね」
「いや、大丈夫」
「……」
「あのさ……」
「何?」
「相手ってどんな人なの?」
「とても誠実で思いやりのある人」
「そうか……」
「私の事を一番に想ってくれるの」
「そうか……」
「それに面白いし」
「そうか……」
「愛は盗賊。君は心の大ドロボー。なんて笑わせてくれるの」
「え?」
すこぶるイヤな予感がした。その言い回しといい、セリフといい。良く知るクレイジー老人を彷彿とさせる。
「そ、その人の特徴は?」
「うーん。ヒゲを生やした紳士かな」
「もしかしてスケベ?」
「うん。ちょっとね」
「……」
「僕、溶けちゃうかもぉ~。って言いながら触ってくるから」
「……や、やめておけ」
「じゃあね。バイバイ」
彼女は笑顔で消えて行った。
「そいつだけはやめておけぇぇーーー」
その直後、空から声がした。
「ワシの勝ち~」
「な……」
「あなたが居れば、もう何もいらない。って言われちゃった」
「俺の女を口説いたのか!」
「君のじゃないよ。ワ・シ・ノ・モ・ノ」
「ふ、ふざけんな」
「激しかったわ~。あの日の夜!」
「……」
声だけなのでどんな表情をしているのか分からないが、何となく憐れみの薄ら笑いを浮かべている気がする。
この際、彼女が誰と付き合おうが関係ない。青写真に書かれている真実を知りたい。
「なあ、青写真に書かれている名前は誰だよ」
「知りたい?」
「教えろ!」
「ミツグの未来の恋人わ~」
「誰だ」
「ローションフリフリ、天国え~」
「は?」
「テンテンガーガー。テンガーガー」
「き、貴様ぁぁ~」
今度行ったら全力で潰す。これ、決定事項な!




