夜戦
技術力の差はやっぱりでかい。
最初の攻撃から約30分後
そこには照明弾の光も、野戦砲の轟音も、魔法の光もなく、ただ静寂と闇が広がっていた。
この初撃による魔王軍の被害は甚大であり、攻撃に来ていた約1200体の魔物の内、半数以上の約700体が死亡。また、隊列を戻すために移動していた者も残っていた地雷によって少なくない被害を出した。
「まさかここまでの被害が出るとは…」
「ナグザール様!部隊はもはや半壊状態であり、このままでは全滅です!
撤退したほうがよいかと思われますが…」
「…確かにそれもあるが…別の可能性も考えられんか?」
「と、言いますと?」
「もし本当に奴らが我々を全滅させようとしているなら、あのまま攻撃を続けたはずだ。
おそらくは魔力切れでこれ以上の攻撃ができなかったのだろう。」
「と、いうことは、まさか。」
「あぁ…このまま進撃すれば、村は我々のものだ。
おそらく奴らは我々に被害を与えて村の占領を諦めさせるのが目的だったんだろうな。」
「それでは、進撃しますか?」
「もちろんだ。
全軍前進せよ!我々を攻撃してきた人間共を殺せ!」
「サーチ!」
「どうだ?」
「…まずいわね。
魔王軍はこのまま村に入るつもりよ。」
「あれだけ被害を出してまだ進むのかよ…」
「最悪な方の予想が当たってしまったか…」
「だが、市街戦ならば防衛側が有利だ。
冒険者ギルドを中心に防衛線を…」
と話している途中、辺りに爆発音が響き渡った
「「「!?」」」
「おっ引っかかったか。」
「おい、こんな村の近くには地雷は設置してなかったはずだぞ?なんか仕掛けたのか?シグネ。」
「いや、特に何も。
ただ、俺の実験室にありったけの爆薬を詰めて『物資集積所』って書いた看板を立ててただけだ。
ドア開けたら吹っ飛ぶってのは書いてなかったがな。」
「やるな、シグネ!」
「だろ?」
「さすがだな。」
「おっと敵が近づいて来たわよ!」
「よし、それじゃぁ…決戦だ!」
「はぁぁぁぁ!!!」
次々に現れる魔物を、自らの剣1本で斬り伏せるクロス。
市街戦は基本的には接近戦だ。
故に我々の中で最も近接戦のできるクロスが主戦力となる。…というより…
「クソッ、今思い返してみれば、俺以外は全員後方支援要員じゃねぇか!」
主戦力というより事実上1人プレイ状態のクロス。
だが…
「!しまった、後が!」
クロスに刃が届く寸前、乾いた発砲音と共に襲い掛ってきた魔物は地面に倒れた。
「後ろのことは気にするな!
僕が狙撃でどうにかする。」
そういいながらも側面に回り込もうとしていた敵に対し、ヘッドショットを決める。
「助かった!
だがそれ以上に数が多い…」
「伏せろ!クロス!」
「『メガブレイズ』!!」
シグネの言葉とともに、ナシアの放った魔法が魔物を覆い、シグネが投げた手榴弾は敵の塊を消し飛ばした。
「敵の残りは少ない!このまま畳み掛けるぞ!」
クロスがそう言ったとき集団の中から1体の一際大きな魔物が前に出てきた。
そして、
「よく聞け人間共よ、我こそはこの魔王軍特殊水上作戦部隊の司令官、その名をナ…」
「大将だ打てぇぇぇぇぇ!!!!!」
「ちょ、まてグァァァァァァァァァァァァ
堂々と名乗りを上げようとした騎士道精神溢れる敵の大将はそんな騎士道精神もろとも消し飛ばすシンジ達の不意討ち集中攻撃によって撃破され、その数十分後に魔王軍攻撃部隊は全滅した。
ニュートラルの街の避難所にて、アルカディアの村人達は皆一様に暗い顔をしていた。
「…クロスさん達は今頃魔王軍と戦っているんでしょうか……私にも何かできることがあったのでしょうか……」
「エリカよ…お主は既に十分自分の務めを果たしておる。」
「あぁ…村長の言う通りだ、俺の息子は何だかんだで窮地を切り抜けれる奴だ。だからきっと皆大丈夫だよ。」
「村長、ゼネルさん…」
ニュートラルの街全体に放送が行われた。
『緊急速報です。昨夜未明魔王軍が、アルカディアに到達、激しい戦闘の末に…え?
は、激しい戦闘の末に、魔王軍は全滅!村の被害は軽微だそうです。
繰り返します!アルカディアでの戦闘により魔王軍は全滅!村の被害は軽微です!』
「え…え!?」
想定外の勝利の知らせにアルカディアの住人も、自分たちも巻き込まれると思っていたニュートラルの住人も困惑していたが、次々に届く詳細な情報によって街は大歓声に包まれていった。
魔王軍を撃退した次の日、僕達は詳細な結果報告を行うためにニュートラルへと向かった。
ニュートラルでは、あらゆる人から歓迎を受け、まるで英雄かの如き扱いを受けた。
でもまぁ、たった4人で約1200体の魔物を全滅させたとあればそうもなるだろう。
「あっ!皆さん!」
とそこで見知った顔にあった。
「エリカさん!」
「皆さん無事だったんですね、よかった。」
「まぁな。」
「いやー私たちの活躍をぜひ見せたかったよ。」
「それにしてもすごいですね。私たちがこっちに来た後、攻撃部隊の中に魔王軍の幹部がいるって聞いたときはびっくりしましたよ。」
「ハハハ…は?」
「「「「今何て言った?」」」」
「え、あの、魔王軍の幹部が居たって…
確か魔王軍特殊作戦群水上作戦部隊の司令官、名前は確か『ナグザール』だったような…どうかしました?」
その時僕たちは、あの敵の大将の言葉を思い出していた。
「…………その名をナ…」
って言ったタイミングで襲いかかったんだっけ…
「そういえば…」
「ま、まだなんかあるの?」
「確かナグザールって一億グランの賞金がかかってたような。」
「「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」」
さらっと殺した奴がなんかすごい奴だった。
グランはこの国の通貨の単位です。