魔法VS科学
--------中央政府総司令部へ--------
魔王軍の大攻勢により東部戦線は依然として劣勢であり、一部の部隊は包囲寸前の状態に立たされている。
東部戦線への早急なる援軍の派遣ならびに、優先的な物資の提供を要請する。
--------東部戦線戦略司令部より--------
ナシアが村に来て1週間が経った。
「おはようございます。」
「おはよう。…えっと…マナシニアさん?」
「マニャシナュニアです。」
「あっちょうどいいところに…えーっと…マニシニアさん?」
「ナシアでいいですから…」
村になじみつつあったマナシ何とかさん、
もといナシアは、からかわれつつも、村で唯一魔法が使えるということでいろんなところから引っ張りだこだった。
「マナシ何とかさん、
公衆浴場の火が消てしまったので火をつけてくれませんか?」
「ナシアです……わかりました。『ブレイズ』!」
ボッ
「ありがとうございます。助かりました。」
「いえいえ、仕事ですから………あれっ?」
「「平和だねぇ。」」
いつもの見張り台の上で平和を謳歌する僕とクロス
そこへ、
「あの、すみません!」
噂のマナシ何とかさんがやってきた。
「ん?どうしたんですか?マナシ何とかさん。」
「ナ・シ・アです!!さっき流れで大衆浴場の火をつけたんですけど…これって衛兵の仕事なんですか?」
「そう思うならつけなきゃいいのに…」
「面と向かってお願いされたら断れないじゃないですか……というかこの村の人達は衛兵を何だと思ってるんですか?」
「「いつも暇してる何でも屋。」」
「それでいいんですか貴方達は…」
「衛兵が暇なら平和ってことじゃないか。
平和に越したことはないだろ。」
「…確かにそうですね。」
「とは言え魔物やモンスターが出る可能性もあるにはあるんだ、だからこうして見張りをしてるんだよ。」
「…私にはクロスさんがシンジさんにチェスでボロ負けしてるようにしか見えないんですけど。」
「仕方ないじゃないですか、暇なのは事実なんですから。トランプもありますよ?ナシアさんもします?」
「マナシ何とかです…じゃなかった、ナシアです。」
「お前自分の名前間違えるとかどんだけいじられたんだよ…」
「はは…」
「おーい。シンジいるか?」
そんなこんなで見張り台に新たな客が
「…なんだよシグネ、僕は今忙しいんだ。」
「年中暇人衛兵職が何いってんだよ。」
「それは俺とナシアにも喧嘩売ってるぞシグネ。」
「ナシア?
あぁ、最近話題になってる魔法使いさんか。」
「どうも。」
「まぁそれはそれとして、いいからつきあってくれよ。どうせ暇なのは事実だろ?来てくれたら面白いもん見せてやるからさ。」
「はぁ…しゃーねーなぁ。」
ということで暇人衛兵3人組はシグネに案内されて村の外れに来たのだが…
「あれ?こんなところに小屋なんてあったか?」
「いや、家で実験してると親父がうるさくてな。
大規模な実験するときはいつもここらへん来てるし、なんなら実験室を作ってみようってことで簡易的な小屋を作ったんだ。」
「最近村で見かけねぇなと思ったらそんなことしてたのか。」
「それで…これがお前らに見せたいものだ。」
そう言ってシグネが持ってきたのは、小さな懐中電灯くらいの大きさのある物体だった。
そして、
シュボッ
「「!!火がついた!?」」
「びっくりしただろ?」
「おかしいわ!詠唱も何もしていないのに火が付くなんて。」
「こいつは魔法じゃない。科学ってやつだ。
このなかには油が入っていてな、その中から出ているこの紐が油を吸い上げて、その紐を紐の端の直ぐ側にある小さい火打ち石で点火するんだ。
すると火は紐から吸い上げられる中の油を使って、紐がなくなる、もしくは油がなくなるまで燃え続けるというわけだ。」
得意げに説明しているが、その理論は僕が教えたやつだ。
でもちょっと理論を教えただけですぐ作ってしまうあたりやっぱりこいつは天才である。
「魔法が使えない人でも使える便利な道具として量産すれば、これで俺も大金持ちに…フフフハハハ。」
「いや、まぁ確かにすごいけど、でも、油変えたり紐変えたりしないといけないんじゃないの?
だったら魔法のほうが断然いいわよね。」
何故か対抗意識を燃やしたナシアが挑発するように言い放った。
「いやいや、魔力を使い切ったら何もできない魔法使いさんにそんなこと言われてもねぇ。」
それに負けじとシグネも言い返す。
「いやいやいや、初級魔法のブレイズすらも使えなくなるほど魔力を使い切るなんて初心者くらいの物よ。
私みたいなちゃんとした魔法使いならそんな失態は犯さないわ。」
「だとしても使い切った魔力は睡眠を取らなければ回復しないんだろ?その点こいつは何時でもどこでも使える。油と紐なんてそこら辺に安価に売ってあるしな。」
「魔法っていうのは、なんでもできるのよ?
貴方のいうカガク?とやらは何ができるの?火をつける、それだけ?残念、確かに火をつけるという点だけをみれば優秀でしょうけど、それ以外何もできないのなら、魔法に勝ったとは言えないわよ?」
「誰が科学が火をつけるだけだと言った。火は数ある科学の一つでしかない。そいつの持っている武器だって俺が作った科学の武器だ。」
「なら決着をつけましょうか。貴方が上か私が上か。」
「望むところだ。テメエの吠え面拝んでやるよ。」
「…なぁシンジ止めたほうがいいかな?」
「やめとけ、面白そうだからこのまま見てようぜ。」
「それもそうだな。」
かくしてヒートアップしたその場のノリと勢いによって魔法と科学の決戦が始まった。
-------東部戦線戦略司令部へ--------
援軍の派遣については受理するが、優先的な物資の提供は難しい。
現状1800kmにも達する東部戦線はそれを支えるだけでも精一杯であり、優先的に振り分けたとしても全軍を支ええるには至らない他、これ以上の物資の徴発は国自体が傾きかねない故である。
--------中央政府総司令部より--------