『勇者誕生』
グラントニュース号外
新聞を見ていた僕の目に、そんな見出しが飛び込んできた。
『昨日、我らがニューグラント王国の第二王子、メルス・ライトさまが新たな勇者として教会の洗礼を受けました。
王子は「我が国民を危険にさらす魔物どもの好きにはさせない。正義は我らにある、必ずや魔王を討ち取り世界に平和を取り戻す。」
との意気込みを話されており………』
「王子様が勇者か……
今の今まで王家と勇者の関わりなんて発表されてこなかったわけだし、十中八九国威発揚のためだろうが、まぁこれで首都の勇者騒ぎは収まるだろうよ。」
クロスが僕の新聞を覗き込みながら言った。
そんな首都とは裏腹に…
「平和だなぁ。」
「平和だねぇ。」
前回のスライムの発生以降、魔物はおろか、モンスターすらもほとんど出てこなくなったのである。
「平和なのはいいんだけど、ここまで平和だとなんか不気味だな…嵐の前の静けさみたいな感じがする。」
「おいクロス、そんなフラグみたいなこというなよ。」
「フラグ?」
「あぁ…いや、何でもない。」
とまぁそんなこんなで、平和な毎日を過ごしていたある日。
ドゴオオオオオオオン!!!!!
村の外れの草原で、平和な村には似つかわしくない轟音が轟いた。
「ハハハハハハハハハ!見たか!?今の爆発!最高だろ!?もう最高だろ!?ハハハハハハ!笑いが止まんねぇ!」
爆発の原因はやけにハイテンションなこいつ、
シグネである。
「いったい何を作ったんだキミは。」
「前に銃作ったときに教わった火薬を大量に作ってみたんだよ、そして、作れるだけ作った火薬を壺いっぱいに詰めれるだけ詰めたらこうなったんだよ。」
要するに…
こいつはとんでもない爆弾を作り上げたわけだ。
「いや〜やっぱり爆発は気持ちがいいな。」
爆発地点にはかなりの大きさのクレーターができており、小さめのキノコ雲もできていた。
マジでどんだけの物作ったんだよ。
「なぜだろう。爆発って単語を英語で叫んでみたい。」
「やめろ。」
「シグネ!さっきの爆発はなんなんだ!人に迷惑をかけるのもいい加減にしろ!」
村に帰ったシグネを叱っているのはシグネの父親であるゼネルである。
かなり評判のいい職人であり、わざわざ首都からも客が来るという。
厳格な人であり、いつもシグネを叱っている姿は村の人にとってみれば日常茶飯事である。
そして、
「迷惑にならないようにわざわざ離れたところでやったんだろうが。文句をつけられる筋合いはないね。」
「例え離れていたとしても音や振動は来るんだ!
それが他人の迷惑になることがわからんのか!」
「いやいや、そういうことじゃないの。
僕は何か悪いことをした?
とんでもない。たとえしたとしてもあそこは村の外。
村のルールは適用されないよ。
ルールの範囲外でルール違反をして何が悪いんだ?」
「だいたいお前は、その態度からしてなってない!
親に向かって何故そんな口がきけるんだ!」
「だーかーらー。親に向かって敬語を使わなければならない何てルールがあるの?ないよね?
何でそんなルールもないのにさも当然かのように主張できるかのほうが僕はわからないね。」
この親子喧嘩もいつものことだが…
大通りのど真ん中でするのはやめてほしい。
シグネとゼネルの親子喧嘩で道が塞がってしまうのもこの村ではよくあることだ。
シグネの実験に巻き込まれた翌日、エリカさんに呼び出された僕とクロスは冒険者ギルドにいた。
「魔法顧問?」
「はい。魔法攻撃しか効かない魔物への対策として、魔法使いがいない町や村に対して中央政府から魔法使いの方が派遣されるそうです。今日中に到着するという話なのですが…」
そんな話をしていたとき、
「こんにちは。アルカディアの冒険者ギルドはここですか?」
何やら聞き慣れない声が聞こえてきた。
僕らがその声の方に目をやると、そこには17か18歳程度の杖を持った金髪の女性が立っていた。
「はい。アルカディアはここですけど。
どうかされましたか?」
「申し遅れました。私、魔法顧問として派遣されました、マニャシナュニア=ニャフュテチュアと申します。」
「マナシ…なんだって?」
「マニャシナュニア=ニャフュテチュアです。」
「マナシニアイコールニャフテチア?」
「何で=も読んだんですか!?
…名前、わかりにくいですよね。
そうですね、では、ナシアとでもお呼びください。」
「わかりました。えっと貴方が今日来る予定の魔法顧問の方ですよね?」
「はい。今日からこの村の魔法的な防衛を担当します。」
「じゃぁ自己紹介しないとな。俺は、クロス。
この村の衛兵をやっている傭兵だ。
近接攻撃がメインだ。よろしく。」
「僕は、シンジです。同じく衛兵をやっています。
遠距離攻撃がメインです。よろしくお願いします。」
「クロスさんとシンジさんですか。
こちらこそ、よろしくお願いします。」
こうして、マナシ何とかさん、もといナシアさんも加えての村の警備が始まったのだが…
「平和だなぁ。」
「平和だねぇ。」
「…あれ?」
新しく人が来たからといって特に忙しくなるわけでもなく、相変わらずの平和な日々が今日もまた過ぎてゆくのだった。
マナシ…なんだっけ。