転移
異世界物です。
話は数分前にさかのぼる。
そう、あれは僕が家に帰っている途中のことだ。
欲しかったゲームをやっとのことで手に入れた僕を襲ったのは突然のゲリラ豪雨。
これは不味いと走り出した僕に雷が直撃した。
真っ白に染まる視界、程なくすると少しずつ視界が戻ってきた。
「…………?何が起こったんだ?」
やがて視界が完全に戻った僕の前にあったのは…
「?何で草原にいるんだ?それに天気も晴れてる。
どうなってんだ?これ。」
そして現在に至る。
現時点で分かっていることは3つ
1つ、自分は雷に打たれたということ。
1つ、今いる場所は雷に打たれる前の場所とは違うということ。
1つ、雷に打たれたにもかかわらず腕時計と携帯は無事だったということ。
以上のことから考えられるのは…
「僕…死んだ?雷に打たれたし、なんかよく分かんないとこにいるし…
いやまて、もしかしたら…異世界転生?いやいや、そんなラノベみたいなことがあるわけがない…
ともあれ、まず調べるべきはここがどこかということか。」
不明点は多いが、取り敢えずの目標は決めた。
いろいろ考えるのはそれからでも遅くはないだろう。
幸い、遠くに村のような物が見える。
まずはそこに向かうとしよう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
村に向かって歩いていたはずの僕は、もはやなりふり構わずに走りまくっていた。
なにせ、唐突に近くの茂みから虎や豹にも似た明らかに肉食動物ですみたいな奴がでてきたからである。
もしこれが本当に虎や豹なら一瞬で肉塊になってただろうが、相手はスピードは速いが、機動性が悪いらしくジグザグに走り回ることでどうにか逃げ切っていた。
だが、普段からインドアの運動なんてクソ喰らえな僕は逃げ続ける体力などない。
絶体絶命の状況だったその時。
突如飛んできた矢が、今まさに僕を喰らわんとしていた動物の近くに突き刺さった。
矢の飛んできた方をみると、いかにもアニメやゲームなどにでてくる冒険者のような格好をした人間が立っていた。
僕を襲っていた動物は、標的を彼に変えると一直線に突っ込んでいった。
だが、彼は慌てることなく飛びかかってきた動物の攻撃の下を潜るようにして避けつつ、動物の腹の真ん中にめがけて、ナイフを突き刺した。
その一撃で動物は倒れ、動かなくなった。
唖然としている僕の元へ、冒険者風の彼が近寄ってきた。
「大丈夫か?お前。」
「は、はい。何とか。助けていただきありがとうございます。」
「どういたしまして。お前、見たことない顔だな。俺はクロス。お前は?」
「田中真次といいます。」
「タナカシンジ?珍しい名前だな。どっから来たんだ?」
「山口県から…」
「ヤマグチケン?何だそれは?国の名か?」
「国は日本ですけど…」
「ニッポン?なんだ…ますますわからん。」
この時点で僕は気づいてしまった。
元の世界やあの世であれば、山口はまだしも日本が伝わらないのはおかしい。
だが、クロスは日本のことを知らない様子だ。
となれば答えは自ずと1つに絞られる。
ここは異世界だ。
「まぁいいや。お前、なんか見るからに訳ありな感じがするが、どこか行くあてでもあるのか?」
僕は首を横に振った。
「なるほど、じゃぁ取り敢えず俺の村まで来てくれるか?ろくな装備も持たず、このあたりをうろついていた事情も聞きたいしな。」
「わかりました、クロスさん。」
そもそも最初からその村を目指していたので案内があるならありがたい。
「別にさん付けなんていいよ。敬語もいらないから気楽に話してくれ。」
クロスはこの「アルカディア」の村の衛兵を請け負っている傭兵だそうで、この村の周辺の治安維持をしているらしい。
何故あんなところにいたのかと聞かれたので、事の顛末を話すと。
「……………………………………………………」
このザマである。
まぁいきなり『自分は異世界から来たんだ』と言われたら、『頭おかしいのかこいつ』となるのは至極当然のことなので良いのだが、これが事実なので非常にたちが悪い。
「…まぁ僕もいろいろ混乱してるし、無理に信じてくれとは言わないけど…」
「いや、異世界から来たというのは信じるよ。」
「信じるの!?」
「まぁ、よくこの世界で起こることだからね。」
どうやらこの世界は、5年〜10年の周期で異世界からの転移者が現れるらしい。
そのため転移者というのはあながち非現実的なことではないようなのだが、
「ただ、お前の場合はちょっと不可解な点があってな。」
「不可解な点?」
「あぁ。普通転移者っていうのはな、5年〜10年の周期で必ずこの国の首都に現れるんだ。
でもお前は、辺境のこの村に、前回の転移者からわずか1年しかたっていないこの時期に現れた。
他の転移者と比べて明らかに何かがおかしいんだ。」
「なるほどね。」
「でもまぁ、いま大事なのはそこじゃない。
お前が転移者だということは、この世界における生活基盤も、社会常識もないということだ。
ということで、助けてやった縁もあるし、しばらくの間は俺が面倒見てやるよ。」
「マジで!?いいの!?」
「あぁ、せっかく助けてやったのに野垂れ死なれても後味が悪いだけだからな。」
「ありがとうございます。クロス様ぁ。」
「様付けやめろ。こそばゆい。」
滅茶苦茶優しいクロスのおかげで転移後即死RTA世界記録の回避に成功した僕は、どうにかその日を明かすことができた。
飽きなかったら連載続けます。