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記者会見4 アリスの朗読会、あらすじを添えて

「それでは、柏木ヨウの身に起こった事をお話しします。少々お時間を頂きますが宜しいでしょうか?」


アリスが語る柏木洋の体験談は真に迫るものだった。

超然としたアリスの口調で淡々と語ったと思えば、時折、柏木洋として高校生らしい実感の籠もった語りでその時の感情を吐露する。


プロの噺家もかくやという喋り。

実際、アリスはこの日の為にキッチリ練習を重ねていた。

ここで同情を得る事が自身の印象につながり、興味を引くことが動画の収益に関わるからだ。


話は大きく遡り、最初の最初から順を追って行く。感情移入を引き出すためだ。


病気による、突然の失明。

ドリームフレームとの出会い。

そして、ドリームフレームで遊ぶデモンズエデン。

ゲームの中で洋は、美しい少女を作り登録する。


それがアリスの元になっていると、淡々と語っていく。


最先端ゲームを楽しく遊び、現実に戻った時にニュースで見たのがドリームフレーム事件の顛末だった。


不気味に思いながらも、就寝した柏木洋。


しかし、ソコで夢を見る。

デモンズエデンの世界に入った夢。


チュートリアルの爺さんとの出会い。


ゲームならそこでキャラクリが始まって少女の姿に変わったはず。

なのに、始まったのは戦闘だった。


なんとか殺した。

しかし、ゲームのような高揚感はなく。

セーブした所で夢から醒めた。

ずっと夢だと思っていた。


「思えば、あの時殺したのも人間だったんだ。チュートリアルの爺さんに入った人間と俺は殺し合いをさせられた」


美しい少女の姿で、荒っぽい少年の語り。

だが、壮絶な物語に、誰も言葉を挟めなかった。


いつしか皆がアリスの話にのめり込んでいた。


次の日。


何故か見えない目が見えた気がした。

実際には目でないモノで『見える』ようになっていた。


ゲームで手に入れた『気配察知』の力だとアリスは語る。


「そ、それは、ゲームの技が現実で使えたと言うことですか?」

「はい、その通りです」


淡々とアリスが返すと、会場は今までと違う騒ぎが起きた。

……それは、つまり。


「魔法が現実に使えると言うことですか?」

「私はまだ、魔法を覚えていません、ただ、効果は出ないものと考えています」


アリスとして、淡々と語る。


なにせ、一時的にとはいえコチラに現れた霊獣やメガロドンは、コチラの世界に干渉出来なかった。


ただ、魔法が全く同じルールとは限らない。


「とにかく、未だに詳しいところは解りません」


そう言われても、中継を見ていた世界中の皆が落ち着かない気持ちを味わった。


エルフだけでなく、魔法までこの世界に現れようとしている。子供の頃に諦めた魔法使いの夢が脳裏を過ぎるのは必然だった。


しかし、夢のような話だけでは終わらない。


柏木が公園で見たのは危険なドラゴン。

洋はドラゴンを追いかけて、市内の山に登り、そこで大扉を発見する。


「その扉を潜った先は、異界化したデモンズエデンでした。私が見た夢は夢ではなかった」


コロシアムの中に転移して、洋は巨大なドラゴンに殺された。


アリスの話はソコで区切られた。

記者達は、え? と顔を見合わせる。


死んだら終わりではないかと。


「しかし、柏木ヨウは復活しました。普通なら死んだら終わり。ですが、ゲームならば主人公が死んでも何度でも復活する。そう、セーブポイントで」


アリスの言葉に再び会場がざわつく。

死からの復活。


不気味な概念だった。


世の権力者が喉から手が出る程に欲しがる技術だが、魔法と違い自然の摂理に反する恐ろしさが勝った。


実際、気持ちの良いモノでは無いと、アリスは語る。

死の不快感は未だに忘れられずにいると言う。


それに、復活出来るのは異界で死んだ場合のみ。

それも、死ぬ度に体はグールになってしまう。


グールの体なぞ、現実には存在しない。

もう夢から醒めて元の世界に帰ることは出来なくなった。



そこに現れたナビゲーションキャラ、ナビナビが説明してくれた。

元の人間に戻るためには、死んだ隠しボスの場所に辿り付くしかない。

欠けた魂を回収するのだと。


しかし、現実的に不可能であった。


「そこで私、柏木ヨウは死んだモノとして、いっそこの世界を楽しもうと、思い切り暴れてやろうと決めたのです。こんなゲームを一度も死なずにクリアすることなど不可能なのですから」


淡々と語るアリスの目には狂気と決意に満ちていた。


リアルになったデモンズエデンに飛び込んだ洋だったが、現実化した戦いに辟易するハメになる。

異界にゲームのような爽快感はなく、生臭い血が飛び散り、死体がビクビクと痙攣するグロテスクな殺し合いの場であった。


そんな世界で最初に辿り着いたボスにも人の魂が入っていた。

騙し合いの末に殺したヨウ。


しかし、ようやく辿り着いた聖堂で、ダークスフィアのアレックスに『侵入』される。


ようやく出て来た首魁たるダークスフィア。

記者達の質問が殺到する。


彼らの目的、悪魔召喚のキッカケなどなど。


だが、アリスに答えられる事は多くない。


「彼らは、いまの私のように悪魔の体で現世に降臨する事を望んでいたようです」


アレックスはギターのためという下らない理由。

しかし、現世に降臨するために万全にキャラメイクされた肉体は、あまりにも強かった。


「とてもじゃないけど、敵いませんでした。足を斬られ、逃げ続け、首を飛ばされ。転がった先、鐘楼の中に居たのがアリスでした」


そして、アリスの体に『切り替わる』


そうして、二つの体を使い分け、アレックスを撃退。


勝利はしたけれど、紙一重。

あまりにも絶望的な攻略に心が折れかけたその時。


「アリスの体なら、聖堂の鏡から『柏木洋の世界』へ侵入出来る事が解ったのです」


そこからは、榊さんも知っている通りだとアリスは語る。


別班に連れ出され、FBIから尋問を受けた。


「アイツら、拘束衣を着せた上で、机にガンガン頭をぶつけて尋問しやがって。今度会ったらぶっ殺してやるって伝えておいてください」


ニコニコとそう語る姿には、本当にやりそうな怖さがあった。


「そうして、何日も監禁と事実確認が続くなか、始まったのがラーメン屋ダンジョンの攻略でした」


どうやっても異界には干渉できない。二千人を救う為にはゲームの攻略が必要。

だが、攻略に必須なダンジョンが異界のあるべき場所にはなかった。


「先ほど、ケビン准将から説明があったとおり。波木野市と異界化したデモンズエデンは影響を受け合っているからです」

「いや……しかしですね」


榊が待ったをかける。


それが記者達にはピンと来ないのだった。

影響を受けていると言ってもだ、記者達はドラゴンを見た事もないし。超常現象の話も聞こえてこない。

ドリームフレームにダンジョンの扉が映ると言っていたが、その辺に突然現れるモノなのか? と。


「では、まずはコレを見て下さい」


モニターに表示されたのは、デモンズエデンの地図だった。

いかにもゲームの攻略マップ。

古びた地図には、古城の場所や、ドラゴンの住処などが書き込まれている。


「そして、コレが波木野市の地図です」

「あっ!」


モニターの中で重ね合わせれば、確かに一致する。

川の位置、山の位置。砦とショッピングモールのように、一部のランドマークまで。


「波木野市にはイリーガルソフトの開発拠点があります、ゲームはデモンズエデンをモチーフに作られていたのです」


それ故に、なのか。

それとも、全くの偶然なのか。


とにかく二つの世界は連動している。


「そうして、デモンズエデンから消えたダンジョンを探すと、波木野市の同じ場所、ちょうどラーメン屋の駐車場に扉が出現していたのです」


再びザワめく記者。

ようやく、ルールめいたモノが飲み込めた。


ゲームと連動したダンジョン攻略。

まるでARイベントのような仕掛けが、現実に起こっている。


現実側と、異界側、両方からゲームを攻略するアリス。


「おいおい、スゲェ事になってきたな」


記者の一人が慌ててメモを取る。ゲームの地図をダウンロードして、色々な場所の一致を探る。


コレが面白くならないハズがない。

とびきりのニュースになる。


なにせ、映像まで用意されている。


モニターにはゴブリンを斬り殺すアリスの映像が大写しになっていた。

どんなファンタジー映画よりもずっとリアルで強烈な絵。


「こりゃあ、一大事だぞ!」


ニュースバリューは十分。

異界の動画を交えて、じっくり解説を貰おうとその場の全員が前のめりになった。

いや、世界中のお茶の間で皆が腰を浮かせて期待した。


……だが。

そうは問屋が卸さなかった。


「と、言うワケで、ラーメン屋ダンジョン。ショッピングモールダンジョン、サーミット山と死闘をくぐり抜け、アイテムや霊獣を揃えた私は、朽ちた協会に囚われたアンジェラを救出する事が出来たのでした。めでたしめでたし。ですが、これからも異界の攻略は続きます。みなさん応援よろしくおねがいします」


「……え?」


急に駆け足。

今までゆっくりと熱の入った語りがあったのに、途端にざっくりした説明になってしまった。肝心の映像も酷いぶつ切り。


「あの……映像は? 解説して頂けるんじゃないんですか?」


最前列の榊は当然、食い下がる。

だが。


アリスはニコニコだ。

もう、無機質で超然とした笑みはかなぐり捨てて、ウキウキで答える。


「はい、その辺りの私の戦いの様子はこの後、私のYouScreenチャンネルで公開します。みなさん高評価チャンネル登録よろしくお願いします!」


手を振ってご挨拶。


……言うだけ言って、おもむろに立ち上がる。

スタスタと歩いて、通用口へと消えてしまった。


皆があっけにとられソレを見送る。


――バタン。

扉が、閉まった。


「え? 今の締めの挨拶?」

「まさか……」


気が付いた時には後の祭り。


最重要人物は会見場を後にした。


……もちろん勝手にチャンネルの宣伝をするのも、勝手に退出するのもケビン准将との打ち合わせには無い行動だった。


アリスは、やりたい放題やって、逃げた。

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