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記者会見当日

「おーおー、凄い人だな」


窓の外を見て呟く。


今日は記者会見当日。

基地の中はマスコミで溢れかえっていた。


記者会見の会場はそこまで広くない。


基地で一番広い広報スペースを使う予定だが、希望者全員はとても入りきらなかった。

なにしろ、日本とアメリカはもちろん、世界中のマスコミから取材が殺到しているのだ。


もちろん、三日前なんて話じゃない。

俺に報せるずっと前、アンジェラを助けてすぐ。十日ぐらい前から内々に話は進んでいたようだ。


するとまぁ、ジャンジャン申し込みが来て大騒ぎだったとか。

仕方なく、日米の主要メディアに絞り、日米以外のG20各国に至っては代表者が一名のみの招待となっている。


ただ、それだけじゃとてもじゃないが収まらなかった。

仕方なく、今まで立ち入り禁止にしていた基地への取材をこの日だけは許可した格好だ。


結果、朝から来るわ来るわの大行列。ディズニーランドじゃねーんだぞ?


こりゃ、俺も迂闊に外には出られないな。

記者会見開始まで大人しくしているしかないだろう。



幸い、やることはある。

俺は鏡に向き直る。


今日ばかりは、多少はおめかししないとならないだろう。

記者会見での姿で俺のイメージが固定化される恐れがあるからだ。


「ふむ……」


鏡に映っていたのは少しキツそうな金髪赤目の女の子だ。

コレだけならまぁ、ただの美少女。

しかし、耳が長く尖っている。エルフ耳であった。


コレだけで、マスコミは大騒ぎに違いない。


だが、こんなんじゃ足りないよなぁ。

今の格好は昨日寝たまんま。黒のタンクトップにジーンズとファンタジーの欠片もない。

でも、こんなラフな格好でも似合っちまうんだから恐ろしい。


だが、記者会見にコレはマズい。

カッコイイ系の美女じゃイマイチだ。


俺がまだ未成年の学生だって事を前面に押し出すべき場面。


俺は巻き込まれた被害者。

可哀想な女の子。


そうアピールしておかないと面倒な事になる。


今日は一世一代の大勝負。マジで気合いを入れないとな。


一応、原稿は事前にチェックしてもらったし、殆ど頭に入っている。

問題なのは質疑応答。悪魔だなんだと騒がれると面倒だ。


「はぁ……」


俺はまず、制服に着替える事にした。

結局、コレが安パイだからだ。


学生服ってのは、日本人にしてみりゃ一気に近親感を覚える要素。


突然火星人がやって来たとして……それもいかにもなタコみたいなバケモノだったとしても。

学ランを着て学校に通い始めたらみんな結構油断してくれるんじゃないだろうか?


学校の制服ってのはそう言う魔力がある。日常の象徴。冠婚葬祭もコレで済むしな。


俺が大人しく学校に通っているとなれば、ファンタジーなエルフの姿が一気に身近に感じるハズだ。学校のみんなも遠慮なく耳を触ってくるぐらいに。


制服ってのは仲間意識を植え付けるのに最適。


と、着替えてからニッコリ鏡の前で微笑んでみたのだが……


「…………」


コレ、ヤバいな。

全然、日常って感じがしない。


アニメだろ。

リボンで髪を後ろに縛り、セミオーダーで体型にフィットするジャケットとシャツには、派手な柄と学年別のワンポイントの赤い差し色が入っている。

そこに追い打ちを掛けるのは、アホみたいに短いスカート、ニーハイソックス。


どこにも日常感がねぇよ。


日本刀を構えてみれば、新作アニメのキービジュアルみたいになっとる。


タイトルはなんだろう。『異世界帰りの人斬りエルフちゃん』コレでどうだ? ふざけんなっての。


いや、ホントどうだろう?

もうちょっと芋っぽくしといた方が良いかな?


いや、でも、一緒に登場するアンジェラもアレだよ?

二人並べばとても無理だ、目立たないとか。初めから破綻してる。


地味な格好をするよりも、俺が目立ってアンジェラを守ってやった方が良いだろう。


……そう、きっとそう。


だから、派手な制服を着るのはアンジェラのため、OK?


いや、まぁ……ね。

正直ちょっと楽しみになっている。


これ、世間にどう反応されるのか?


さっきも言ったが、大人しくて無害に思わせた方が得だ。

だけど、それじゃあ俺らしくない。


皆が腰を抜かすような、鮮烈な印象を残したい自分が居る。

自分の姿を見て、改めて自覚した。


目立たない可哀想な女の子ってのはやっぱナシ。ガラじゃない。


大体にして、俺はいつ死ぬか解らない。

明日、異界化したデモンズエデンごと消えたって不思議じゃないんだ。

精々、忘れられない存在になってやる。


なにより、ド派手な美少女の方がずっと好みだ。


いつもより派手目な化粧なんかしちゃったりして、ちょいと口紅を濃いのに……

いや、やり過ぎか?


そんな事より大切なのは目力。目が印象を左右する。


いよいよ、使うか……

目に悪そうと今まで避けてきたマスカラ。


この体、元々睫毛はとても長くてボリュームもあるのだが、睫毛も金で色味が薄いせいか少し儚げな印象になっている。


それを、マスカラで黒くする。ボリュームも更に増す。


すると、どうだ?


「ヤバいな」


付け睫毛みたいな異様なボリューム。

やり過ぎて、すこし滑稽だろうか?


でも、違和感がない。盛りすぎた平成ギャルよりずっと自然だ。


元々、人間より少し目が大きいからだろう。

何となく似合っている。


いや、基準がおかしいか?

リアルに考えれば、どう見てもやり過ぎだ。


だが、アニメを基準にしたらコレだっておかしくない。

そういうデザインもアリかなと錯覚する。


本当に、アニメを基準に考えてしまいそうになる。

エルフの体がそうさせるのだ。


現実か、アニメか。


どっちをとるかと言えば、断然アニメ系美少女だ。


とことんやってやろうじゃないか。


次に取り出したのはアイライナー。

動画を見ながら、アイラインの引き方を確認する。

要求されるのは、プラモデラー顔負けの繊細な作業。だが器用さが人間離れしている俺には問題無い。



そして、トドメに赤いアイシャドー。

そんなに派手に塗ったつもりは無い。


……だが。


真っ赤な瞳に、赤いアイシャドー。

睫毛とアイラインで、いつも以上に目が大きく見える。


禍々しいまでに鮮烈だ。


さて……

メイクを終え、もう一度鏡に向き直る。


「ヤバいな……」


何だよコレ。

見ているだけで呪われそうだ。


強烈過ぎる目力。

意志の強さにギラギラ輝く赤い瞳を強調する。


化粧とは、古代の呪術から始まったと聞いた事がある。

ソレも納得。


俺の美しさは、美しさと禍々しさをどこか両立させていた。


アニメみたいな美少女って所から大ハズレしていない。

だが、ソレを現実に顕現させてしまったら、畏れをもたらす「ナニか」であった。


「ハァ……ハァ……」


しばらく、息が止まっていた。

自分で自分のギラつく瞳に飲まれていた。


「もしも、コレで出て行ったら、どうなる?」


馬鹿な考えだ。

美しさの度が過ぎて、見ているだけで呪われそうだ。


タダの人間だとアピールするには逆効果。


だが……


「ぶちかましてやる」


何故だかハラは決まってしまった。

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