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ラーメン屋ダンジョン3

さて、雑魚掃除は済んだ。


実のところ、全部始末する必要はなく駆け抜けても良かったのだが、イレギュラーを考えると倒した方が安心だった。

全部倒したからこそ、面白いアイテムも手に入ったしな。


「籠手だな」


ゲームでも確定で手に入るアイテムだ。部屋の一番奥の宝箱から手に入れた。

革にところどころ金属で補強されてる西洋風のグローブである。和装のアリスには似合わんかもだが、まぁ無いよりマシだろう。


「さぁて、行きますか」


嫌らしい事に、ボス部屋は入ってくる時には気が付かない様に出来ている。部屋の奥で宝箱を取って、なんだコレだけか……と振り返ると脇に抜ける通路が目に入る。

そんなデザインなんだとか。


まぁ、俺はもちろん事前説明で知って居た訳だが、現実化した世界でもそのギミックは健在のようだった。


振り返って初めて気が付くように、岩肌や石柱の角度が絶妙に配置されている。本当に嫌らしく凝った世界だなオイ。


脇道に入ると、すぐにボス部屋が見えた。元々そんなに広いダンジョンではない。


「行きますかぁ」


扉の前には護衛のゴブリンが居るが、たった二匹では敵じゃない。あっさり殺してボス部屋に突入する。


ボス部屋の大扉を開けるのは毎回緊張するんだよな。

ゲームでも緊張するのに、命懸けならなおさら。


「よっと! へー、ふぅん……」


扉を押し開けた先は動画で予習した通りであった。

岩の隙間から滝のように水が湧き、小さな泉を作っている。

天井付近には大きな光蟲が止まっていて、強い光で周囲を照らしていた。


そんな中、泉の前に一際デカいゴブリンが一匹。

部屋に入るなり、ズンズンとコチラに近付いてくる。


目の前に立たれると、大きな陰が俺を覆って暗くなる程。

そうは言っても、元の俺の体と同じぐらいの身長か?160cmも無い今の体だと巨大に感じる。


さて、コイツは『肉入り』か?

この世界に囚われた二千人の内の一人だろうか?


「Hello」


英語で挨拶しちゃったりなんかして……

いや、自動翻訳されるから意味ないドコロか、下手すりゃ誤訳されてマイナスでしか無い行動だ。俺は思いのほか緊張している。


で、どうよ?


「ギィ? ギギギッ」


あ、肉無しですね。


ゴブリンは何度話し掛けようと首を傾げるばかりであった。


そんな悠長にして大丈夫かって?

ここのボスは『武器を抜くまで攻撃してこない』タイプらしい。


あくまでゲームの話であるが『戦意を見せなければ襲って来ない』ってのは現実だって特別おかしな話ではない。現実化したこの世界でもちゃんとこのルールは遵守されているようだ。


中身が人間なら、このルールだって、当然破られていただろう。


まぁ、気持ちは解る。

ボスとは言え、序盤のゴブリンの中に入りたいってヤツは居ないわな。

そうとなれば気を使う事も無い。


「オー! イエスイエス、サンキューサンキュー! マイベストフレンド」

「ギィ??」


なんか適当な英語を言いながら、フレンドリーな仕草でベストな間合いを調整――そして。


「居合ッ斬り!」


武器を抜くなりいきなり斬った。コレが本来の居合斬りの使い方だろう?

実はここ数日、居合の練習を重ねてきたのだ。その成果は如何に?


「ギィィ!」


効いてる! 首に入った一撃はHPの壁に阻まれて一撃とはならないものの、派手な出血をもたらした。しかもコイツはショックで武器の棍棒まで落としてしまう。


「死ねッ!」


追撃に足を刺す。ギャアと悲鳴をあげて片足を押さえるもんだから、体当たりをぶちかます。ゴブリンリーダーは堪えきれず地面に転がってしまう。こうなればしめたモノ。


踏みつけてザクザクと刺しまくってやる。

するとまぁ、喚くこと。


「ギャッ! ギャー」


知るかボケ! 戦いの最中コケる方が悪い。甘えんな!

ゲームならダウンした後の無敵時間やら怯まない時間やら有るが、現実はそうじゃない。

同じ程度の実力ならば、一度隙を晒してしまえば挽回なんて不可能なんだ。


「ハァハァハァ……」


ボスをあっと言う間にぶっ殺した。

なのに気分は晴れない。


一歩間違えれば、俺もこうなるって事なのだ。ちょっとした隙にコケたり足を挫いたりしようモノなら、立ち上がる事すら出来ず死へ一直線。

コイツは体格も男の俺に近い。グデッと倒れたゴブリンリーダーの死体が自分の姿に被って見えた。


「忘れよう」


俺は首を振って切り替える。

髪の毛がバサリと跳ねるのが、今のエルフの体を思い返させてくれた。


「さてと……あったあった」


ボスを倒した事で部屋の隅にあった脱出オーブが輝き出している。

ダンジョンのボスを倒すした後は、触るだけで地上に帰還出来る備え付けのアイテムだとさ。コイツが無ければ死ぬまでダンジョンに囚われるトコロだった。ほっと一息。


だが、脱出はまだ。

アイテムを回収してからだ。


むしろソッチがメインイベント。


「さぁて、出て来ますかね?」


ゴブリンが奉る祭壇で、聖杯を手に入れる。


この聖杯こそがゲームのメイン回復手段。願うだけで聖杯の中に霊薬が満ちる。

もちろん回数制限があるが、有ると無いとで雲泥の差。


で、ソレを手に取る時にちょっとしたイベントがある。

どこからともなくこのゲームのメインヒロインが現れるのだ。


ゴブリンに奪われた聖杯を取り返してくれてありがとう、とお礼を言って使い方までレクチャーしてくれる。

そんで、悪魔を倒すつもりがあるなら森を抜けた先のログハウスに来てくれとお願いしてくるのだ。


……そして、このヒロインがプレイヤーのレベルアップシステムを開放してくれる。

つまり、ここでヒロインが出てこないようなら俺のゲーム攻略は頓挫してしまう。Lv1でクリアなんて酔狂な真似をする気は無いのだ。



緊張しながら、祭壇の聖杯を取り上げる。


「ふぅ……」


手に取って、しばらくの間。

すると、洞窟の湧き水が止まる。


ゴブリンは聖杯の力で水を手に入れていたと、そういうフレーバー設定がこちらでも生きている。

そして、帰ろうと振り向くとそこにヒロインが居るはずなのだが……果たして?

緊張しながら、俺は一気に振り向いた。

すると……


「wh……ねぇ? ココどこなの?」


居た! このゲームのメインヒロイン。通称レベルアップちゃん。

そして、セリフが違う! 反応がおかしい。突然のワープに戸惑った反応。


やはり! こいつ、『肉入り』だ!


当たり前だ。

ゲームのヒロインだぞ? 二千もの魂が入って、誰もヒロインになろうとしないハズがない。

本人に自覚が無いままにワープしてくるってのは意外だが、全く想定してなかった訳じゃない。あらかじめ質問内容は考えてある。


「落ち着いて聞いてくれ。まず、君の名前は?」

「あなた、エルフ? それにこの洞窟! まさか最初のイベント? あなたが主人公なの?」

「そうだ! 時間が無い。キミの名前と、どこに居るかを教えてくれ」


俺は必死に呼びかける。

まず、時間だ。


ゲームでは、ヒロインは言いたい事だけ言って煙のように消えてしまう。同じなら、時間制限ありと思って良いだろう。


第二に、名前だ。

中の人の本名が知りたい。その人のパーソナルデータを調べて協力を仰ぐんだ。彼女がレベルを上げてくれないならば、俺の攻略は早々に詰んでしまう。


第三に、居場所だ。

……実は、森のダンジョンが見つからなかった時点で、俺はヒロインが待つログハウスに向かっていた。

が、もぬけの空。ヒロインは居なかったのだ。


森の中に隠されたダンジョン。

当然気が付かずに先に行ってしまうプレイヤーも少なくない。


だが、森を抜けた先にある思わせぶりなログハウスに入れば、ヒロインが聖杯を取り返してくれと頼んでくる。依頼を達成する事で、彼女はレベルアップに協力してくれるようになるってワケだ。むしろコッチが正規ルート。


なのに、ログハウスにヒロインが居なかった。

これでは俺はレベルを上げることが出来ない。


居場所を訊くのは絶対なのだ。


「どこに? キミの名前は! 頼む!」


俺の呼びかけに、ヒロインは困惑する。


「え? わたし? ティア」

「違う! 本名! フルネームで!」


ティアは、ゲームでの名前だ!


「え? あの、わたしアンジェラ・ナイセル」

「アンジェラ、ないせる……ね」


必死に記憶する。

俺はこの時、一部始終を見られ記録されているとは思わなかったからだ。


「それで、あんたはドコに居る? 普通はログハウスで待ってるハズだろうが!」

「それより! なんなのこれ、意味わかんない。ゲームの世界で全然ッ、夢が醒めてくれないの!」

「落ち着いて! この夢は『醒めない』キミはゲームに囚われた。俺は助けに来たんだ。ドコに居るんだ! 答えて!」


まずい、ティアの、アンジェラの姿が消えかけている! 時間制限が迫っていた。


「え? ホントに? あの、なんか良く解らないままに攫われちゃったのよ! たぶんここは朽ちた教会だと思う」

「朽ちた教会!?」


マズいな、ソコには強力なフィールドボスが居るんだ。


いや、待てよ? そのフィールドボスが肉入りになって、ヒロインを攫って閉じ込めたんじゃないか?


醒めない夢。プレイヤーを殺せば醒めると思えば、レベルアップを制御するヒロインを閉じ込めるのが手っ取り早い!


マズいぞ……あのボスはフィールドを闊歩して、出会った序盤のプレイヤーの心を折るキャラクターなのだ。

そんなヤツに、レベルアップの鍵となるヒロインちゃんをキープされたら何も出来ない!


「ちょっと! 黙ってないで! どうしたら良いの?」


おっと、消えかけのアンジェラが縋りついてきた。

彼女を安心させなくては、自棄になられたら溜まらない。


「大丈夫、安心して。必ず助けに行くから!」

「う、うん……」


キリッとした顔で宣言すれば、アンジェラは頬を赤らめ肯いた。

効果は抜群だ。美少女は女の子にも効果があるのだ。


腕の中でアンジェラの感触がかき消えると。一人になった洞窟でホッと一息。

やることは決まった。後は脱出だ。


俺は脱出オーブに触れる。

オーブが強烈な光を放ち、辺りは白に包まれる。


「んんっ?」


恐る恐る目を開けると、そこは?


「帰って来たか」


見慣れたラーメン屋の駐車場だ。俺はゴブリン蔓延るファンタジーな洞窟から、現代社会に戻ってきた!


「おーい!」

「無事か? 怪我は」

「やるじゃないか!」


するとまぁ、自衛隊や米軍の方々がゾロゾロと湧いてきた。

どこにそんなに隠れてたんだよってぐらい。取り囲まれて揉みくちゃにされてしまう。秘密作戦はどうしたんだって話。


とにかく、俺は初めてのダンジョン攻略に成功したのであった。

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