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デモンズエデン

おぉ!


コレがフルダイブゲーム!


まず俺はギュッと手を握り、次に指を一本一本開いていった。


「スゲェな」


10本の指が自在に動く。

こんな事が出来るゲームは今まで無かった。


なにより、この世界なら目が見える!

広角レンズで歪んでいない景色を見るのはいつぶりだ?

自分の目で見るってのはこうだったと思い出す。


……が、あまりにも薄暗い。


ここは、洞窟の中だろうか?

ゴツゴツした岩肌を手探りで進む。

その時、だ。


「Hmmm, Another stray wandered into the garden again.」


耳元で声。

聞こえて来たのはしゃがれた英語ボイス。

俺は悲鳴を出そうとして……声が出ない。


声だけじゃない。

気が付けば、体がまるで動かない!


老人 ≪ふぅむ、また『庭』に野良犬が……≫


そして、視界の下には日本語字幕。


なるほど、解った。

これはゲームのイベントだ。


イベント中には勝手に動けないと、そう言う事らしい。


フルダイブゲームなのに、思ったよりも普通な感じ。

それでも、字幕があるだけありがたい。なにせ日本未発売のゲームなのだから。


英語力は無いので俺は字幕を読む。


老人≪ここは見捨てられた場所。昔々、一つの国が滅びる直前。悪王は国の全てを捧げてしまった。それ以来この地は悪魔の物となり、表の世界から切り離された。もう誰もこの地へは辿り着けん。偶然迷い込む貴様のような野良犬を除いてな≫


なるほど、悪魔に支配され忘れられた王国に主人公が迷い込む所からゲームは始まるようだ。


老人≪この地で生きるのならば、悪魔には逆らわぬ事だ。死にたくないのならな≫


チュートリアルジジイの話を聞く感じ、どうも悪魔と化した王を討ち、この地を浄化すれば元の世界に帰れるとか。

だが、とてもじゃないが無理なので諦めろ、と。

そう長々語ってくる。


俗に言う、押すな押すなって奴だな。


老人≪薄汚い亡者では見果てぬ夢よ、見るが良い。みすぼらしい自分の姿を≫


そう言ってジジイは松明に火を灯し、水瓶を差し出した。

覗き込んだ水瓶に自分の姿が映る。



その瞬間、キャラクリが始まった。


辺りは急に明るくなって、変なポーズをとったキャラクターが宙に浮かぶ。

 

急にゲームっぽくなったなオイ!


だが、コレで良い。

こんなのはリアルにすることはない。


俺の顔を取り込んだキャラが出て来ても気味が悪いだけだ。

ここは素直にキャラを作るべき。


そんで、凝る人はやたらと凝るのがキャラクリだ。

ただし、拘ったとしてもコイツはあくまでフルダイブゲーム。

自キャラはほとんど見えない。


そして、どんな見た目にしても性能に関係ないのがこの手のゲームの常識である。


重要なのは種族や職業、能力振りと相場が決まっている。

ソレだけ気をつければ十分。


だから、見た目に関するキャラクリってのはあくまで趣味の領域。

凝り性ならここでたっぷり数時間掛けるのであろうが、あいにく俺はそう言うタイプじゃない。


せっかくのフルダイブゲーム。

とにかく早く始めたかった。


ここは手っ取り早くランダム生成でいいだろう。


と、ランダムボタンを押すのだが、どうにもシックリ来ない。

この手のランダム生成は酷いバケモノが出てくるのが常とは言え、ボタンを押しても押しても、骨張ってガリガリの亡者ばかりってのはよろしくない。


とてもじゃないが、これじゃ戦えないだろう。

見た目には拘らない俺だが、そこんトコのリアリティには拘るタイプ。


しかし、考えてみれば無理もない。

これは地獄と人間界の狭間が舞台のダークファンタジー。


そんなトコに丸々太った人間が出て来たら興ざめだ。


……それにしたってガリガリのゾンビばかりってのはどうなんだ?


俺は虚空に指を踊らせてランダムボタンを連射。

と、次々と切り替える俺の指が止まった。


「お? おおっ?」


ランダムに生成されたのは女の子。

身長157cm。体重は42kg。


戦うには小柄でかなり細い。

だが、なにより目を惹いたのはその美しさだった。


艶やかな金髪に意志の強そうな赤い瞳。血色のよい頬に形の良い唇。なんとも可愛らしいキャラだが、不敵に笑う口元や鋭い眼差しには、負けん気の強さを感じる。


スレンダーで手足が長いプロポーションも相まって、まるでアニメのキャラみたい。


ゲーム好きなら解るだろうが、ランダム生成なんて不気味なモンスターしか出てこないのが普通。

実際、さっきまではそんなのだった。


それがどうだ?

こんなに可愛いキャラ、手作業でも作れる気がしない。

何時間かけてもだ。


ランダム生成の奇蹟だろう。

そこに不思議な縁を感じてしまった。


「でも、女キャラかぁ……ガラじゃ無いんだけど」


操作キャラは男にするのがポリシー。

なのに、俺はすっかり彼女が気に入ってしまった。

彼女を消したくなくて、ランダムを連打していた指が動かない。


「この子で決定!」


思い切ってOKボタンを押す。


後は、種族と素性の選択だった。

これらは能力にも影響するので慎重に選ばないと。


「へぇ」


面白いのは魚人を選ぶと皮膚が鱗に、石人を選ぶと肌が石のような質感になる所。


なにより驚いたのは、そんな特殊な種族を選んでも目の前に浮かぶ女の子の美しさがすこしも色褪せない事だ。


鱗の肌に、ギョロリとした魚みたいな瞳でも。

ざらざら石の肌に、ルビーの瞳が不気味に光っても。


それはそれで美しいと思えてしまう。


「やっぱこのキャラスゲーわ」


奇蹟のビジュアル。

だからこそ、一番綺麗なのを選びたくなった。


「となると、コレか」


選んだのは森人。

いわゆるエルフだろう。コレが一番可愛かった。


森人の特徴としては耳が長くてツンと尖っている。人間より色が白くて線は細い。少し神経質そうに見えるがソコも元々の見た目と相まって可愛らしい。


特性としては、魔力、器用さ、素早さは高いが、腕力、頑強、体力に劣る。


ゴリ押しが利かないピーキーな種族だ。

よほどゲームに自信が無ければ選ばないのが無難だろう。


「でも、可愛いんだよな」


もう、その一点で森人を選んでしまった。


で、最後は素性だ。

こっちはより直接的に、初期装備や初期能力に影響する。

高難度ゲームと言われているので、慎重に選ばないと詰みかねない。


「普通、エルフなら狩人や魔法使いなんだけど……」


狩人なら初期から弓を、魔法使いなら杖と魔法が使えるようだ。

弓はともかく、最初から魔法が使えるのはかなりのアドバンテージ。


だけど、これらの素性はどちらも遠距離戦がメイン。


一人で遊ぶのに遠距離戦だけってのはかなりセンスを求められる。


なぜって、魔力も矢も有限。

きっちりリソース管理をして計画的なプレイが必要になるのが普通だ。

日本語攻略サイトもないゲームでソレは辛い。


なにより、折角のフルダイブゲーム。思い切り体を動かしたい。

目が見えない俺にしてみれば、魔法よりそっちに魅力を感じる。


他の素性を見てみよう。


「うーん」


剣士、盗賊、剣闘士。この辺りは想像がつく。

だが、囚人ってのは何が強いんだ?

変わった所だと占星術師なんてのも。

バフが主体で、隠し通路やマップを見通す能力があるとか。


「でも、暴れるならコイツかな」


サムライ。

刀が初期装備の素性だ。

俺は剣道経験があるし、フルダイブゲームで通用するのか試してみたい。


「でも、森人との相性がなぁ……」


遠距離戦主体のエルフとバチバチに斬り合うサムライでは食い合わせが悪そうだ。


……いや?

どうも刀の威力は器用さ依存。体力が少ないのも回避特化でなんとかなりそうだ。魔力だって魔法剣を覚えれば無駄にならない。


つまり、案外相性は悪くない。

俺は素性をサムライに決めた。


『このキャラクターで良いですか?』

YES

NO


最後の確認メッセージ。

俺は改めてキャラを確認。


目の前に立っているのは着崩したボロボロ羽織袴に刀を吊したエルフの少女。

和装に金髪赤目。すこしアニメっぽい顔立ちに尖った耳。そして刀。


「めちゃくちゃ中二っぽいな」


オタク臭い、コテコテの趣味キャラ。

露骨過ぎて友達に見られたら恥ずかしいレベル。


「MMOじゃないから、良いか」


誰に見せるモノでもない。

一人で遊ぶなら少々『痛い』キャラでも良いだろう。


俺はYESを選択。


「おぉ?」


瞬間、元の世界に戻った。

ここは洞窟の中。目の前には小汚いジジイ。


だけど目線がさっきよりも低い。

見下ろす手足も細くなっている。


水瓶を覗き込むと、可愛らしいお顔がこんにちは。

俺は本当にさっきキャラクリした女の子になったらしい。


そうやってペタペタと自分を確認している横で、構わずジジイは話している。


老人≪お前がどうなろうと知った事ではないが、ワシもかつてこの地に流れ着いた身だ。餞別代わりにくれてやる≫


と、ダガーを一本くれるじゃないか。

やだ、爺ちゃんツンデレ。


刀があるから使わないけどね。

コイツはきっと、初期装備の無い囚人とかの素性で大切になるヤツだ。


老人≪それと、鐘を見つけたら必ず鳴らせ。鐘楼の中だけは神が守ってくれるだろう≫


鐘?

爺の指差す先には、俺の背丈と同じぐらい小さな石のアーチ。

良く見れば、小さな鐘が吊されている。


「へぇ? アレを鳴らすんかな」


慣れない草履でペタペタと歩いて近付けば、思った以上にボロボロの吊り鐘だ。かつては敵襲を報せるために活躍したのだろうか? 強く叩くと壊れてしまいそう。


俺はダガーの柄で、そっと鐘を小突く。


――リーン!


甲高い音がした。


<<BELL RANG>>

目の前にデカデカとテロップ。


「おぉ?」


変化は劇的だった。


地面から燐光が湧き出して、周囲を囲んでいく。

光は次第に形を結び、柱が、屋根が、次々作られていくと、最後には色づいて実体を持つに至った。


和風とも洋風とも言い難いデザイン。

石の柱や彫金こそ西洋風だが、屋根や梁は木製でアジアンテイスト。


老人≪それが鐘楼だ。この地で唯一、神の加護を得られる場所≫


爺ちゃんの英語ボイスと字幕が流れる。

50メートルは離れているのに聞こえるのはゲーム的なアレだろう。


この鐘楼で回復やセーブ。ゲームの終了が出来る様だ。


ここを拠点にしろって事かな?

しかし、ここはあまりに薄暗く、狭い。

さぁ、どうするか?


老人≪まずは、その扉を抜けて外界を目指せ。ただし、気をつけろ、お前のような野良犬の慣れの果てが巣くっている。精々身ぐるみ剥がされぬようにな≫


なるほど、いよいよチュートリアルの開始らしい。

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