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エルフの美少女が現実に現れたら

エルフの女の子の姿で現代社会を戦うハメになってしまった。

もちろんコレには理由がある。


一番デカいのは、母さんが俺の長期休学を認めなかったからだ。元気なら学校に行きなさいと来たもんだ。

もう一つは、ゲームの攻略に現実世界の攻略が必須となってしまったから。


そんな訳で俺は今、ダンジョンの前に立っている。


「あー、こちらアリス。現着しました、どうぞ」

「こちらHQ、見えている」

「オーケー、じゃあ、突入します」


俺は金属の大扉に手をかける。

ここは幹線道路沿いのラーメン屋。その駐車場である。まだ早朝と言える時間ながらそこそこの客入りだ。トラックの運ちゃんが食べに来ているのだろう。大型が多く並んでいる。


そんな駐車場の隅っこに、堂々と構えているのだ。デモンズエデンの大門が。

俺がドラゴンに食われた天開山の駐車場を思い出して、少し怖い。


「HQより、待て、その前に装備を確認してくれ」

「了解、確認します」


指示が来たので何十回目かの装備確認。

まず、俺の長い耳にハマっているのは専用に調整されたインカムだ。コレで司令部と繋がっている。

次に、服装。俺の小さい体にぴっちりとフィットする真っ黒なバトルスーツだ。コイツが結構優れモノ。防刃性能はもちろん、殴られても内部を循環する液体が瞬間的に硬化して衝撃から身を守ってくれる。軍用に開発中の試作品なんだってよ。幾らするんだろうな?


次は武器だ。

腰の後ろに隠したのはコンバットナイフ。そしてショルダーホルスターにジグM17。

早い話が拳銃だ。


アメリカ軍で使ってる拳銃、らしい? 詳しくないから良く解らん。それでもみっちり練習はしてきている。筋が良いと褒められた。

そして、ガンベルトに差した日本刀。

コレは俺たっての希望で用意して貰った。もちろん普通の日本刀じゃない。現代科学の粋を集めて特殊合金で打ったモノ。切れ味も耐久性も半端じゃない。こう言うモノを趣味で作ってる人が居るんだなぁ。

実はアサルトライフルを提案されていたのだが、断った。コイツらなんてモンを日本に持ち込んでるんだよ。


当然ながら360度余すところなく銃刀法違反だ。

だが、許可は出ている。なんせ、俺のデモンズエデン攻略にアメリカ人サマ二千人の命が掛かっているのだ。それも2万ドルのVRギアを買える金持ちばかり。外圧に弱い日本政府などすぐ折れた。


困ったのはマスコミだ。世界中のマスコミが俺の動向を窺っている。

だからこんなコソコソと作戦を実行せざるを得なくなっている。


俺の傍に居るのは自衛隊から派遣されてきた遠藤さんという女性がたった一人。屈強なアメリカ軍人が我らが波木野市を闊歩していたら目立つからだ。

司令部はかなり遠くから俺を望遠で監視しているらしい。なんなら軍事衛星すら動かしてるとか。

ご苦労なこった。仕事で美少女のストーカーだ、そら精が出る事だろうよ。


思わず空を見上げ、にへらと笑顔を作ってみたりして。


「アリス、集中してください」


遠藤さんに怒られた。メガネでショートヘアのお堅い軍人さんだ。


軍服でこそないモノの、ラーメン屋の駐車場でリクルートスーツってのは隠れる気がないだろう。まぁ金髪エルフでピチピチバトルスーツの俺が何を言っても仕方ないのだが。遠藤ってのも偽名だろうな。俺のアリスってコードネームも酷いモンだが。


俺はため息をひとつ、報告する。


「あーこちらアリス。装備に問題ありません、どうぞ」

「HQ、よし、カウントダウン開始」

「10、9、8、7……」


カウントをしながら、俺は、ここ数日の事を思い出す。


まず、マスコミのワチャワチャが思い出される。インタビューやらなんやらとんでもない事になった。なにせ下着姿でお茶の間デビューを飾ってしまったからな。現実に現れた俺が着ていたのはボロ布みたいな下着であった。どうやらゲームの最低装備。これ以上は脱げない裸扱いの装備との事。


じゃあ、俺はボロボロの下着を脱ぐことが出来ないのかと言うと、こっちの世界じゃ普通に脱げた。風呂の心配をしないで済むのはありがたいが、脱いだ下着はアメリカで多角的な化学分析の最中ってんだから複雑だ。アメリカ様に何でも献上かよ。ブルセラ親父だって金ぐらい払うぜ?


次に、日本とアメリカの共同で尋問が行われた。共同ってのはお題目で実態は完全にアメリカ主導だった。根掘り葉掘り聞きやがるが俺に言わせりゃコッチは被害者。

お前らの国のバンドメンバーが起こしたテロに巻き込まれてんだよ。犯罪者扱いするんじゃねーと。


で、俺の事情説明が済んだら、次はドリームフレームや天開山の調査になる。

しかし、天開山も俺がドラゴンを見た公園も何もナシ。当然だ。あんなもんが見えたら大騒ぎになっている。

一時は、完全にフカしじゃないかと俺を疑う声まであった。


……だが、俺のドリームフレームのカメラ越しに確認して貰ったらさぁ大変。

あの、大扉がカメラに映っていたのであった。


俺の言葉が掛け値無しの本当だと証明された瞬間だった。


次に、俺が天開山の駐車場に向かわされた。もちろん軍用車の送迎で。

すると、俺は、俺だけは。生身のまま大扉が見え、そして触ることすら出来たのだ。エルフの体だから当然かもな、俺の体は現実化したデモンズエデンの影響下にある訳だ。


そして、扉が映るのは俺のドリームフレーム限定。他の市販品じゃ何にも映らない。


で、次。

俺と、俺のドリームフレームが特別なのは解ったので、俺のドリームフレームでデモンズエデンを立ち上げてみた。


すると、どうだ?


俺の体はかき消えて、デモンズエデンの中に戻ったのだ。

お陰でペラペラの病院服を着た姿をナビナビにからかわれちまった。


つまり、デモンズエデンを起動する事で俺は強制的に現実化したデモンズエデンの世界に飛ばされる事になるらしい。

科学者は血道を上げて謎を解明すると息巻いていたが、肝心の俺は現物を見れないからどんな感じかは解らない。


そんで、むりやりドリームフレームを壊したらどうなるかは危なくて試せていない。俺のドリームフレームが世界のホストになっているなら、二千人の魂もおじゃんだ。慎重にもなるだろう。


次に紹介された女が衝撃だった。

キリスト教カトリック、聖堂会派の聖骸騎士団のシスターだかなんだか。


彼女は……悪魔の専門家だったのだ。


クソ女め、俺を処刑すべきだと堂々と言いやがった。

だが、話を聞けば納得する部分もあった。それが、人間と悪魔の戦いの歴史


十四世紀始め、悪魔を崇拝する邪教がキルギス北部山岳地帯を根城にしていたらしい。こいつらは悪魔こそが世界を支配するべきと、今の世界の終焉を願い、一人の少女を生贄にしたんだと。


麻薬と魔法陣、生贄まで使った大規模な儀式をして、現れたのは小さなネズミがたった一匹と記録に残っているらしいから間抜けも良いところ。


ここまで真剣に聞いていただけに、なんだ、馬鹿らしいと俺は笑ってしまった。

実際、悪魔教団もその後はガタガタに分裂してしまったのだと言うから尚更。


いよいよ俺は鼻で笑ったが、シスターが言うに分裂の原因は悪魔召喚の失敗が原因では無いと言う。


……教団で病が蔓延し、命を落とす者が続出したのが原因……と。


やがて、その病はシルクロードを伝い、世界中で人々を殺しまくり、黒死病と呼ばれるに至る。



――ペストだ。



このシスターは悪魔がペストを持ってきたと、そう主張する。

もちろん証拠は無い。無いが、間違いないと彼女は確信していた。


或いは、画期的な兵器のアイデアを求めた集団があった。

ナチスドイツの話であった。


彼らは双子の片方を悪魔に捧げた。そうして現れたのはたった21グラムの血の様なインク。

そして残った片方を麻薬漬けにして、さぁ人を殺す兵器を設計せよと命じる。


そうして、画期的な殺人兵器が無数に生み出されたと、シスターは語るのだ。


悪魔への生贄。それは質量が重要だ。

21グラム制限を人類はなんとか突破しようとしてきた。


人間の体は何十キロもあるが、血や肉は生贄にならない。

人類は、牛や豚を食べて血肉にしている。言わば借り物に過ぎない。死んだら土に還り、自然の中を循環するのだ。

そんな中、人間が完全に自分のモノとして、悪魔に捧げられるモノがひとつある。


魂だ。

魂の重さは21グラム。


ネズミ一匹の重さ。それで何百万人もの人間を殺せるウイルスを持ち込める。兵器を作れる。


ならば、42kgの少女がこの世に現れたらどうなるか?

悪魔そのものがこの世に現出したに等しい。


だから、シスターはキレ散らかして俺の死を叫ぶ。

困ったことに、聖堂派の過激派はマジで俺を殺そうとしているらしい。

テロを企てるような集団では無いらしいが、怖さはある。


コレばっかりは二千人の犠牲があって助かったとも言える。アメリカ政府が守ってくれるだろうからだ。


そして、最後。

デモンズエデンの開発メンバーとの会談だ。


攻略情報を教えてくれると期待したが、驚いた。

現れたのは日本人。

なんと、デモンズエデンの開発会社は我が波木野市にあったのだ。

ドリームフレームを作ったのはアメリカのドリームスカイ社だが、デモンズエデンを開発したのは日本の大手ゲームメーカーって話は聞いた事があった。


ゲーマーなら誰でも知ってるイリーガルソフトウェアの開発と言う。

いやいや、かのイリーガルソフトは東京に本社があるのでは? と聞けば、開発拠点は波木野にあると言うのだから驚くしかない。


とにかく、日本語でやり取り出来るのは助かる。


攻略情報を色々聞いて、早速検証だ。


俺は最初に行くべき最も簡単なダンジョンの場所を教えて貰う。

森の中にある、小さな洞窟。敵は弱いゴブリンのみ。


ここを攻略して、まずは霊薬を手に入れるのが重要だと教えて貰ったのだった。


だが……向かった先に洞窟が無い。

どう探しても存在しない。ナビナビも混乱して匙を投げる始末。


霊薬は回復アイテム。回復手段なしでこのゲームをクリアするのは絶対に無理だと開発者からもお墨付きを貰っているだけに諦められない。


再び開発者に色々と話を聞く事になる。

その中で、驚愕の事実が発覚する。

なんと、デモンズエデンのマップは波木野市がモデルになっていると言うではないか。


言われてデモンズエデンのマップと波木野市の地図を重ねてみればあらビックリ。

色々なランドマークが重なるじゃないか。


エンドコンテンツであるガロン山は天開山の位置に来る。

まさか? という思いだ。デモンズエデンと波木野市が連動している??


そこで、ピンと来たのだ。


もう一度、デモンズエデンのマップと波木野市の地図を重ねる。


そして、導き出されたのがこのラーメン屋の駐車場。ここがデモンズエデンで言うところの最初のダンジョンの場所になる。


果たして、そこに金属の大扉があった。もちろん俺にしか見えない、触れない。

そうして、アメリカ主導。軍人さんに見守られながらのダンジョン攻略が決定した。

未成年を危険に晒して良いのかとすったもんだがあったが、どうせこのまま放置しても点滴で生き延びてる俺の体だって遠からず死ぬのだ。やるしか無い。


「3、2、1……GO!」


インカムに手を当てながら、カウントダウン。

俺は金属の大扉を開ける。

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