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邪霊侵入3

「チッ! やはりプレイヤーしか入れないか」


骸骨のような男がガンガンと鐘楼を叩く。壁など無いハズの鐘楼に、バリアのような半透明の壁が出来ていた。


「プレイヤーを殺しても変わらんか、忌々しい」


骸骨はチラリと首なし死体を見て、鼻を鳴らす。

その姿に、まだ学生だったであろう制服姿の少年を殺した罪悪感は窺えない。


「手間取らせやがって」


あろう事か、骸骨は少年の死体を蹴飛ばした。60キロは下らないだろう体が大きく吹き飛び、草むらへと転がった。恐ろしいまでの膂力であった。


「どうする? いや、ドコへ行った?」


焦燥に駆られる様子で骸骨は鐘楼に背を向ける。


「悪魔召喚は成功した。それは間違いない。93ポンドのソレはこの地に降り立ったハズなのだ。ドコだ? ドコに消えた!?」


掻きむしるように頭を押さえるが、髪の毛が無い頭に手が空を切る。


「こんなハズじゃ、グッ、ゴホ」


興奮のあまり、骸骨は咳き込んだ。


「想定よりもダメージがある。レベルも無いルーキーにこれほど追い詰められるとは……何もしないでも徐々にHPが減っている? やはり、血肉の無い体は痛みだけでないデメリットが……」


そう言って、骸骨は蹲る。


「ハァハァ、鐘楼以外の、侵入者でも使える回復方法を探さねば。もう一撃、食らっていたら不味かった」


首筋の傷を確かめ、独りごちる。


……もう一撃。

確かに、そう言った。


……良いことを、聞いた。


そうだ、聞いたのだ。


俺が!

『長い耳』で、

ハッキリと。


俺は鐘楼を飛び出した。

まだ骸骨は蹲ってコチラに背を向けている。チャンスだ。

圧倒的な身体能力があっても反応までは追いつかない。

今度こそ、一撃で、決める。


俺は着崩した着物をはためかせ、胸をキツく縛るサラシが緩むのも構わず、振りかぶる。腰に差した打刀。鞘ごと外し、振りかぶる。大きく大きく振りかぶる。背中にすっかり隠れる程に。


可愛い歯を食いしばり、細い腕から力を振り絞る。鯉口を弾き、カランと鞘が落ちる音。


「居合ッ、斬りッ!」

「なにっ?」


同時に、スキルを発動。

ゲームの中で下級悪魔を屠った攻撃の再現。

現実化した世界でも、きっと効く!


握り締めた刀。振り向いた骸骨の顔面に振り下ろす。


「ぐっ、ガァァァッ!」


決まった、殺った。


完璧な一振り、やってやったと手応えに口元が緩む。

長い金髪がはためいて、長い耳がごうごうと風の音を拾った。


そうだ、俺はエルフの女の子になっていた。

キャラクリで作ったサムライの女の子になっていた。


意味が、解らない。理由も、解らない。


死ぬ間際の夢? だったらソレで良い。

ソレでも、最期にコイツに一撃を食らわせた。

コレで、終わりだ!


俺は刀に力を込める。


「……?」


力を込める。込めている。

居合斬りだって、発動した。


なのに、切り裂けない!! あまりにも硬い!

HPの壁がぶち抜けない!


斬られながらも、骸骨は不敵に笑う。


「やっと、見つけたぞ!」

「あ、ぐぅ」


それどころか、反撃に剣を腹に突き込んできた。

向こうの攻撃は素通り。あっさりと腹を斬り裂いて、鮮血が舞った。

何と言う理不尽。


――なん……で? あと一撃。そう言っていただろうが!


いや違う、軽かったのだ。

最初の一撃は、無明剣にカウンター、ダガーで急所への一撃と、三つの補正が乗っていた。

一方で、さっきの一撃は背後から全力の居合斬り。しかし、42キロの女の子の一撃なのだ。男の俺が放った最初の一撃とは比べるまでもない。


あと一撃。

その一撃に至らなかった。


絶望に目の前が真っ暗になる。

いや、単純に腹へのダメージか。


よろけ、後ずさり、骸骨の剣が腹から抜けるも、足に力が入らず尻もちをつく。


「惜しかったな。やはり神は俺を見離さなかった。HPが僅かに残ったようだ」


そう言って、骸骨はふらりと立ち上がる。

俺は悔しさに歯噛みして、腹にグルグルと渦巻く不快感を抑え込む。だが、もう、勝ち筋が見えない。放っておいても腹からの失血で死ぬだろう。それほどのダメージ。


いや? 腹の傷がゆっくりと塞がっていく? だと?

どうなっているんだ? この体は?


「やはり、貴様か。4分の3オンスの魂。2000人分集めて、やっと93ポンドの体。貴様が、そうなのだな」


目の前に、骸骨が迫る。


なんだ? 何を言っている?


「貴様が悪魔なのだな?」


違う! 俺は悪魔じゃない。しかし、言葉が出ない。


「グハッ」


骸骨が、俺の腹を踏みつける。口から、血が混じった咳が飛ぶ。

骸骨の顔に掛かる。


これで少しでも隙が出来れば。しかし、そうはならなかった。血が掛かった骸骨の顔面にジュウと焼ける音と煙。なんだ? 困惑する俺をヨソに、それでも骸骨は余裕を崩さない。嬉しそうでさえあった。


「やはり、やはりか!」


血が掛かった骸骨の顔が人間のモノへと変じていた。


その素顔。コイツはダークスフィアのメインギタリストのアレックスで間違いない。いや、ニュースで見たアレックスの顔を更に端整に仕上げた様な恐ろしいまでのイケメンだった。


骸骨の体に、顔だけがイケメン。

何とも言えず不気味な姿。しかし、何だコレは?


驚愕する俺にアレックスが謳う。


「やはり、悪魔だ。悪魔の血肉を吸収すれば、私は人へと戻れる! 戻れるのだ!」


つまり、そうなのか?

悪魔を作る計画で、二メートルのイケメンをキャラクリしたが、悪魔の体には重量オーバー。42キロに併せるように、ガリガリの骸骨へと変じてしまったと。

だが、ソコまでしても、やはりアレックスは主人公には選ばれなかった。


そして、完璧に条件を満たす俺のキャラが、42キロのエルフの少女が代わりに悪魔として作られた。

俺がセーブした鐘楼で眠る様に待機していたのもゲームの再現。


ただ、その存在はイレギュラー。魂によって作られたモノ。ゲーム的には異物。

一方で生身のまま迷い込んだ俺の正体は? ……一応、心当たりがある。

ゲームでもキャラクリが始まる前はプレイヤーの身長に目線がある。

プレイヤーは、有る意味で最初だけゲームの登場人物。キャラクリ後に、作ったキャラに成り代わる。そう解釈出来ない事もない。


だからこそ、俺が異界に迷い込む主人公を演じるしかなかった。ただ、成り代わる先のキャラは既に悪魔として作られていた。余分に悪魔を作った分だけ主人公がダブってしまった。


そう言う事なのか?


そして、この男は悪魔の体で自分の隙間を埋めようとしている。

悪魔を吸収しようとしているのだ、コイツは。


ふざけやがって!


俺は刀を杖に、立ち上がる。

ボタボタと血が流れるに構わず、刀を握る。

そんな俺の姿を見て、アレックスは端整な顔を顰めた。


「血が勿体無いだろうが、待っていろスグに殺してやる」

「ハッ、返り討ちにしてやる」


景気の良い啖呵。しかし無理だと解っていた。朦朧としていても、目の前の顔だけ人間の奇妙な骸骨に隙が無い事ぐらいは解ってしまう。

まして、このエルフの体だって腹を貫かれ、早くも限界だ。火力だって足りない。

この体の特性か、直感でもって察してしまう。

この骸骨、まだそこそこ余力がありやがる。刺し違える事すら無理だ。


何かとんでもない事でも起こって、隙だらけの背中を思いっきり斬りつけたら、なんとか倒せるか倒せないかと言う程度。


しかし、この地に神は居ない。一対一の戦いで、そんな奇蹟は絶対に訪れない。



……いや?

果たして、そうか?


神は居ない。

だとしても、悪魔なら、居るのだ。


その時、俺には『勝ち筋』がハッキリ見えた。

トテトテと、三本足でみっともなく歩いて来る『勝ち筋』が見えたのだ。


思わず、笑ってしまった。


「ひひっ」

「気が触れたか、安心しろ。お前の体は俺が利用してやる」


目の前で、高く大きく両手で剣を振りかぶる骸骨。力の籠もった構え。

一撃で殺してくれるって?

優しいね。


でもな、

『俺』は優しく無いんだよ。


なにせ『悪魔』だからな。ひどく卑怯なんだ。

だから当然、背後から攻撃する。


「な、に?」


骸骨の腹からダガーの先端が顔を出す。

『俺』が、背後から貫いたのだ。

腹を破り剣が通るのは、HPが底をついた証拠であった。


「なにもの、だ?」


慌てて、後ろを振り返る骸骨。つまり、コチラに隙だらけの背中を晒す。

そして、振り返った先、骸骨を背後から攻撃した者の正体は?


『俺』だ。

『首』の無い、俺の体。

茂みから飛び出て、片足の無いまま、這うように近付いた。


さしもの事態。狼狽する骸骨。


「なっ? に?」

「やっほー、ナビナビちゃんだよ」


場違いなほど、明るく元気な声。

そうだ。


ナビナビはグールを操れる。

だったら、一度死んでグールとなった俺の体だって、操れる!

何とも皮肉な話じゃないか。


「会えて良かったな、ソイツがホンモノの悪魔だ!」


言いながら、俺は刀を振りかぶる。

後ろを向いた骸骨。隙だらけの背中目掛け、振り下ろす。


「ば、馬鹿なッ!」

「死んで、悪魔に詫びてこい!」


思い切り振り下ろした刀。


今度はHPの守りの無い体をバッサリと唐竹割りに斬り裂いた。


「やった……やったぞ」


俺は邪霊を、悪魔召喚の首謀者を殺した。

夢か現か。

それでも成し遂げたのだと、俺は意識を失った。

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