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ゲームの世界で暴れてみよう

「はぁ!」


グールの喉にダガーを突き刺す。

倒れてくる体を蹴飛ばし反動でダガーを引き抜けば、飛び散る返り血が口に入った。


「ペッ! クソ、こんなトコまでリアルなのかよ」


生臭さとエグ味に顔を顰める。

だが、この世界でも、俺は殺せた。


「やれるぞ! やってやる!」


俺はやけくそだった。


ゲームの世界で命懸けの大冒険。武器は粗末なダガー一本。

死んだら魂は失われ、グールになったまま人間に戻れないと来たモンだ。

上等じゃねーかとグールはびこる洞窟に飛び込んだ。

だが、現実化したデモンズエデンの生々しさは想像以上だ。


へばりついた返り血が不快で仕方がない。

なのに、顔を拭うタオルひとつ存在しないのだ。


「…………」


グールの死体に近付く。


ゲームだった時より、ずっと生々しく、気持ち悪い。

なにより、うっすら漂う腐臭がゲームではない事を伝えてくる。


ゲームと違い、ピクピクと痙攣する死体は、本当に死んだかどうかなんて解らない。

念の為だ、俺はグールの首にダガーを差し込み、体重をかけてざっくりと切断した。


そこに、場違いなほど明るい声。


「うわっ、猟奇的だねぇー、おっかない!」


宙を舞う光球。ナビナビ。

このゲームのナビゲーション機能。


……いや、違う。


「悪魔に言われたくねーよ」

「つれないなー」


拗ねた口調で飛び回る。


ふざけやがって。

コイツが、コイツこそが悪魔だった。


「いやいや、僕は異界の善良な一般人だよ? ……多分」


光球が瞬く。

トコトン馬鹿にしてくれる。


ナビナビが言うには、悪魔召喚の本質は異界の門を開ける事にあるらしい。

つまり、呼び寄せた地球外生命体を勝手に悪魔と呼んでいるだけ。


「こっちこそ被害者だよ、拉致されたみたいなモンだもん」


とはナビナビの弁だ。

プリプリと怒ってみせるが信用出来たモノじゃない。


俺は無視して切断したグールの断面を観察する。


頭を支える頸椎はもちろん、頸動脈っぽいモノも見える。

ランダム生成したテクスチャを貼り付けていたゲームとはまるで違う。

紛れもなく、ホンモノの生命体だ。


「うっ!」


気持ち悪さに目眩を覚える。


だが、やらなければ、俺もグールの仲間入りだ。

まずは徹底的にグールを駆逐してやる!


重い足取りで先を進む。

……進もうとした。


だが。


「ッ!?」


肩を叩かれた。


ビクリと体が跳ねる。

飲み込めなかった悲鳴を噛み砕き、飛び退いて振り返る。


ダガーを構えるその先に、首のないグールが立っていた。


「なっ?」


まだ、生きている?

頭部を失っても?


こんなのはゲームになかった。


どうすれば?

どうやって殺す?


呆然とする俺をよそに、目の前のグールはただ立っている。


やるしかない!


ダガーを構え、一気に距離を詰める。


「あー! 待って待って!」


ダガーが胸に食い込む直前。

脳天気な声がした。


目の前のグールから。

紛れもなくナビナビの声。


呆然とする俺の目前で、グールは両手を掲げる。


目の前に突き出されたのは頭部。

切断された生首だ。


その生首が喋った。

喋ったのだ。


ケタケタと笑いながらナビナビの声で語る。


「はーい、僕ナビナビちゃんだよ♪」


空っぽの首に頭部をはめて、ヤレヤレと肩を竦める。

どこかコミカルな動き。


「アハッ? 驚いた~? コレが僕の能力。死人繰りだよ!」


脳天気に笑いやがる。

聞けば、一度死んだプレイヤーへの救済措置。


ナビナビは倒した相手に取り憑いて、プレイヤーの味方をしてくれるのだとか。


なるほどな、そうでもないとこのゲームはクリア出来ないって事か。


俺は冷や汗を拭う。


「悪魔らしい力だなオイ」

「ふーん? じゃあ、僕の協力ナシの縛りプレイで頑張ってみる?」


おちゃらけた挑発。

だが、その通りだった。


ただでさえ鬼畜難易度の死にゲーだ。

縛りプレイをしてる余裕はない。


「僕だって帰りたいんだからね、お互いの利害は一致してるのさ」


ナビナビの言葉を信じるなら協力しない手は無い。

しかし、相手は悪魔だ。信用出来るのか?


いや、悪魔だからなんだ。

知った事か。なるようになれだ。


「じゃあ、よろしく頼むわ」

「え? ずいぶんあっさりだねぇ」

「まぁな」


考えても仕方ない。

死んだらそれまで。


俺がコイツと共闘した結果、世界がどうなろうが知った事か。

そんなの俺の責任じゃないだろう?


俺と悪魔の冒険が始まった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「元のゲームではね、ナビが居る状態で対応する敵を倒すと遺霊アイテムを落として、呼び出せるモンスターが増えていくシステムだったんだけどね」


ナビナビが言うには、死人繰りはもっとゲーム的なシステムだったと言うのだ。

プレイヤーが魔力を消費して死体を召喚。自動操縦でプレイヤーを助ける。


「なぜだか、ホントに僕が死体を動かすシステムに変わってるみたい」

「へぇー」

「そっけないなぁ」


そうは言うけど、ゲームが現実になった事に比べりゃ些細な問題。

一人で攻略するよりずっとマシだ。


「頼りにしてるぜ」

「ほーい♪」


そっちこそ軽いなオイ。大丈夫かよ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「うびゃー!」


大丈夫じゃなかった。

吹っ飛んだグールがズブズブと音を立て溶けていく。


「ふざけんなちっとは粘れよ」


俺は文句を言いつつ、敵グールの背後に回り込む。


目の前で繰り広げられたのは、グール対グールの殴り合い。

確認するまでもなく、負けた方がナビナビだ。


だが、俺が背後に回る隙だけは作ってくれた。


「オラッ!」


背後から心臓の辺りを一突き。

なるべく体を傷つけない様に注意した。


ベチャリとグールが地面に崩れる。

一撃だ。


このダガー、しょぼい武器かと思ったら違う。

恐らく背後からの攻撃や急所への攻撃にボーナスがある。あくまでゲームとの比較になるが上手く当てれば刀よりも攻撃力がありそうだ。


ただし、急所に当たらなければ中々相手を倒せない。

上級者向けの武器だった。


「そんなダガーで隙を突いて敵を倒せるのも僕のお陰ってワケ」


殺したはずのグールが目の前ですっくと立ち上がる。

ナビナビだ。


「おい、いい加減にしろよ」


俺は頭痛に頭を抑える。何の頭痛かは解っている。

ナビナビの死体繰りはノーリスクでは無かったのだ。


しっかり俺のMPだとか、なにかゲーム的なポイントを消費しているらしい。

それが枯渇して、うっすら頭痛になって現れてきた。


だから死体繰りを使うならまずはそう言えと言ったのに。


「へへっ、でも僕ナシってのは無理でしょ?」


目の前の死体がでへへと笑う。

だが、その通りだった。


この短いダガーでグールと正面から殴り合うのはリスクが大きい。

背後を突くにはナビナビの協力が必要だった。


「だけどな、もうちょっと上手くやれよ。毎回負けるんじゃねぇ」

「仕方ないじゃない、いきなり新しい体を動かせって無理だよ」

「クソッ」


回り込むためにナビナビには正面から突っ込ませるのだが、毎回ナビナビはグールに負けていた。

どうも、死体繰りで操ると元の体の性能には及ばないらしい。


でもまぁ、そんなもんか。

倒した敵をそのまま操れるなら、一匹倒したら後はナビナビ任せで全部クリアー出来てしまう。


「それにさ、MPの消費も少ないみたいだよ」


何が楽しいのかナビナビはスキップで歩いて行く。

曰く、死体を召喚するのに必要なMPは多く、何回も呼べるモノではないらしい。

ちなみに、ナビナビが体を乗り換えるのはコレで四回目。

確かに、召喚で呼び出すよりも、倒した敵をそのまま操る方がMPの消費が少ないってのは納得がいく。


しかし、コレは善し悪しかも知れない。


もし、ナビナビに操れない敵しか出ないフロアなら、召喚して戦うスタイルの方が有利だろう。

もしくは、雑魚敵が無数に出てくるようなフロアでは一体だけ死体を操っても意味が無い。


「まぁ、考えても仕方ないか」

「そうそう、気楽に行こうよ、で、どうする?」

「どうするって……」


ナビナビの見る先には、大きな扉が鎮座していた。

思い出したくもない。

現実世界の駐車場で見たのと同じモノ。

ゲームで見たのとはディティールが桁違いの金属扉。


ボスへと通じる大扉だった。

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