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王太子に捨てられた? ならば、私はこの国の経済を手に入れるだけですわ!  作者: ぱる子


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第17話 さらなる飛躍②

 そしてまた別の日には、若き銀行家の青年がルシアーヌの館を訪れ、「ぜひ私と組んで新しい信販業務を展開しませんか。ついでに、個人的なパートナーにも……」と申し出てきた。青年は煽るように銀縁の眼鏡を外し、「私はあなたを愛している。この投資プランは夢の第一歩です」と高らかに語るが、やはりルシアーヌは興味なさげに眉をひそめるだけだったという。


「まあ、愛よりも利息の計算を先に聞かせていただきたいわ。私が参入する価値があるなら、お話を伺ってもよろしくてよ?」


 青年銀行家は「はいっ!」と意気込んだが、そのあと細かい数字を示す段階で戦々恐々となり、汗をかきながら一方的にロジックを丸呑みされ、最終的に「もう少し資料を整理してから出直します……」と退散した。周囲は苦笑を禁じ得なかったが、同時に「これぞルシアーヌ様」とうなずいてしまうのだ。


 こうして、国内外を問わず、投資や婚約、あるいはビジネス提携を求める者が殺到するなか、ルシアーヌの知名度は急上昇していた。貴族から庶民までが「頼れる投資家」としてその名を口にし、王都で知らない人はまずいない。戴冠式からわずかな期間で、経済や文化の活性化に拍車がかかっているのは事実であり、それを支えているのが彼女のネットワークなのだと、多くの人々が感じ取っている。


「なんというか、もはや経済の女王というより、もはや国を下支えする存在、とでも言いましょうか」


 ロイがさらりと感想を述べると、ルシアーヌは書類をめくりながら首を傾げる。


「下支え……という表現はあまり好きではないけど、まあ似たようなものかしら。みんなが儲かれば私も儲かるし、損をさせられることは避けたい。言わば、私と契約を結んだ時点で『利益を共有している』ようなものよ。だから彼らが私に求愛してくるのも、結局のところメリットをつかみたいからでしょうね」


 そんな会話を繰り広げつつ、ルシアーヌは日々新たなビジネスプランや資金運用を検討している。国民が「戴冠式以降、王国が活気を取り戻した!」と歓喜する背後では、彼女の的確な投資や物流管理が密かに根幹を支えているのだ。


 もちろん、人々にとっては「国の経済が回り、収入が増え、暮らしが安定する」という結果だけが見えており、具体的な仕組みには詳しくない。しかし、ビジネスの世界では「ルシアーヌの投資を受けられれば大成できる」との評判が高まり、多くの青年実業家や新興商会が門を叩くようになっている。


 やがて屋敷のロビーや応接室は、連日連夜の来客ラッシュでひっきりなしだ。クラリスをはじめとする使用人たちは嬉しい悲鳴を上げ、ロイも「護衛どころか整理役になっている」と苦笑しながら依頼人を捌いていた。


「お嬢様、こちら本日のスケジュールです。午前は海外からの船舶共同開発の代表者と面会、昼には東部領主の商団とのやり取り、午後からは銀行協会の青年理事と投資プランの協議、夕方はまた別の貴公子がお嬢様に謁見したいと……」


 どこか辟易した面持ちでクラリスが報告するが、ルシアーヌはまったく動じず、「ああ、なら午後の理事会議が長引きそうだから、貴公子の件は夕飯前にしてもらいましょうか。興味があるかどうかは話を聞いてからね」と平然と答える。ロイは思わず口を挟みたくなる――「求婚なんですよね?」――が、あまりに忙しそうだから何も言えない。


 こうして、王国は戴冠式を契機に経済と文化が向上する一方、実質的には「ルシアーヌのおかげ」で回っているという事実が確立し始めていた。人々は王家を表向きには称えながらも、「公爵令嬢に話を通すのが一番の近道」という共通認識を持ちつつある。


 「なんだか、この国を支配しているのは公爵家じゃないか」というささやきが、いつしか国内だけでなく、周辺諸国にも伝わり、そこでまた新たな商人や貴公子が投資や縁談を申し出にやって来る――まさに「好循環」が生まれていた。


 やはり国の経済の要は物流と金融であり、それを握るルシアーヌが今や「経済の女王」と呼ばれ始めても不思議ではない。王都の街中でも、「公爵令嬢の事業が安定しているから商売しやすくなった」「新しい舞台芸術が育ちそうだ」「文化交流が盛んになった」と喜ぶ声が多く聞こえるようになった。


 こうして、どこへ行ってもルシアーヌの話題で持ちきりになっているが、当の本人は忙しいスケジュールを淡々とこなしながら、「私の利益になるならウェルカムですわ」という姿勢を崩さずにいる。


「お嬢様、本当にすごい勢いです。あちこちから『ご結婚を前提に』なんてお話も来てますよ。大陸南端の王族からも連絡があったとか……」


 ある日の夕刻、息を切らせたクラリスが新たな報告をすると、ルシアーヌは紅茶をすすりながら肩をすくめる。


「だから、メリットがなければお断りするだけ。私、いま王家と結婚したところで何も得られないと思っているのに、他国の王族相手でも同じ話よ。結局のところ、利益に直結するならちょっと考えるけど、そうでなければごめんなさいね、と」


 ロイが思わず「もう王族レベルでも利益がなきゃダメですか」とツッコミを入れたくなるが、この徹底した割り切りがルシアーヌの強みなのだと改めて思い知る。お飾りの婚姻をするくらいなら、自身の経済力を武器に独自路線を続けたほうがよほど有意義だ。王国全体が「公爵令嬢こそ頼れる投資家」と認めるなか、ルシアーヌがさらに勢力を広げるのは火を見るより明らかである。


 こうして戴冠式を契機に、国は大きく盛り上がり、経済と文化を上向きに牽引する存在としてルシアーヌの名が広まった。それに伴い、多数の投資話や求婚まがいのアプローチが彼女のもとに集まり、公爵令嬢が一番権力を持っているという認識が国中に染みわたる形になっている。


「いつの間にこんなにモテるようになったんでしょう……」と、クラリスが半ばあきれたようにつぶやくたび、ルシアーヌはさも当然とばかりに「モテるというより、『お金になる相手だ』と思われているだけよ」と笑う。その飾らぬ姿勢が、また一段と人を惹きつける要因でもあるのかもしれない。


 こうして、国が繁栄し、ルシアーヌへの注目がますます高まるなか、彼女はビジネスをさらに拡大しながらもさばさばした態度を崩さない。貴公子や青年銀行家がいくら求婚しようと、「利益にならなければ論外」とあっさり返すコミカルな場面も繰り返され、噂はどんどんエスカレートしていく。


「公爵令嬢は経済の女王だ」

「すべてはビジネス次第」

「情だけでは動かない。でも、そこがまた素敵」


 ――こんな評価や憧れの声が国内外で増していき、いつしか王国において“公爵令嬢”の名は、王家にも匹敵するほどの権威を持ち始めていた。


 かくして、戴冠式に端を発した国民の熱狂と経済文化の活性化は、ルシアーヌのさらなる飛躍を予感させる幕開けとなる。今後、彼女がどのような形で国と関わっていくのか――それはまだ誰にもわからない。


 しかし、ひとつだけ確かなことは、「ルシアーヌが目をつけたビジネスほど強いものはない」という事実だ。国中がそう確信している以上、彼女の動向は今後も目を離せない最重要のトピックとなり続けるのである。

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