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王太子に捨てられた? ならば、私はこの国の経済を手に入れるだけですわ!  作者: ぱる子


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第17話 さらなる飛躍①

 戴冠式からしばらく経ち、王国全体が不思議な活気に包まれ始めた。もともと豊かな土地と歴史を持つレグリス王国ではあったが、近年の財政難や王家の迷走で、人々の心にはどこか停滞感が残っていたのも事実。しかし、盛大な式典が大成功を収めたことで「この国にはまだ未来がある」と感じる者が急増し、経済や文化のあらゆる分野に“上向き”の風が吹き始めた。


 まず目に見えて変化したのは市場や港だ。式典に使われた大量の装飾品や食材をきっかけに、国内外から「この国に商機があるのでは」と考える商人たちが競うように流れ込んできている。海外の大商会や投資家、さらには銀行関係者までもが、「レグリス王国は今こそ投資のチャンスだ」と口々に言いながら船を繰り出し、港町や王都近くの交易拠点を訪れるのだ。


「どうやら、あの華やかな戴冠式の噂が外の国にも広まったらしいわね。みんな『この国は余力があるのだ』と勘違い……いえ、イメージを抱き始めているそうよ」


 朝のうちに届いた手紙を斜め読みしながら、ルシアーヌ・ド・ベルヴィルは楽しげに微笑む。公爵家のサロンには、海外の商人や外交官からのビジネスの誘いや、投資の打診が山のように届けられている。かつては王家の名声だけでは呼び寄せられなかった大物たちまでも「ルシアーヌ公爵令嬢と組めば高い利益が望める」と色めき立っているらしい。


「お嬢様、こちらは北方の商圏からの船舶協定の提案ですわ。新型の大型帆船を共同開発して輸送力を高めたいとか……」


 侍女のクラリスが手紙を広げて説明する。封蝋には、海運業を大々的に行っている国の紋章が押されており、相手がかなり力を持っていることをうかがわせる。一方、護衛騎士ロイが別の文書を手にしながら唸るように言う。


「こちらは大陸南部の銀行からですね。どうやら『新王国の財政が好転した』と聞き、借款の競争に参加したいのだとか。……実際は、お嬢様のネットワークが目当てなんでしょうが」


 どれもルシアーヌへの接近を図るメッセージに満ちていた。公爵家の館には、朝から晩まで使者が訪れ、応接室が足りなくなるほどだ。以前もそこそこ賑わっていたが、戴冠式を経てさらに拍車がかかった様子である。まるで「大物投資家」の元へ資金を求めて列をなす光景といっても過言ではない。


「ふふ、これだけ来客があると、スケジュールを組むのも大変ね。どこかでしっかり仕分けしないと。すべてお会いする時間はありませんもの」


 ルシアーヌは嬉しそうではあるが、あくまで冷静だ。彼女の頭の中では、どの取引先が利益を生みやすく、どこが信用に足るか、その仕分けが瞬時に行われているのだろう。


 クラリスは「お嬢様、ちょっとご負担が大きすぎでは?」と心配するが、ルシアーヌは「ビジネスはチャンスを逃さず、必要な部分だけ拾えばいいのよ」と言い放つだけだった。


 こうしたビジネスの話だけでなく、最近は華やかなパーティへの招待も後を絶たない。新王セドリックの即位を祝う二次的な祝宴や、諸外国からの使節をもてなす夜会など、どこも彼女を招きたがっているのが明らかだ。もともと公爵令嬢として社交界の中心にいたが、今や「もっとも経済力のある最注目の人物」として、主催者側が無理をしてでもルシアーヌを迎えようとする。


 そんな(にぎ)わいの一端には、いわゆる「求婚」の類も紛れ込んでいる。実際、先日もルシアーヌが出席した夜会の席で、海外からやってきた貴公子が「ぜひあなたと個人的に友好を深めたい」と大胆に迫ってきた。思わぬ展開にその場は微妙な空気になったが、当のルシアーヌは一瞬も(ひる)まず、涼しげな表情であしらうだけだった。


「貴女と添い遂げ、ふたりでこの国と私の国を繋げれば、きっと大きな利益を生み出せる。私が誠意を持って貴女を守り抜きます!」


 つやつやの金髪を揺らす貴公子が、まるで詩を朗読するかのように熱意を込めて言い寄ってきたという。しかしルシアーヌは、そこで即座に「それは利益になるのかしら?」と静かに返すから、周囲は肝を冷やした。


「そ、それはもちろん……私の家名と財産はかなりのものですし……」

「私が既に持っているビジネスの規模と、そちらの家が掲げる資本やルートを照らし合わせてみましょう。それで『わざわざ婚姻関係を結ぶだけの優位性』がなければ、ただの空手形ではありませんか?」


 あまりのビジネスライクな返事に、貴公子はたじろぎ、「え、ええと……まあ」としどろもどろになった挙句「ぜひ検討してみます!」と力なく微笑むしかなかった。周囲の者が苦笑するなか、ルシアーヌは「そういう話なら、まず利害を明確に示してくださいね?」と微笑み返しただけ。言葉の隅々に、本気で「婚姻」という形をビジネスオプションとしてしか見ていない様子が透けて見え、むしろ痛快だと噂が広がったのである。


「お嬢様、すごいモテっぷりですね。あれほど公然と求婚じみたアプローチを受けるなんて、なかなかないのに」


 クラリスがそう茶化してみせると、ルシアーヌは肩をすくめて言う。


「モテる……というより、お金を追いかけているだけじゃない? 私自身が好きなのではなく、私の持つビジネスネットワークが欲しいだけよ。それなら、利益にならないなら論外ですわ」


 ロイは思わず吹き出しそうになりながら「それ、貴公子たちショックでしょうね」と小声でつぶやく。けれど、ルシアーヌにとってはさほど重要な問題ではない。結果的に付き合うメリットがないのであれば、甘い言葉など何の意味も持たないのだ。


 そうした清々しいほどの割り切りが、むしろ人々の興味をいっそう惹きつけているらしい。王家と結婚しても動じず、破棄されても経済を牛耳るほどの強さを見せつけ、さらには海外の貴公子たちの情熱的な求婚さえも一蹴する――そんな姿に心奪われる者が続出し、まるで恋が成就しない「高嶺の花」として噂になっている。

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