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王太子に捨てられた? ならば、私はこの国の経済を手に入れるだけですわ!  作者: ぱる子


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第12話 周囲の動揺①

 それから数日のうちに、王太子セドリックとの「結婚を前提とした協力」があっさり拒絶された話は、驚くほどの早さで王都から国中へと広まっていった。


 ことの発端は、セドリック陣営の取り巻き貴族たちが焦りからか、あちこちに裏工作じみた根回しを行ったことにある。すでに門前払いされたにもかかわらず、「公爵令嬢が真意を変えてくれる可能性はまだある」という期待を捨てきれず、少しでも話を大きくして既成事実化を図ろうとしたのだ。


 しかし、その結果として周囲の商人や貴族たちは一層混乱することになり、国全体が「王家 vs. ルシアーヌ・ド・ベルヴィル公爵令嬢」という図式を意識せざるを得なくなっていた。


 王都の大通りでは、噂好きの市民や見習い商人たちが集まる露店がそこかしこに立ち、騎士団の巡察を横目に「王家とベルヴィル公爵家の対立」がどうなるのかとささやき合っていた。


 王宮が財政難に陥っていることはもはや公然の秘密であり、加えて公爵令嬢が驚くほどの手腕で銀行や流通を掌握しているという情報も広く知れ渡っている。今や誰もが心のうちで「どちらに従うほうが得策なのか」と計算し始めていた。


「なんだか、このままいけば王家は形ばかりになってしまうんじゃないか」

「いや、でもやっぱり王家をないがしろにするなんて考えられない」

「あの公爵令嬢に付けば商売は安泰だって聞くぞ」


 そんな声が市井でも飛び交う。いずれも真偽入り混じった噂だが、人々の関心の強さをうかがわせるには十分だった。


 一部の商家や小貴族は「まずはルシアーヌ様に味方しておけば儲かる」と動き出し、逆に昔ながらの王家支持派は「そんな風潮は国の秩序を乱す」と憤慨している。双方の勢力が水面下で衝突し始めており、小規模な嫌がらせや取引の制限がささやかれるようになった。


 大貴族の邸宅ではさらに騒がしく、夜会の席上で「結局、王家が衰えたところで公爵家が実力を示すのは当然かもしれない」といった声や「国王陛下の退位後を考えて、どこに付くのか方針を決めねば」という切実な意見が飛び交っている。


 そんななか、一部の過激な意見を持つ若手貴族は「王家を守るためには、いっそ公爵令嬢を排除すべき」などという危険な発想まで口にし始め、貴族社会の空気は日増しに張りつめていくばかりだ。


 一方で、ルシアーヌのもとにも周囲からさまざまな声が寄せられていた。中には「あまり王家を追い詰めすぎると、いつか叛乱のような動きが起きるのでは」「ここまで王家を凌駕してしまうと、さすがにまずいのでは」という不安を訴える部下や関係者もいた。


 実際、農村部の領主たちのなかには、まだ昔ながらの王家への忠誠心を強く持つ者が少なくない。ルシアーヌがあまりにも高圧的に経済を握れば、必要以上に敵意を買うリスクもある。


「お嬢様、最近は街角でも『公爵令嬢が実質的に国を支配する』などと言われているそうです。私どもの商会の者たちも、このままではあまりに王家を蔑ろにしているとみなされるかもしれない、と心配を……」


 ある日の午後、ルシアーヌのもとに顔を出したのは彼女と懇意にしている商会の令嬢アメリアだった。アメリアは心配そうな表情で報告しながら、ルシアーヌの机に重ねられた書類の山にちらりと目をやる。そこには見慣れない数多くの契約書や投資計画書が積まれており、どれも国の主要産業に関わるビジネスに関するものばかり。王家の権威を顧みず、彼女が強引に拡大している――と捉えられても仕方ないような量だった。


「ふふ、なるほど。周囲がそう言うのも無理はないわ。私が動くたびに、あちこちで王家の影が薄くなっているんでしょうね。でも、だからといってわざわざ手を緩める義理もありませんわ」


 ルシアーヌは涼しげに微笑みながらも、書類を整理する手は止まらない。アメリアは「その通りだけど……」と曖昧に言葉を濁す。彼女自身も経営者としての才覚を持ちつつ、ルシアーヌを尊敬しているが、やはり王家をここまで追い詰める事態に少なからず不安を覚えていた。


「お嬢様、最近は地方の領主が『公爵令嬢のやり方に疑念を抱いている』と漏らしているという話もあります。もし王家と正面衝突するような展開になれば、その領主たちがこぞって王家側に立つ可能性も……」


 侍女クラリスがやや控えめな声で口を挟む。ルシアーヌは帳簿に目を落としながら、「それならそれで構わない」とでも言いたげに口角を上げたが、一瞬深い息をついた。


「私の周囲にも、『ちょっと王家を軽視しすぎでは』と言う者が出始めているわ。わかっているの。王家を完全に潰すようなことは、私にとっても得策ではない。……ただ、王家はもうほとんど自分たちで資金を動かせず、私に頼る形しか残されていないのも事実」


 その言葉に、アメリアとクラリスは気まずそうに視線を交わす。ルシアーヌは王家を倒そうとしているわけではないが、結果として、その存在感が王家を覆いつつあるのは明らかだった。やや考え込むように瞳を伏せたまま、彼女は続ける。

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