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Chapter 9 「藤」

自然が織りなす静けさの中に彼女はいた。


時折風が木々を揺らす音、鳥の鳴き声

草むらを移動する姿を見せない小動物

それらも意味など持たない必然の営みだ。


山奥深い森林にいつもの光景が繰り広げられているだけだった。

ここに人間はいない。この世界にまだ人間が踏み込んでいないから

ひそかにゆっくりと時を刻み続けていられる。


そこには数本の藤の木も生えている。

人間が公園に人寄せのために植えている藤棚のような

勝ち誇った姿ではなく、そばの木々に蔓を巻き付け色も鮮やかではない。

巻き付かれた側は日光を遮られ成長を阻まれるが

藤は力強くその蔓をどんどん伸ばしていく。


見方によってはおぞましくもあるその光景も

自然が織りなすありのままの姿、日々の生業の一つに過ぎない。


自然は美しくも残酷で、力強くすべてを作り上げていく。

だがらこそ、もうここには感情などは存在しないかのようだ。

彼女も、この中のどこかに確かに存在する。

しかし意識や感情のようなものは、自然に淘汰され見つけることはできない。


それでも何か、何処からか、満足げな光景が伝わってくる。


彼女はビジョンから抜け出し、静かにゆっくりと瞼を開いた。

その目からは涙のしずくがとめどなく流れ出し

彼女の頬を熱く伝わっていた。


頬を伝う涙の暖かさを感じながら

彼女は眼を閉じ次のビジョンを迎え入れた。


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