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Chapter 7 「第4ビジョン 同時進行の世界」

いきなり4分割の映像が飛び込んできた。

彼女は大きく困惑したが、どういった訳かすぐに受け入れることができた。

第3ビジョンの象のコミュニティの複数の感情が同時に理解できたように

この4分割のビジョンの主人公が同一人物らしいことにも気がつく。


①少年期

 ②青年期

  ③中年期

   ④老年期


といった具合にビジョンがそれぞれの世代に分割されている。

彼女の目には4つの世代が同時に映し出されている。


  ③「はい。高木です。お世話になっております。

    はい、はい承知いたしました。またよろしくお願い致します」


   高木の目の前には公園の風景が広がっていた。

   まだ夕暮れ時には早い、昼下がりのゆったりした時間に思えた。

   次に視界に飛び込んできたものは、スマホの液晶画面だった。

   先ほどの取引先からのLINEで

   「日を改めてまたご連絡します」といった内容だった。

   丁寧にも先方は電話でも連絡をくれたということだ。

   高木はぼんやりとまた公園の風景に目を移した。

   「おそらく、次の連絡はないな」

   そう感じてちょっと落ち込んでいるのが彼女にも伝わって来た。

   スマホを操作している時、左手の薬指にちらっと指輪が見えた。

   少し毛深い太い指。

   「高木は中年の男性かもしれない」と彼女は思った。


①サッカーの試合が行われている。

 プレイしている選手は中高生ぐらいの若者たちだった。

 高木らしき少年がベンチから試合を見ている。


 「高木!」中年の男性が振り返って叫んだ。

 「はい!」少年は元気よく答えた。

 「伊藤と代われ。右サイドに攻撃が集中してるから

  お前がセンターにパスを入れて逆サイドに切り替えさせろ」

 「はい!」メンバ交代のようだ。

 はきはきした返事に、意欲が伝わってきて彼女もちょっと嬉しくなった。

 青年期の高木君も嬉しそうに走ってピッチに向かう。


 ②「Takagi」とキーボードから打ち込んでいる。

  目の前にはパソコンの画面があり、続いてパスワードを入力し始めた。

  フロアの雰囲気から、50人程度の人が働いている

  オフィスの一角にいるようだ。


  「おはようございます」隣の席に女性が座り、パソコンに向かい始めた。

  「おはよう」高木と思しき男性はそう答えてから

  自分のパソコンに向き直った 。

  声のハリからいって、公園の高木より若そうだ。

  会社で仕事をしているということは、青年期ぐらいの高木だろう。


  慣れた手つきで複数のメールを読み終えると

  席を立ちオフィス中ほどの休憩エリアに向かった。

  IDカードのようなものを自動販売機にかざし

  眠気覚ましのブラックコーヒーを選んで二つ手に取る。

  自席に戻る途中、遠回りをして隣のフロアに顔を出す。

  入口付近に座っている長い黒髪の細身の女性に声を掛ける。

  「おはよっ!」

  女性も振り向き「おはよー」と笑顔で答えてコーヒーを受け取った。

  じゃあまた後で、と目で合図をしてから自席へ向かう。

  とても柔らかな温かい感情が彼女にも伝わり

  この2人は愛し合っているのだろうと察しが付いた。


   ④視界はとてもぼやけている。

    独特の無機質な白い天井に白い間仕切りのカーテン。

    病室のベットに仰向けに横たわっているようだった。

    傍らに痩せた老女が座っている。

    こちらを心配そうにのぞき込んでいる。


    「あなた。わたしよ。わかる?」

    その顔はどことなく、青年期の高木が親しげに朝の挨拶を交わした

    長い黒髪の細身の女性に似ていた。


    「高木さん!わかりますか?奥さんがいらしてますよ」

    白衣の男性が、意識があるかを確認するように声を掛けて来た。

    ぼやけた視界が暗闇に溶けそうになった瞬間

    彼女は慌てて「ストップ!」と叫んだ。


彼女は瞼を閉じてゆっくりと考え始めた。


第4ビジョンでは、どうして複数の異なる世代が同時に登場したのだろうか。

もしかして老年期の高木が死の直前に昔のことを色々と回想していたのか?

それにしてはそれぞれ特に印象的なシーンではなかった。


もしかすると、時間の概念がこの世界とは異なるのかもしれない。


あの複数の異なる世代は、同時に進行していたかもしれない。

幼年期も青年期も中年期も老年期も同時に進行しているとしたら。。。

これは単なる空想に過ぎないが、可能性としてはありうると思えてきて

SF好きの彼女は一人ベットの上で興奮していた。


限りある人生の1コマはその世代にとっては紛れもない「今」であるが

全てが用意されたシナリオ通りに進んでいてもおかしくはない。

人生を各世代ごとに分割して同時進行させても

シナリオ通りであれば不都合は起きないし

人生の総時間の節約になって効率的だとも思える。


「タイパがいい人生か」彼女はちょっとシニカルに笑ってみた。


魅惑的な同時進行世界の妄想とは別に、2つの疑問が生まれていた。


彼女が共有しているビジョンの主人公が息絶える時

彼女も死んでしまうのだろうか?


無論、確かめることなど出来ないが、彼女は直観的に

ビジョンの主人公が終わりを迎える瞬間を共有してしまったら

同時に自分にも「死」が訪れる気がしていた。

それ故に第4ビジョンの高木が息絶えそうになったので

慌ててビジョンを抜けたのだ。


「第1ビジョンの鏡は草むらに捨てられたけど、まだ死んでなかったのかな」


彼女はまたちょっと自嘲的に微笑んでみた。


第4ビジョンの高木はもう息をひきとったに違いない。

では第2ビジョンの少女はどうなっているだろうか?

あの少女は彼女に一番近い存在だったし、時間の進み方も

第4ビジョンとは違いこの世界と同じようだった。


但しSFではよくある話だが、

時間の経過スピードがこの世界より数倍速い可能性はある。

そうであれば、既に亡くなっているかもしれない。

それでもあの少女のその後がとても気にかかる。


彼女はゆっくりと瞼を開き、しっかりと前を見据えながら

第2ビジョンへ行きたいと念じて「スタート!」と叫んだ。

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