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Chapter 6 「捨てられた鏡」

やはり真っ暗で何も見えないが、何か話し声が聞こえる。

女の子がおねだりをしているようだ。


「ねぇママいいでしょ、お願い」

「どうしても欲しいの?」


「みほちゃんも持ってるの。これで一緒に遊びたいの」

「わかったわ。じゃ、これ。もう残り少ししかないけど」


「やったー!お外で遊んでくる」

「車に気を付けてね。ご飯までには戻ってきなさいね」


視界は閉ざされたままだったが、しばらくすると屋外の音が聞こえてきた。

行き交う車の音、誰かの話し声もする。

だんだんと車の走る音が遠ざかり

代わりに鳥のさえずりや子供の笑い声が聞こえてきた。


突然光が射して幼い女の子の顔が見えた。

おそらくはさっきの話し声の主だろう。


女の子は一人ベンチに座りお化粧ごっこを始めた。

ちょっとドキドキしながら、でも嬉しそうな表情が映し出されている。


彼女の母親が言っていた通り

コンパクトにはファンデーションが少しだけ残っている。

女の子は、日ごろ目にしている母親の真似をしてそーっと額に塗ってみる。

が、何かお気に召さなかったのか、すぐにお化粧ごっこをやめてしまった。


鏡の中から女の子の顔は消え去り、青空が映し出されている。

どうやら女の子は先ほど母親から貰ったばかりのコンパクトを

公園のベンチに広げたまま置き去りにしたらしい。


彼女が「なーんだつまらない」とため息をついて「ストップ」と言いかけたその時

何者かがコンパクトを手に取って遊び始めた。


太陽の光をあちらこちらに反射させている。

彼女も「子供のころにやったことあるなぁ」と

すぐに現在の状況を理解することができた。


しかしこの遊びも長くは続かず、まぶしい光は消え

覆いかぶさる草の合間から先ほどの快晴の空が見える。

今度はベンチ近くの草むらにでもそのまま投げ捨てられたようである。


今度こそ彼女は「ストップ」と言い切った。


第1ビジョンから戻って来た彼女は、そっと目を閉じて考え始めた。


草むらに放置された鏡は「死」を迎えたと言えるのだろうか?

誰かがその鏡に気づいてゴミ箱に捨てたら、

もうそれは「使えない」のだから「死」だと言えるのか?


その「使えない」という判断を、それを生み出した人間が勝手な価値観で下す。

今回のコンパクトなどは再利用も難しいかもしれないが

人間も過去の過ちを償おうとリサイクルに力を入れていたりもする。


自己都合で物質を生み出し続ける人間は

その物質の生涯にも気を配るべきなのか。


下駄屋が鼻緒を切れやすく作るという話をどこかで聞いたことがある。

経済がうまく回らないとしても、「モノ」を大切に使わず

次々と「ゴミ」化していくのはあまりにも無責任に感じる。


彼女はそんなことを考えつつも、この反省に導くために

第1ビジョンを見るように仕向けられたかどうかは分からないな、とも思った。


いずれにしても、物質のビジョンも疑似体験の選択肢に加えられている。

彼女にとっては「幅が広がっている」と思えてとても興味深かった。


「他にどんなビジョンを見せてくれるかな」

目を開けると当然のように「START!」の文字が浮かんでいる。


すっかりビジョンの虜になっている彼女は、迷わず別のビジョンへの扉を開いた。

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