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Chapter 3 「第2ビジョン 私にそっくりな少女」

翌朝、別のビジョンが見たいと念じながら「スタート」と唱えたら

期待通り別のビジョンを見ることが出来た。


新しいビジョンでは、彼女にそっくりな少女が姿見に向かって身支度をしている。

「私にそっくりなんだけど、なんかちょっと違うな」と彼女は思った。


確かに、グリーンの長髪にピンクのメッシュが入った髪を

らせん階段のように持ち上げているのはちょっと見た事がないヘアスタイルだ。

服装も何といったらいいか、例えるなら近未来風とでもいうのか

光沢のある透明なスーツの隠すべきところにだけ幾何学模様が入っている。

その幾何学模様も、見る角度によって形が変わる特殊なプリントになっている。


「露出がすごいけど、ちょっとかっこいいかも」

彼女も鏡の中の自分に似た少女に興味が沸いているようだ。


部屋の雰囲気もどことなく無機質な感じで、家具と言えばこの姿見のついた

小さなクローゼットとベットだけ。間取りも一部屋だけのようだ。

どう見ても彼女と同じ高校生ぐらいの彼女によく似た第2ビジョンの少女は

どうやらこの部屋で一人暮らしをしているらしい。


第2ビジョンの少女は満足した様子でポーズを決めた後

ゆっくりとドアに向かい部屋の外に出た。


外は明るく暖かで穏やかな陽気だった。

第2ビジョンの少女の目と耳を共有する彼女にも穏やかさは伝わるようだ。


「いい天気だなぁ。でも、日差しもあるのに全然暖かさを感じないな」

第1ビジョンの時と同様に、第2ビジョンの少女と共有しているのは

目と耳だけだからかな、と彼女は思った。


歩きながら第2ビジョンの少女は右腕を確認し始めた。

そこにはデジタルの数字が2つ刻まれている。「100」と「17」。


「変なイレズミだなぁ。何か意味があるのかな」

彼女は不思議に思ったが、第2ビジョンの少女はどんどん進んでいく。


しばらくまっすぐ進んだ後、左手に細い路地が見えてきた。

第2ビジョンの少女は一つ溜息をついてから

日差しを避けるように足早にその路地に入っていく。


そこは先ほどの通りとは打って変わってジメジメした日陰が続いている。

「何だか、気味悪い通りだなぁ」と彼女は思った。


第2ビジョンの少女はどうしてわざわざこんな薄暗い

ジメジメした通りに入って来たんだろう。

人がすれ違うのがやっとといったような狭い道がずっと続いているのだ。

人影もなく、商店も見えない、何もない狭い道。

こんなところに一体何の用があるというのか。


しばらく進むと、向こう側から怪しげな男が近寄ってくるのが見えた。


「やばそうだから逃げて!」

彼女は叫んだが、第2ビジョンの少女は構わず男に向かっていく。


「逃げて、逃げて!」と何度も思ったが、

第2ビジョンの少女に「彼女の思い」は伝わらないようだ。


男はすれ違いざまに第2ビジョンの少女を引きずり倒して

唐突に自分の欲求を満たし始めた。

彼女は恐怖と嫌悪感で気が変になりそうだったが

しばらくすると不思議に落ち着くことができた。

それは、何も感じることが出来ないからだった。

男の声や耳障りな音は全て聞こえるが、感触は全くないのだ。

そして不快な感覚もないため、感情も落ち着いてきた。


只々「こと」に及んでいる見知らぬ男の顔が目の前にあった。

ということは、第2ビジョンの少女も

相手から顔を背けることもなく見つめているということか。

よく見ると、男の表情も無感情なものだった。


なぜ全く抵抗することもなく男を凝視しているのだろう。

もしかして顔見知りなのだろうか。

次の瞬間、2人が顔見知りではなさそうだということがわかる。


「おじさん」第2ビジョンの少女は落ち着いた声で男に話しかけた。

「なんだい」男は少女に覆いかぶさったまま低い声で答えた。


「おじさんの気の済むまでいいよ。私、おじさんが満たされるならそれでいい」

「そうか。お前も早年死志願か。

 きれいな姿のうちにきれいに死にたいってやつか。

 若い女に多いんだよなぁ。

 日のあたる場所じゃAIが管理してるから、犯罪は起こらない。

 それでもこんな裏道の日陰に入り込んでくる奴の目的は1つなんだよ。

 色んな経験をすれば、POINTをGETできると思ったんだろう?」


こう言い放った後男は自分の右腕を第2ビジョンの少女に向けた。


「いいか、見てな。POINTが足されるぞ」

男の言った通り、一つ目のデジタルの数字が加算される瞬間が見れた。


「すごい!おじさん!もう、20000POINT超えてるじゃない!

 どうやったの?ねえ、教えてよ」

「俺はもう50年近くこの裏通りでこんなことを繰り返してるのさ。

 その度にPOINTが増えやがる」


「なんで?こんなことしてて、どうして増えるの?」

「知らねえよ。AIの考えてることなんざ、わからねえよ。ただね」

男は深いため息をついて、こう続けた。


「この行為の意味がわからねぇ。昔は生殖活動だったらしいが

 今はそれもAIが管理していて俺たちには意味のない行為のはずなんだ。

 おまけに俺は何も感じない」


第2ビジョンの少女は少し考えてから、思い出したように言った。

「そういえば、少し前に大人たちの遊びに付き合ったことがあったけど

 おじさんと同じことしながら、みんな楽しそうにしてたよ」

「楽しい?何が楽しいんだ?

 大体何のためにAIの奴はこの機能を俺たちに残してるんだ?

 何も感じないのは、俺だけだってぇのか?

 ここの仲間うちでは、みんな何も感じねぇって言ってるぜ。

 感じるってどんななんだ?

 何でこの無意味で不毛な行為にAIがPOINTを与えるのかも知りたいんだよ」


第2ビジョンの少女はゆっくりと立ち上がって右腕を確認し

軽く舌打ちをしてから空を見上げてこう言った。

「そうか。初めての時は結構ショックだったから

 AIも憐れんでPOINTをくれたのかなぁ」


「ストップ」彼女はゆっくりと第2ビジョンから帰還した。


第2ビジョンの少女は自分によく似ていた。

パラレルワールドやマルチバースのような

別世界の自分ということなのかもしれない、と彼女は思った。


第2ビジョンでは、第1ビジョンと違って

ちょっと凝ったシチュエーションのショートストーリーを共有できた。

でもちょっと複雑な分、色々と疑問は残っている。

AIに管理された何かPOINT制の世界のようだったが

詳しいことはよくわからない。


ただ、1つはっきりしたこともある。

「別のビジョンが見たい」と念じながらビジョンをスタートさせれば

別のビジョンを見ることができる。


SF好きの彼女は「面白いものを手に入れた」と思った。

もしかするとただの夢なのかもしれないが、

感覚的には鏡になったり、別世界の自分になったり出来たと思えた。


鏡になったということは、人間以外の動物とかにもなれるだろうか。

大好きなイルカになって仲間と一緒に大海原を泳ぎまくれたら楽しそうだな、

と思ったが「イルカになりたい」と願えば叶うものだろうか。

「別のビジョンが見たい」というリクエストだと、ビジョンがスタートしないと

何になるのかが確認できないリスクが伴う。

でも「ストップ」と言えばビジョンからこの世界へ戻れるのだから

何になるのかがわからないというのもスリリングで楽しいとも思える。


あれこれ考えているうちに、学校へ行く時間になってしまった。

彼女は慌てて支度をして家を出た。

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