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Chapter 2 「第1ビジョン 鏡」
よく見ると、見知らぬ女性はファンデーションを塗っているようだった。
しばらくすると女性の顔は見えなくなり、また昨日の暗闇に戻った。
戻る直前に「パタン!」と何かを閉じるような音を聞いた。
同時に彼女は「なるほど」と思った。
しばらくたっても暗闇のままだったので
「ストップ」とつぶやいて「彼女の世界」へ帰還した。
さっき見たあの光景は、もしかすると女性が使う
化粧用のコンパクトの鏡の視点ではないだろうか。
コンパクトを閉じる音が聞こえたということは、聴覚もあるようだ。
でもコンパクトの鏡の視覚と聴覚を体験することに
何の意味があるかまでは分からない。
鏡の目と耳を持ったところで、何も楽しくはない。
しかもコンパクトの蓋を閉じられたら例の暗闇。
ただ、全てが受け身で自分の意思がない物体に
自分が置き換わってしまったような不思議な感覚もあった。
もし、明日の朝も「START!」の文字が浮かんでたら、
鏡以外の「何か」になってみたいとも思った。
彼女はこの不思議な置き換わった世界を「ビジョン」と呼ぶことにした。