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Last Chapter 「虚無」

音もなく、目を開けたはずなのに何も見えない。

が、「何か」が染み込んでくる。

感覚はないが、確かに意識することが出来る「何か」が、し・み・て。。。

ああ。なんて居心地いい。。。





いつもの看護師が、彼女が担当している「わたし」の容体を診るために

「わたし」の病室に来た。


そしていつものようにブラインドを閉じると病室の電気をつけた。

通常この時間には消灯となるのだが

ここ数日消灯前に必ず「わたし」の担当医が「わたし」の様子を診に来る。

程なくその担当医も「わたし」の病室に現れた。


「先生。この患者さん、もう長くないのでしょうか?」

「そうだね。かなり衰弱しているのでいつお亡くなりになってもおかしくないね」


「いつ頃から、入院されてるのですか?」

「もう、20年になるかな。入院したときはまだ10代だったんだけどね」


「え!?どう見ても70か80代のおばあちゃんに見えますけど」

「面白い病状でね。しばらくは通常通りに老化が進むんだけど

ある朝突然10年分ぐらい一気に老化してたりするんだ」


「そんな不思議なことがあるんですね」看護師の

にわかには信じられないといった様子が声から伝わってくる。


しばらくの沈黙のあと、看護師は続けた。


「私がこの患者さんを担当させて頂いてから2,3年経ちますが

いつ見てもやさしく微笑んでらっしゃいますよね」


医師は少し考えてから答えた。


「実は君が担当する数年前まではいつ見ても苦しそうな

時には悲しそうな表情だったんだ。

でもある時から変わった。ここ数年は今のような穏やかな表情をしているよ」


「まるで菩薩さまのようですよね。

見ているこちらまで穏やかな気持ちになります」


看護師は少しホッとしたような、安堵の感情を声に含ませていた。


それを遮るかのように、医師は深い悲しみに満ちた沈んだ声で静かにこう言った。


「いずれにしてももうすぐ老衰でお亡くなりになる。

 最期まで目覚めることなく、とても気の毒な一生を送られた患者さんだよ」

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