Chapter 1 「START!」
彼女は現在高校生。
クラス内では活発な方ではなく
どちらかと言えばクラスメートとの繋がりを避けている。
それは集団行動が苦手なせいでもあり
また集団心理を恐れているからでもある。
戦争映画やドキュメントに映し出される群衆の狂気じみた姿や
カリスマ性を持った個人に扇動されていく過程が
彼女にとって目下この世の中で一番の恐怖になっている。
そして今、目覚ましが鳴った。
起きて学校へ行く時間である。
夕べも夜更かしをして遅くまで起きていたので1,2時間しか寝ていない。
不機嫌に目覚ましを止め右に左に体を2,3度動かしてから
ようやく目を開けるが、すっきりとした目覚めとは言えない。
少し体を起こしてぼんやりと目を開けると
いきなり「START!」という文字が飛び込んできた。
金属板のようなものに書かれた文字が空中に浮遊している。
視線をずらすと文字もついてくる。
眼をこすってみたが、やはり「START!」の文字が目の前に浮かんでいる。
「スタート?」彼女が訝しげにつぶやいた瞬間、目の前は真っ暗になった。
「ああ、きっと寝ぼけているんだ」と彼女は思った。
それにしては意識はしっかりしているように感じられた。
とにかく真っ暗で何もない。しかし遠くではっきりとは聞こえないのだが
何やら音は聞こえてくる。しばらくじっとしていたが、ずっと暗闇が続いている。
「このままじゃ、遅刻しちゃう」そう思ったが
どうすればこの暗闇から抜け出せるのかが分からない。
「ストップ!」
訳が分からないままやけくそに叫んでみた。
暗闇はどこかに消え失せ、見慣れた部屋の天井が見えた。
「夢だ。寝ぼけてたんだな」
ちょっと不思議ではあったが、そう思うようにした。
「早く支度しないと」
朝の忙しさが彼女を追い立て、早朝の些細な出来事を忘れさせてくれた。
翌朝目覚めるとやはり「START!」の文字が浮かんでいる。
「これはいったい何?」
そう思ったが、昨日の謎が今朝簡単に解けるはずもない。
「もう一回、つぶやいてみようか」
ちょっと危険だとは思ったが、SF好きの彼女にとって
この理解しがたい現状は魅力的でもあった。
昨日の暗闇はいったい何だったのか、知りたい!と思いながら
「スタート」と昨日より少し元気よく声に出した瞬間
目の前に見知らぬ女性の顔がドアップで迫って来た。