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食べ物屋さんと不審者さん 《連載》  作者: サトウアラレ
一章 食べ物屋さんと不審者のあったかい関係
2/16

食べ物屋のお客さん

顔を上げるとドアを指さした常連のジンさんがいた。



「あ、今開けますね」



 私はジンさんに声を掛けるとドアの方に歩いて行った。


 鍵を開け、オープンの札を外に出す。オープンの時間よりも早くてもみんな関係なくやって来る。



「おはようございます。いらっしゃいませ」


「ああ、今日は何がある?」


 ジンさんはコートを脱ぎながら言う。大柄なジンさんは他国から来た冒険者でとても大きい。



「野菜のスープとサンドイッチとクッキーを焼いたのですけど、卵と、ベーコンならすぐ作りますよ。チーズもあります。ジンさん食べたいものありますか?」


 うちにメニューはない。壁にお弁当、お菓子の値段と少し離れて食事の値段が書いてあるだけだ。前の日の市場の材料や、その日の気分で私が作る。



「うん。大盛にして、チーズも入れて全部くれ。卵は三ついいか?弁当も欲しい」


「大丈夫ですよー。ベーコン、カリカリにします?」


「ああ」


 ジンさんは頷くとお金をくれた。


大柄なジンさんはお金をいつも先にくれる。食べた後に置いていく人や、料理と一緒にくれる人等、様々だ。


「まいどー」と言ってお金を受け取る。このまいどー、と言う言葉はカオリさんが教えてくれた。カオリさんは自分の国の言葉を時々教えてくれるが面白い。


 カオリさんが来る時は「もうかりまっか?」と言われたりする。その時は「ぼちぼちでんな」と答えないといけない。意味はわからないが、響きが可愛くてカオリさんから言われた時はちゃんと答えている。


 ジンさんは椅子に座ると、保温の出来る水筒を差し出した。


「おつり分をこれに、スープを入れてくれるか」


「あ、ジンさん凄い!保温水筒買ったんですね!!高かったでしょ。スープの中にウインナーもおまけしときますね」


 私は水筒を受け取り厨房へむかった。



「ああ、悪いな。知り合いが安くしてくれるって言うからな。この季節はこれがあるといいな」


「へー、良かったですねー。温かい飲み物、今の季節いいですよね。では、少々お待ち下さい」


 私はジンさんの料理の準備をする為、卵を割った。ジュっという音が店に響く。

チーズを焦がしてジンさんに料理を出していると、お客さんがぽつぽつ来だす。



 首都が近いせいか色んな人種の人がこの町に入ってくる。私の店はいろんな言葉や髪の色、瞳の色で賑やかになっていく。


 陽がしっかり上り、ガヤガヤとした朝のご飯の時間が終わると、お客さんがいなくなり、しばしの休憩時間になるのだが。


 片付けをしながらお昼の準備をしていると、カランとドアが開いた。



「いらっしゃいませ」


 私が厨房から顔を出し声を掛けると、すぐに返事が返された。



「おはようございます」



 常連さんの一人のグレイさんだ。



「お食事ですか?」


「うん、それと甘いものある?」


「クッキーありますよ、シフォンケーキも焼けてます。今、冷ましてますけど。食べます?」


「いいね。待つから両方頂戴。お茶は今日は何?」



 グレイさんはそう言いながら椅子に座った。ここは暖かいねー。と言いマフラーを椅子に掛けた。



「かしこまりました。お茶は甘いのとシトラスと二種類ありますよ」


「甘いので」


「グレイさんミルクは好きですよね?」


「うん」


「では、お待ちくださいね」


 私はそう言って料理の準備をした。


 グレイさんが来るのはいつも大体休憩中のこの時間で、申し訳ないが朝ご飯のスープも少ししかない時もある。休憩中にくる自分が悪いんだから気にしないで、と言われた。確かにその通りなのだが、本当におかずが少ない日もあるので、その分ケーキを付けたり、パンを大盛にしたりお茶をサービスしている。


 今日はスープもちゃんと残ってたので、スープとパンにチーズをたっぷり乗せた物と、卵とウインナーを添えて出した。



「はいどうぞ」


「おー。うまそー」


 私が出した料理を見て、グレイさんは嬉しそうに食べだした。


 グレイさんは垂れ目が可愛い。


 綺麗な顔をしているが顔の半分にひどい火傷の跡がある。人がいない時間を選ぶのもきっと火傷が理由だろうけど、聞いたことはない。


 いつもマフラーをして、フードと長い髪で顔を隠すグレイさんを私はもったいないな、と思う。が、人の気持ちは分からないのでこれも言った事はない。


 この二人の時間が私は好きだった。


 グレイさんがご飯を食べ終わると、私は暖かくてシナモンたっぷりのミルクティーとクッキー、シフォンケーキを出した。グレイさんは甘党だ。いつも甘い物を美味しそうに食べる。



 私とグレイさんと知り合ったのは、買い物帰りの私が、グレイさんに声を掛けたのが始まりだ。

 その時のグレイさんは、道をうろうろしてフードを被り、マフラー姿の怪しい男だった。(グレイさんは道に迷い、迷子中だったと後から知った)



(今、考えると、私よく声を掛けたわね)



 グレイさんの様子はなかなかの不審者ぶりで、怪しさ満点だったが、走ってこけて飴玉を落とした子供を見てオロオロしているのが伝わり、悪い人じゃないんだろうなと思った。


 私がその子とグレイさんに声を掛け、二人に持っていたクッキーをあげた。


 子供は笑顔でどこかに走って行き、ホッとした雰囲気のグレイさんのお腹がなり、それを聞いた私はグレイさんを引っ張って私の店に連れて来た。


(自分も迷子で困ってたのに、よその子の心配してたもの。見かけは不審者でもいい人だわ)


 それからグレイさんは仕事前と仕事帰りに私の店に来てくれる。詳しい話は聞いてないが、下の兄様と下の姉様と同じ感じがするので、事務仕事か研究職の人だと思う。


 私はグレイさんがご飯を食べている間、お昼の準備や朝の片付けをする。


(たいていお昼は煮込み料理。後は付け合わせの為の野菜の準備、夜にも回せるもの、そしてカップケーキかパウンドケーキを焼く)


 甘い物は意外と人気なのでいつも沢山焼く。残ることはまずない。冒険者の人達が保存食としてクッキーを購入して行くからだ。


 キッチンで、がそごそしているとグレイさんが鼻をくんくんさせて聞いてきた。


「またなにか、甘いもん焼いてるの?」


「ジンさんの知り合いの方から安く栗を分けて頂いたので、栗のケーキを焼きました」


「え、美味しそう。まだ時間かかる?」



 私はオーブンを覗き、焼き加減を確認すると大きな声で答えた。



「そうですねえ。焼き上がりまでは後、20分ですけど、パウンドケーキですし、本当は半日位寝かせたい所ですね」


「半日かあ。じゃあさ、夜来るからさ、とっといて」


「分かりました。お待ちしていますね」



 グレイさんはご飯を食べ終わり、お会計をお皿の横に置くと、「じゃあね、ミアさん。また夜に」と言って出て行った。



「ありがとうございました。いってらっしゃい」



 グレイさんが出て行くと、私はテーブルを拭いて片付けをする。


 ああ、平和だ。私は昼も穏やかに過ごし、せっせとお菓子を焼いた。



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