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食べ物屋さんと不審者さん 《連載》  作者: サトウアラレ
三章 食べ物屋さんと素敵な不審者さん
11/16

美味しい食材

今日は一気にここまで投稿です。明日から一話ずつ投稿します。

「おはよう、ミアちゃん」


「おはようございます」


今朝も店を開けてすぐにジンさんがやって来て、少し遅れてカオリさんがやってきた。二人にご飯とお弁当を渡していると、次々にお客さんがやって来ては朝ごはんを食べ、仕事に向かう。


「いらっしゃいませ」


「おはよう、ミアちゃん」


「いってらっしゃい、気をつけて」


「ああ、また」


私はこの時に皆に「いってらっしゃい」と言うのが好きだ。今日も一日頑張って、明日もまた会えます様に、元気に帰ってきてね、色んな意味を込めて私は皆を送り出す。


メルポリの街はまあまあ大きい。だから、色んな職業の人が私の店にはやって来る。


冒険者が多いが、職人だったり文官の人だったり、本当に色んな人と毎日顔を合わせていく。



「おはよう、ミアちゃん。お弁当いつもの。今日キノコ採ってきたら買ってくれる?」


「あ。レイチェルさん。いらっしゃいませ。キノコですか?ちなみに何キノコを?」


レイチェルさんは私に顔を寄せると小さな声で話した。


「虹色キノコよ。昨日、新人研修で一角ネズミの狩りの訓練をしたの。その時に偶然、沢山生えているのを見つけてね。崖の側だったから新人には教えず、ギルドに報告だけして、今から採りにいくの。ギルドでも卸すけど、半分はミアちゃんに買って欲しいなって思って」


私も小さな声で返事をする。虹キノコは香りも良くて、歯ごたえがある美味しいキノコだ。


「虹キノコ!美味しいですよね!いいですよ、でも、他のお店じゃなくてうちでいいですか?高く買うのは無理ですよ?」


「ギルドと同じ値段でいいわ。それならミアちゃんも得でしょう?ミアちゃんに卸したら虹キノコのパイかシチューも食べれるわよね?」


嬉しそうに笑うレイチェルさんを見て、今入ってきた新人冒険者の男の子達が鼻を押さえていた。私は、新人冒険者に挨拶をして、テーブルを指さして座って貰うと、指を二本立てられて、食事と弁当を指さされた。


「お弁当と食事、二人前ですね?」


私の声にレイチェルさんが振り向くと、冒険者達はまた顔を赤くしたが、レイチェルさんの知り合いらしく、レイチェルさんも手を振って挨拶をした。


レイチェルさんは大物を狩れるA級冒険者なのに、新人冒険者達に一角ネズミや、毒スライム等の倒し方を教えている。綺麗でスタイルも良く強いレイチェルさんは老若男女から人気がある女性冒険者なのだ。


そして食いしん坊でもある。



「ふふふ。レイチェルさん、パイの準備をしておきますね。沢山あれば、キノコとジャガイモのグラタンもいいですね」


「最っ高!!雪苺も見つけたら持ってくるから!!じゃあ、いってくるわね!!」


「いってらっしゃい、レイチェルさん」


私の言葉にレイチェルさんはよだれを飲み込むと、お弁当を三つ買って足取り軽くギルドへと向かった。



「おはよう、ミアさん、明日はパイなの?」


キッチンに入ろうとした所で突然ふわっと抱きしめられて私は「きゃあ!」と驚いてしまった。



「はは、驚かせてごめん」


「グレイさん!!」



グレイさんは最近、皆の前でもこうやって抱き着いて来るようになった。そしてお客さんもそんな私達を気にしない。



「ははは。朝から仲が良いな。ミアちゃん、弁当二つと、今日の甘い物二つね」


「はい。ダルトンさん。かしこまりました。ほら、グレイさん、料理が運べませんから」


「うーん。残念」



そう言いながらもフードの下のグレイさんはちっとも残念そうにしていない。


グレイさんから自由になると、ダルトンさんに注文されたお弁当とお菓子を用意していく。



「ダルトンさん、今日の夜はレッドボアの煮込みですよ。明日はパイかシチューにします。奥さん、まだ調子悪いんですか?」


「うん、なかなかなあ。利き手をひねっちゃったからな。暫くはミアちゃんに女房の分も作って貰わなきゃな。俺の料理は不味いんだとよ。レッドボアはトマト煮?あいつ、好きだから喜ぶよ」


「はい!ハーブを沢山聞かせてジャガイモのバター炒めも作ろうかなと。奥様の分は夜、大盛にしますね」


「ははは!有難うよ。俺の分も大盛にしてくれ。今日も一日頑張るぞ!!」


「はい!気をつけて!いってらっしゃい!」



ダルトンさんがお金を置いて店を出ると、グレイさんはまたくっついてきた。



「ミアさん。今日の甘い物はなに?」


ゆっくりと身体を揺らしながら甘えるようにグレイさんはくっついてくる。


出会った頃の不審者満開のグレイさんであったならば、すぐに通報案件だろうけれど、私はなされるがままになっている。


私にぴとっと身体をくっつけて甘えるのは姪っ子達のようで、可愛いと思えてしまうのだから、私も甘えん坊なのかもしれない。


「今日はナッツクッキーかプリンですよ。持ち帰りの人にはクッキーですけど、店で食べる人は選んで貰っています。グレイさんにはクリームとキャラメルソースを作っていますよ。夜はカボチャのカスタードタルトです」


グレイさんは私の体から離れると一番奥のキッチンに近い席に座った。



「わ、やった。スープは?」


「野菜たっぷりのスープです。ベーコンと卵は幾つ食べますか?」


「二つ。パンは大きく切って欲しいな。チーズも付けて欲しい」


「かしこまりました」



私が返事をすると、グレイさんはにっこりと笑ってから、ノートを出して仕事をし出した。



「ミアちゃん、俺こっちにスープのお代わり」


「はい、かしこまりました」


「ミアちゃん、ここにお代置いておくわね。『今日の甘い物』もお願い」


「はい、ゴンさん。クララさん、いってらっしゃい」


「そうだ。ミアちゃん、ゴールデンベリーの事は聞いたかい?」


スープのお代わりをゴンさんに出すと、ゴンさんは思い出した、といいながら話し掛けてきた。


「ゴールデンベリー?」


「ミアちゃんは知らないか。五年に一度、南の森で採れるんだよ。黄色の小ぶりのベリーでね。朝採りに行くと光って金色に見えるからゴールデンベリーって言うんだ」


「美味しいのですか?」


「そりゃね。普通のベリーよりも甘くって。新米冒険者が採りに行くんだけど。前採ってから今年が五年目なんだが、まだ誰も採ってないんだよなあ」


「あらら。食べてみたいです」


「まあ、ミアちゃんが手に入れたら、ジャム作ってよ。それか、タルトかなあ。美味いんだ」


「ええ。是非」



ゴールデンベリー。


是非食べてみたい。南の森なら私でも行けるんじゃないかしら。


ゆっくりと平和に食べ物屋の時間は過ぎて行く。











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