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転生したら声優になりました〜なぜ、わたしは転生前の世界の自分を演じることになったのか〜 其ノ三

作者:

 部屋の中に緊張感が漂い、テスト開始の合図が告げられる。

 詩音は椅子に腰掛け、深呼吸をしながらマイクに向かって視線を送った。

 隣に立つ柚葉の目が輝いているのが視界の端に映る。


「負けられない…」


 と詩音は心の中で呟き、つぐみさんと柚葉に見えないプレッシャーを感じながら、演技に向けて心を静めるのだった。


 けど…

 皆、さすがに巧いわ…

 とくに、つぐみさんと柚葉は別格だ。


 けれども…


 わたし以上にわたしを知ってる者なんて、いやしないって…あはは


 はぁ…ほっとするわ~


 このまま行けば、わたしで決まるわよ、きっと。


 そら、そうでしょ。

 わたし以上にわたしを知ってるなんて、ないわよ、きっと…あはは。


 そして、シーンは続く――


「それじゃあ、シーン36、魔王軍に捕まって、くっころ!のシーン」


 しめやかに、テストが始まった。


 つぐみさんの「くっころ」展開のシーンは、彼女の声の安定感と絶妙な表現力が光った。

 彼女のウォレット家の女性騎士役では、騎士の誇りと屈辱の狭間で揺れる感情を巧みに表現していた。

 捕らえられているシーンでは、声が凛としながらも微かに震え、内心の葛藤をリアルに感じさせる。


「ここで死ぬわけにはいかない…でも、このままでは…!」


 という内なる叫びを、台詞の間の微妙な間合いで伝え、聴衆に深い感情移入を促した。


 詩音はその演技を見て思う。


「さすがつぐみさん、巧いわね…でも…」


 と心の中で感じる。


 巧みな演技に感心しつつも、自分が感じる「キサラ」の魂の重み、異世界でのリアルな戦いを経験した自分ほどの深さがないと、少し余裕を感じていた。


「私はもっと深くこの役を理解している…次は…柚葉ちゃんか…どんな演技を見せてくれるんだろ?」


 柚葉ちゃんは気弱に見えるけど、マイクに向かうと別人になる。

 なんていうか…まるで、そこにそのキャラの本人が現れたような錯覚を覚えるわ。

 天性の才能というか、天才というか…そんな感じね。


 さて、わたしも楽しみだわ。

 どう、わたしを演じてくれるのかがっ!


 そして、柚葉の演技が始まる。


 柚葉の「くっころ」シーンは圧倒的なインスピレーションで描かれていた。

 彼女の演技はつぐみさんと比べて即興的で、感情の波がよりダイナミックに表現されている。

 捕らえられたキサラとしての一瞬の絶望感から、屈辱と怒りに駆られて立ち上がる強さまでが、柚葉の演技には直感的に表現されている。


 観客を圧倒するその力強さに、詩音は不意を突かれた。


「えっ! 何この子…私より私らしい…?」


 柚葉の演技に詩音は驚きと自分の自信を揺るがすほどだった…


 いやいやいや…

 ないないない…


 わたしより、わたしらしいって…


 …なにそれっ!


 認められるわけないでしょうぉぉぉ!!


 ま、負けていられないっ!


 もっと、わたしよりわたしを演じなければ…


 思い出せっ! あの時の悔しい思いをっ!!


「………」


 ダメだ…排泄の時の屈辱の思い出が蘇ってきたわ…


 あああ! もうっ!!!


 ダメダメ! もっと、わたしよりわたしらしさを…

 わたしより、わたしらしいって…なに…?


 そんなのどうやればいいのよぉぉぉ!!


「はい、次、詩音さん…って、名前被ってて分かりにくいな、如月ちゃんでいいかい?」


「え…あ…はい、大丈夫です…」


「そう、じゃあ、如月ちゃん。それじゃあ、やってみようか」


「あ…はい…」


 ―――


 柚葉に打ちのめされて、いいところがないわたし…


 ―回想


「あ~そこは、もうちょっとトーン抑えて…」


「あ…はい…こうですか?」


「ん~~なんか、ちょっとシオンちゃんと違うかな」


「は…い…」


 …本人なんですけどね、わたし。

 なにが、違うんだろうか…


 わかんなくなってきた…

 

 自分で自分が分からない…


 これは…まずい気がするわ…

 

 なんとか、気持ちを切り替えないと…


 ―――休憩中


「はぁぁぁ…」


 わたしは、自分が分からず、深い溜息を吐いた…


 結局、わたしってなんなんだろう?

 あの時の気持ちって、どうだったのだろう?


「………っ」


 なに…これ…

 なんで、涙なんか出てるの…?

 

 なんで…なんで…なんで…


「…無様ね、如月 詩音さん」


「っ!!」


 宵闇 井草…


 一番会いたくない場面で一番会いたくない人に見られた…


「な、なんですか…ずぅ…ぅ…なんの用ですか…ぅ」


 詩音は目を背けながらも、どうしようもなく彼女の視線に捉えられていた。

 涙が頬を伝い、恥ずかしさと自己嫌悪に心が押しつぶされそうになる。


「あなた、本当に何を考えているのかしら?」


 井草の声は冷たく、同時に彼女の内面を見抜くような鋭さがあった。

 詩音はさらに混乱し、ますます自分を見失っていく。


「…わたしのいったこと、覚えてるかしら?」


 『あなたには欠けているものがある』


 井草先生は、そう言っていた…


「覚えていますよ…欠けているものがあるんですよね? わたしには」


「そう、欠けているのよ、あなたは」


「…なにがですか?」


 そう聞くと先生は眼を大きく見開き、わたしが気づいてないことに驚いた表情で話しだした。


「…呆れた。ほんとに気づいてないのね」


 ――ムッ!!


 その言い草に、わたしの心のどこかが音を立てて崩れた!

 そして、激しい感情に支配される…


「わからないんですからっ! 仕方ないでしょっ! なによ。それっ! あなたになにがわかるのよっ!」


 わたしは悔しさ、悲しさ、自分の無力さ、様々なものに押しつぶされて井草先生にあたってしまった…

 くやしい…そのあたったことへの精神力の弱さまでも、わたしは悔しかった…

 先生だって悪いのよっ! 

 こんな気持ちのわたしのところにきて、悪態つくんだからっ!


 もう、いやだ…

 そう思う自分も嫌になる…


「うぅ…」


 わたしは、自分の嫌な部分を目の当たりにして、嗚咽してしまった。

 たぶん…ひどい顔をしているのだろう…

 そんな顔をこの人に晒すなんて…


 惨めだ…


「…そうよ、あなたにはその感情が足りなかったのよ」


「えっ…」


「ほんと無様ね、如月詩音さん。あなたにはキャラに対しての貪欲さがない。彼女の痛みや葛藤を感じ取れていないから、演技が伝わらない。自分を見失っていると、他のキャラクターも見失うわよ。まずは、あなたがどう感じているのか、もっと深く考えなさい。そして、他の人の演技から何を学べるか、自分のものにするために努力しなさい」


 …キャラって言っても…自分自身なんだけどね…


「ずずずっ…わかりました…先生のアドバイスは感謝します…けど…」


「それでいいわ。あなたはあなたなのだから…それじゃあ、期待してるわね。シオンさん」


 そう言い残すと、井草先生は去っていった。


「………」


 気を取り直そう!

 わたしはわたしだっ!

 今までのわたしを捨てて、キサラのわたしに戻ろうっ!

 それでいいはずなんだっ! 


 きっとっ!!!

  一応続き書いてみました。 

  誤字脱字報告、感想なども頂ければ幸いです。

  面白ければブクマ、★をお願いします。


 本編進めないといけないのに…

 ちょっと、この話しが楽しくなってきちゃいました…

 本編進められなくて、ごめんなさい…

 本編もあんなにフィリップのところ長くするつもりなかったんですが…

 フィリップを書いてて、なんか楽しくなってきてやりすぎました…

 しかも、たたみ方がある程度考えていますが、しばらくお待ちください。

 出来るだけ、進めていきますので…

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