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聖剣、飛来

「ミドリ、今日は早く寝な」

「へいへーい・・・・・・」


 姉ちゃんの不機嫌な声色に圧をかけられてしぶしぶ自分の部屋に向かう。

どうして機嫌が悪いのかと言えば、それは大いに心当たりがあって・・・・・・簡単に言えば昨晩の俺の行動が原因だ。

一体何をしでかした・・・・・・と言うと大層なことのように聞こえてしまうかもしれないが、単純に俺が夜うるさくしすぎたというだけだ。


 そういうこと以前にも、俺は大学進学を機に一人暮らしで我が城を築き上げていた姉の生活空間に転がり込んできたお邪魔虫に過ぎない。

たまたま俺の受かった高校が姉の家のそばで、じゃあどうせならと実家を追い出されて姉の狭い家に追いやられたのだ。

つまり俺と姉ちゃんは両親の采配の被害者であり、抗うすべなどなかったということだ。

 

 などと弁明してみるものの・・・・・・結局昨晩は俺が悪かったというのを認めざるを得ない。

友達と通話しながらゲームに興じていたら、その・・・・・・少し興が乗りすぎてしまったのだ。

時間を忘れて騒がしくしていたら、気がついたら日が昇っていた。

それを隣の部屋で聞かされていた姉ちゃんは通話中ということに気を遣ってその瞬間は耐えていたものの、通話が終わるや否や殴られた。

普通に。

グーで。


 そんなわけで今晩こそは大人しくしてろというわけだ。

もちろん不必要に反発するようでは共同生活を送る上でお互いに良くないので、今晩は反省しながらさっさと寝る。


 さて、そうして向かった自室だが・・・・・・。


「いつ見ても味気ないよなぁ・・・・・・」


 一人暮らしを謳歌していた姉の住居に転がり込んできたわけだから、当然快適に過ごせる部屋が二人分あるわけじゃない。

俺が使用を許されたのは半ば物置のような小さな部屋。

まぁ立場上贅沢は言えないのでもちろん文句はない。

のだが・・・・・・。


 この狭いスペースでは生活に最低限必要なものを置いただけでいっぱいになってしまう。

おまけにこのスペースで人間が生活することが想定されていないので、窓の位置がかなり微妙だ。

というか単純に小さい。

一番日の当たる時刻でもどうしようもなく薄暗い。

そういうこともあるので、俺はひそかにこの部屋を独房と呼んでいる。


 昨日は一晩中カタカタやり続けていたパソコンには触れず、中央の薄っぺらい布団に横になる。

通常の敷布より一回り小さいくらいのそれですら完全な状態で敷くことは出来ず、常に端の方は壁に沿うように捲れあがっている。

もちろん足を完全に伸ばすこともできない。


 適当に選んで買った枕を二つ折りにして頭の下に、そして照明の明るさを一段階落としたら充電器につなぎっぱなしの携帯に手を伸ばした。

寝っ転がった状態で画面を見るといくつか通知がたまっているのが見える。

クラスのグループチャットの通知と、友達に送った他愛もないメッセージの返信が数件。

どれも特に返信が必要なさそうなのを確認しながら、携帯にイヤホンを繋いだ。


 そのまま特に何を考えるでもなく動画アプリを開いて、興味の赴くままに適当に再生。

しばらくするとだんだん眠たくなってきたので、動画の自動再生をオンにして目を閉じた。

はっきりいってあんまりいい習慣とは言えないだろうが、こうやって能動的に寝落ちするのがいつもの入眠手順だ。

結構友達にもこういうのは少なくないし、まぁ現代っ子の平均的な姿なのかもしれない。


 既に曖昧になり始めた意識に、垂れ流されている動画の音声がこだまする。


『・・・・・・噂の未確認生物の・・・・・・』


『意識不明者が・・・・・・今年だけで・・・・・・』


『巨大な隕石の接近が・・・・・・』


 夢うつつの意識下で、もはやそれらの言葉は意味を持たない。

単なる音だ。

いくつものとりとめのない話題が、さまざまな毛色の動画の音声が、求めも拒みもしない脳に流し込まれる。

そしてもう、それすら知覚できなく・・・・・・。


べキッ・・・・・・!

メリメリッ・・・・・・!!

ズガッ・・・・・・ザク・・・・・・。


「・・・・・・は!?」


 とろけだしていたはずの意識が一気に狭い独房に引き戻される。

突如訪れた、音。

それもすさまじい音量で、すさまじく不快なもの。

本能が生命の危機を感じて鼓動を暴れさせる。

反射的に見開いた目に映るのは、穴の開いた天井だった。


 パラパラと天井の一部が砕けて散り、穴から差し込む月明りの中を埃のように舞う。

真っ白になってしまった頭の中は、大きめの破片がカランと床に落下した音で色を取り戻した。


「え、いや・・・・・・は? え・・・・・・???」


 今の音を聞きつけてか、慌ただしい姉ちゃんの足音が近づいてくる。


「ちょっと! 今すごい音したけど!? 何? 大丈夫な・・・・・・え?」


 半ば叫ぶようにしながら姉ちゃんが独房の戸を開け放つ。

そして目に入ってきた光景に言葉を失った。


「ね、姉ちゃん・・・・・・これ・・・・・・」


 そこにある・・・・・・いや、おそらく空から飛来してきたそれを指さして助けを求めるように姉ちゃんに語り掛ける。


「あんた、これ・・・・・・は? え? ミドリがやったの・・・・・・?」

「いや、知らんて・・・・・・。その・・・・・・降って? 来た???」

「どこから・・・・・・?」


 姉ちゃんは唖然としながらも、天井に空いた穴を見上げる。

もちろん、それを見たところで「どこから?」の答えたり得るものは見つからない。

空からと言ってしまえばそりゃそうなのだが、それで「はいそうですか」と納得できるわけがない。

俺も、姉ちゃんも。


 空から飛来した、それ。

賃貸の天井をぶち抜いて、俺の足の間・・・・・・敷布団を貫通して床に突き刺さったそれ。

どこからどう見ても、それは・・・・・・剣、のように見えた。


「えっと、ミドリ・・・・・・ケガは?」

「無い・・・・・・です、一応」


 こんな時でも一応心配してくれる姉。

その根っこの部分の優しさに感謝しながら、顔を見合わせる。


「「えっと、これ・・・・・・どうしよ???」」


 姉ちゃん、ごめん。

今夜も寝られないかも。

でも、これは・・・・・・俺のせい、じゃないよね?


 


 

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