#006双見湖で祀られ眠る土地神は日本の魂が宿っていた!? (前編)
脱走した生物兵器の問題は未だ終息したとは言い難く、下流地域での目撃情報には咬まれる被害の他、幻覚に襲われると言う話も出ているが、それこそが生物兵器の兵器足る素因を疑われてもいる。
これに対し政府は恐怖心から来る精神的なものとし扱い、広義の向精神薬の拡充に米中からの輸入量を増やし、国内企業にも抗精神病薬の製造を発注、その利益が一部の団体へ流れている事が判明するも報道は薄い。
民衆の不安につけ込む外資の利権特需に湧く製薬関連の闇を知る者とそうでない者との情報格差は、互いの主張に反発し合い分断を招き、政府に都合の悪い者達を非国民扱いに馬鹿にしては、彼等こそが精神病だ等と言い陰謀論として切捨てている。
そうした現状の不満に、ネットで書き込まれた妙な噂が波紋を呼ぶ。
「事件の以前から双見湖周辺で起きていた過去の水難事故にも、生物兵器が関与していたのではないか?」
双見湖周辺で起きた水難事故を過去に遡って調べてみれば、精神病と切り捨てられていた件が幾つもあり、精神病患者と罵り馬鹿にし散々ネタにしていたネット民だが、今更にも生物兵器の被害と酷似する点を見付けた事により関与を疑う声も多くなり、向精神薬問題で意見の割れた民衆もコレに関しては疑いの目を向けている。
けれど他の件では曖昧な回答を続けていた国も警察も、この件に対しては即時関与を強く否定している事から余程の自信があるのかと思えば確証も無く、質問に回答もせずただ否定するのみで、結果として余計に怪しむ声を増やしたに過ぎない。
にも関わらず双見湖周辺で起きていた過去の水難事故に、生物兵器との因果関係を追うジャーナリストは一人として居ないのが現状だ。
何故ならこの件を調べる事は国や警察の発表を偽証とする話でもあり、調査しようにも過去の水難事故の資料は警察が握っている為、聞き込み調査では証言までしか得られない。
それこそ陰謀論を記事にするは報道に非ずとする現代社会において、それは社の看板リスクにも繋がり、政府とも繋がるスポンサー有り気の報道ごっこの限界を露呈している。
そんな中、オカルト刊行誌の我々が別の件を追う中、結果として渦中の水難事故の核心へ迫る事となった。
だが我々が今回追っていたのは【#002 鑑石伝説には神と仏が争い呪う驚愕の真実が隠されていた!!】の回で触れた、鏡石神社の伝説にある一説。
『鑑見川から現れし神の化身』
この神の化身を鏡石神社が祀る神とはしていない事に疑問を抱き、御神体を鏡石としていた経緯に祀る神を探そうと、再び鑑石市へと向かい周辺に残る神事や神社を調べた処、意外な真実が見えて来る。
神の化身が現れたとされる鑑見川が双見湖へと流れ込む今に、その双見湖で行われる神事は山の神を祀っており、その神の名を鑑見様と云い、川の流れに信仰も繫がっていた。
【双人鏡の儀】
冬に双見湖の湖面が凍結すると行われる神事で、凍結した湖面で巫女が大きな二つの鏡を合わせ、太陽の光を一点に集光して凍る湖面に穴を開け、水を齎す双穴水鏡山の神とされる鑑見様への祈りに生贄を捧げ、その御心を鎮めるというものだ。
神事に関する古文書類には、女性が巫女姿で凍結した湖面で踊り経を唱えて祈りを捧げ、鏡で溶かし開けた穴に身を投じるとされ、明治初期までは儀式で本当に生贄を捧げ執り行われていたとある。
昭和の戦後に書かれた資料では、湖畔に鏡を置き祈りを捧げ、開けた穴に養殖で育てた在来魚の鱒をバケツ一杯放流するのを生贄としているが、平成に入って以降は凍る頻度が減り神事を知る者も少ない。
この生贄となった巫女の流した涙が溢れ出た神聖な水、とされるのが双見湖より西へ流れる美子川の事で、古くは巫女川と記されていた。
それ故に、病気や厄払いの清めに川へ身を投じたり、神事には必ず美子川の水を汲んで行われている訳だが、【双人鏡の儀】を執り行なっている双巫神社もまた美子川沿いにある。
ご協力をいただいている加々見先生は以前この双巫神社へ来た折に面白いものを見付けていたらしく、我々に同行し案内を買って出てくれたのだが、これを素に様々な事が繋がり始めた。
双巫神社の入り口に着いて直ぐ、加々見先生の言う面白いものを理解したが、劣化に摩耗したそれは写真に撮ってみたものの判別のしようが無く、言葉で説明する他にない状態だった。
というのもそれは神社に置かれる二つの狛なのだが、使われている石が何時の頃の物なのか相当に削られており、凡そ元の形を成してはいない。
ただ、形状に違和感を覚えるのは間違いなく、巴もしくは勾玉の形状を想像していただけたなら、それが狛として両に置かれる違和感を理解出来るだろう。
大概は神紋に二つ三つで描かれる巴が狛とし置かれる妙にも、人の手によるものだけではなく、土地柄に雪で摩耗し削られ今や球形は残るも、窄まる先の部分は台となる石と同化していて一見して狛だと気付ける者は居ないように思える。
加々見先生が気付けたのは、槍水町加々見方にあるお社への参道脇に、同じく元は巴のような丸い狛が存在する事を知っていたからに他ならない。
実はその加々見方にあるお社では双巫神社と同じ狛を配しているものの、加々見のお社の神事に鑑見様の名は出て来ない。
加々見方にあるお社は加々見川の源流にあり、神の化身が現れた鑑見川とは双穴水鏡山を挟む形で対となり、同じくして双見湖へと流れ込む。
山からの恵みに土着信仰の土地神様を祀るお社なのだが、地元では冬幻鏡と呼ばれ恐れられていた場所でもあるが、今は雪屏風と呼ばれる観光地となっている。
このお社の狛もまた、谷間が故に颪の風雪に曝され削られただの球体と化しているのだが、何故に巴に近い何かと知れたのかは、この地で執り行われる神事に使う鏡にある。
場所が知れると無断侵入に人的事故等の危険な問題も起きる可能性に詳細は控えるが、この土着信仰に纏わる厄災を封じる神事に二枚の鏡を用いるらしく、その鏡に神紋が描かれていた。
それと同じ神紋が双巫神社の境内にある門石にも彫られており、双方の神社で信仰する土地神を表す神紋が重なった事で狛も同じと紐付いた訳だ。
双巫神社の門石は御影石が故か、神紋の形をクッキリと残していたので、先ずは写真を見てもらおう。
お分かりだろうか、二つ巴とは違う事に、一見すると鯰のようだが、蛇足とも思える脚の如きものがある二対の山椒魚のようなモノが向き合う姿となっている。
これは誰かのイタズラによるものではなく、双巫神社の宮司に確認した折にも、元よりこの形で彫られた物であるとの話で、これがハンザギを云う大山椒魚ではないかとの応えをまでいただいた。
詰まる話、【双人鏡の儀】で祀られる双穴水鏡山の神様である鑑見様は、大山椒魚ではないかとの見方に繋がった訳だが、ここで思い出してもらいたい。
「#001激録!! 坑道崩落に揺れる双見湖に、謎の巨獣【フタッシー】を見た!!」
この回に添付している撮影されたモノの姿を。
そお、フタッシーと目されるあの全長にして十五㍍はあろう謎の生物だ。
湖畔で幼児や女性が湖に消える事故が頻発していた当時も、助かった皆が一様に何かに引っ張られたと証言しており、目撃談もある。
「娘に咬み付き湖の奥へと泳ぎ引き摺り込もうとする2㍍大の黒い塊を見た」
そうした証言もあるのに警察発表された精神病をネタにとされた過去では、憶測に誰かが放流した巨大ナマズやワニだろう等とする妙な噂がネットに火を付け、神事の情報までを捻じ曲げ創り『生娘の生贄が必要だ!』だのを抜かす不貞な輩の下世話な話題となっていた。
だが、この水難事故というのが双見湖が凍らなくなった近年になって起きている辺りに、ネットの下世話な話もあながち間違ってはいない可能性もある。
双見湖が凍らなくなった事で【双人鏡の儀】も行われず、生け贄を捧げる事が無かったのだから、贄を欲して襲っていた可能性が無いとは言えない。
凡そ遠からず近からずの話も、実際に撮影されたあの個体が何かによるものではあるが、フタッシーが双見湖に居るのは間違いないのである。
と、これにて前編を〆させていただくが、後編では鏡石神社が御神体を鏡石としていた理由と共に、鑑見様についての謎を解き明かそうと思う。
ライター:Kタナカ
地域文化資料記事作成協力:加々見 温子
著書:地域言語で探る地政史シリーズ『銀鉱に揺れた鑑石村』