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Argo  作者: オカルト四季刊行誌アルゴ編集部
【緊急特別版】双見湖・双穴水鏡山エリア特集!
6/9

#005古井戸を爆破したのは宇宙人だった!?


 双穴水鏡山(フタロクミカミヤマ)に掘られた江戸より昔の古い坑道内に溜まっていた何らかのガスが引火爆発を起こし、坑道が崩落した事は記憶に新しい。


 山裾東にはカルト教団の施設が在り、その斜面に掘られていた古い坑口を生物兵器の開発研究施設(ラボ)としていたらしく、坑道が崩落した際に内部の伏流水が坑口へと噴き出した事から、川と化す程の水の勢いに生物兵器が脱走し鑑石市内へ被害が拡大した。


 その事件直後、国交省の外局である気象庁が火山活動では無い旨を強調し、それを受ける形で警察が報道会見で起因と見なし語った中の、見解の肝となる部分に我々は注目した。



「登山客が古井戸に捨てた煙草が溜まっていたガスか何かに引火し爆発……」



 この【古井戸に煙草を捨てた登山客】とは何者なのか!!


 これを発表したのは事件発生から間もない数時間後の事であり、市内に逃げ出した生物兵器の殲滅活動をしていた折、爆発と崩落による雪崩の発生に山で何が起きたかも判らず、入山するに適わぬ時間。


 警察は何処からその情報を知り得たと言うのか、爆発した山から遺体の一部が出たという情報も聞くが発表から数ヶ月後の雪解け後の話で、それが登山客であるか否かも含め正体は謎のままだ。



 それを知る可能性を秘めたとある物を探す為、我々はいの一番に【堀内家の古井戸】へと向かう必要があり、道路状況を探った。


 だが双穴水鏡山へ入ろうにも、例の生物兵器が山へと逃げた可能性から入山自体を規制され、機動隊と自衛隊とが地元の林業や猟師組合員等と共に山中の探索が続く事に、入山規制が解除されるまでに凡そ四ヶ月程を要した。


 その間地元では銃声が何度も聴こえたというが、共に入山した関係者は口を噤む事から、作業に就くにあたり国の機密事項として扱われる書類に名と判を押したのだろう事が窺える。


 教団施設から噴き出た水の流れに生物兵器の危険性を考え、一時は双見湖護岸にバリケードを張る案が出たものの、双見湖から東南へ流れる麻布川(マブガワ)と、西へ流れる美子川(ミコガワ)という二つの大きな河川や小さな支流までもを警戒しなければ意味を成さず、その総量からの試算に断念した事で下流地域からの非難は今も尚多く出ている。



 国の大臣や警察が何を以て安全としたのか知れた話に、雪解けに五月十五日から水鏡峠の通行規制が解かれると判り、堀内家の古井戸へは新人ライターである私キチカと、カメラマンのティーバで向かう事となった。


 だが当日の早朝、現地に着いてみると未だ一部に補修工事箇所の規制が残っており、双見湖展望駐車場へは行けないと判明。


 地図との睨み合いで鑑見港近くの旧林道跡を見付けるも、教団施設からの水は尚も止まる気配を見せず、水が噴き出している穴に網を被せただけで、古い云われ名の鑑見(カンガミ)川と化していて山側へ渡る事が出来ない。


 正式に鑑見川とする考えなのか崩落により崩れた山側の家を取り壊し、国交省所管で河岸工事を始めており、皮肉な事に川と化したその道だけがバリケードで閉ざされている。


 そうした中で元の山側に残る家の資産物品を持ち運ぶ為の一時的な橋の存在を知り、そこを通って行こうにも許可が必要との事で手詰まりになり悩む中、旧林道の入口近くに家を持つ御婦人からお誘いをいただき、川向こうへと渡る事が適った。



 意して臨むも道には崩れた箇所が幾つもあったが、都度に迂回路が設けられており、想像するに生物兵器の殲滅隊がこの道を使い入山したと思われる。


 けれども隊は殲滅を目的に向かった先を違えており、我々の目す方向には道を失くしていた。その為、崩壊した道にフックを掛けてのクライミング状態で進む箇所もあったが、何とか裾野東の中腹に走る作業林道まで辿り着く事が出来た。


 崩落前は多少の幅を持っていた作業林道も半分程が土砂に埋まり倒木が行く手を塞ぎ、場所によっては崩落に沈み窪地や岩の突起に加え、上方の爆発の威力を物語るように峠道の上の方から飛んで来たガードパイプや反射板の破片も散乱する有り様。


 これを見た段階でも“謎の登山客”の存在など、どう調べた所で如何なる者にも知れる筈が無い事だけは理解出来た。



 北へ少し行くと大きな噴火口の如き陥没地帯を見付けたが、周辺に散らばる石が人工的に角を削られている事からも、ココが元の堀内家の古井戸である事を示している。


 崩落前は観光用に東屋が設置され、井戸には落下防止柵に網まで張られていたが、今は無惨にも無残と記した方が分かり易い程に全てが吹き飛んでいて坑の痕跡を見付ける事すら困難な状況だ。



 この堀内家の古井戸は、昭和のワイドショーで『古井戸の宇宙人』と云われ、時折古井戸の中から聴こえる奇妙な音にお茶の間の興味を惹き、一時は有名な観光名所にもなったので記憶にある方も居るだろう。


 低い唸り声・高い金属音・SF映画やアニメのレーザー銃のような音が聴こえると話題になり、元々地元では子供が啜り泣くような妙な声が聴こえるとして『古井戸の泣き女』と云われ、地元の子供が度胸試しに行くような所だった。


 この“泣き女”というのが、先のKタナカの記事内にある【鏡石神社の伝承】の中で、石神家の長兄が密会に連れ出すも鑑見川(カンガミガワ)より現れし神の化身に咎められ、黄泉の国へと連れ去られたという鑑石寺の“堀内家の娘”なのだとも云われている。



 実は、我々が堀内家の古井戸を目していたのは、偶然にも崩落前日にこの古井戸に訪れており、音の正体を暴こうとカメラとマイクを古井戸の中に向け設置していたからに他ならない。


 ティーバの記憶によれば、小型のアクションカメラをCOBライトに取り付けカラビナフックに吊り、柵の天板中央部からロープで降ろし録画。また、機材担当のメッシも簡易マイクを柵の隙間から古井戸の中へと向け入れ固定し録音。


 設置当時は、行き帰りの道に積もる雪を端に寄せる作業の1時間半程を撮影し、映像や音声を確認するのにメディアを抜き取り別の物と交換し微速度撮影(タイムラプス・モード)に設定、更には古井戸の柱にセンサー式暗視カメラを取り付けていたのは皆も確認していた。



 詰まる話にそれは【古井戸に煙草を捨てた登山客】の映像が撮れている可能性が有ると言う事。



 だが、件の爆発により建屋も古井戸も何から何まで木っ端微塵に吹き飛ばされている惨状からして、カメラやマイクといった機材を回収出来る可能性は極めて低い。


 その状況に落胆の色は隠せずも、せめて記録メディアだけでも残っている事を期待し探索方針を考えるも、周囲は崩落雪崩で雪と共に流された土や石が被さり、見付ける事は困難にも思えた。


 爆発の程度を確認に少し北へ向かった所で東屋の屋根の一部を見付け、その周辺を重点的に金属探知機を用いて探す事としたが、五日探しても見付からず方針を練り直す。



 そんな中、入院中の機材担当メッシから送られて来たのは、ティーバが送っていた現場写真から爆発の規模と飛散範囲を予測したデータで、東屋の屋根が北へ飛んだなら井戸に付随する柵や網やは南方へ飛散した可能性が高いとするものだった。


 メッシの予測データに賭け、実に二週間もの期間を有して遂に、古井戸内部を撮影していたアクションカメラを発見するに到ったが、当然のように防水ケースは焼け焦げ中のカメラも溶けていた。


 更には少し高度を下げた所にセンサー式暗視カメラも見付けたが、コチラは見るも無惨に中の基盤も記録メディアも焼け焦げ溶けていた。


 録音機器は余りに小さく残骸の多さに諦めざるを得ず、見付かったとて我々が現地で聞いた爆発音からしても音を振り切ってしまい、まともな音は残っていないだろうと捜索終了の決断に至った。



 社に戻り臼木編集長(物言う木)に愚痴愚痴言われながらも確認してみると、なんと記録メディアは生きていた!


 そして、そこには衝撃の事実が残されていた。記事の投稿が遅れた分を取り戻すに十分だろう爆発の瞬間がコレだ!!




挿絵(By みてみん)




 翌朝回収に行く予定だった為か、微速度撮影(タイムラプス・モード)の設定をメモリ容量を食う一秒一コマ撮影にしていたらしく、お陰様でそれなりの映像にはなっていたが、これより前に残る映像の何処にも人の影も投げ捨てられた煙草や煙の類すら見当たらなかった。


 詰まる話が、警察が報道会見という公の場で発した【古井戸に煙草を捨てた登山客】等という者は存在せず、列記とした虛偽報告であり、この映像は登山客はおろか人も居ない煙草も無い事実を証明するものだ。


 コレを質問状と共に警察へ送付した処『オカルト雑誌が何を騒いだ処で誰が信用するものか』とでも言いた気に回答も取材も拒否されたまま今に至る。


 ところが先日、動画サイトに件の爆発が起こる直前に双見湖へと着水する飛空艇を捕らえた動画が上げられ『消えたと噂される海上保安庁の所属機ではないか?』と、話題になった。


 これに過剰な反応を見せた国交大臣は『証拠とするに不相応なフェイク動画は国民の不安を煽り、そうした行為は断じて許されるものではなく遺憾である!』と、これを一蹴した。


 だが、これには空港や基地の周囲でカメラを構える航空マニアからも同日基地から飛び立った時間が重なる事に、海保の飛空艇はフライトレーダーを残していないが、夜間に着水地となる双見湖上空を県警ヘリや消防ヘリが異常なまでの低空で周回していた事から航空マニアに撮影されたものであり、フライトレーダーに残されていないからこそに疑われてもいる。


 そうしたマニアの情報までもが紐づき、姿を消した所属機の所在を問われた国交大臣は『公表出来ない特殊任務に就いている』と、苦しい発言が続いている。


 海上保安庁と言えば気象庁と同じく国交省の外局にあり、警察とも自衛隊とも別を成す謂わば時の政権与党の都合に動かせる駒としての役割りが目立つ組織だけに、何故に双穴水鏡山の爆発直前に双見湖へ着水していたのか大いなる権力の都合が見られ、それこそ嫌疑の渦が飛行艇をも呑み込んだように思えてならない。

 


 では、人も煙草も居ないなら何故に爆発は起きたのか……


 警察が直隠しにする理由も国家権力に帰属する何かだろうかと考えさせられるが、山の爆破に近隣住民を巻き込んでまでする必要を考えれば、国民を代償に(コラテラル)するやり口(・ダメージ)はカルト教団の生物兵器と大差無く、単なる国の責任転嫁にも思えて来る。



 権力闘争の危険な臭いに思考が一回りした所で、古井戸から聴こえると云われた音の正体に原点回帰しようと思うが、オカルト誌として考え直せば……


【坑道内に隠し駐めていたUFOで飛び去った宇宙人】


 とでもする方が平和的なのかも知れない。


 しかし、それをデスクで口にした途端、我が編集部においてはそれすらも平和的で無い事を思い知らされた。


・何処の星系から来た宇宙人なのか?

・飛び立ったUFOの大きさや型式は?

・何時代に飛来し駐めていたのか?

・駐めたなら坑道内部に維持管理機能を有する格納庫施設が在るのでは?

・当時の山を統治していた将軍との関係は?

・何を食し何を目的に飛来したのか?

・宇宙人の姿を目撃した者は居ないのか?


 等と問い詰められ、ここではUFOですら絵空事で済ます事は許されないのだと、余程に警察よりも調査を強いられる部署なのだと思い知らされた。



 けれどティーバとメッシが爆発前日に一旦交換していた一時間半程を録った記録メディアにより、あの『古井戸の宇宙人』と云われた音の正体は暴いてある事を伝え、これを以て締めとする。


 爆発前日に堀内家の古井戸で録音したデータの中にもレーザー銃に聴こえる音が有り、音から井戸内の反響ノイズを消して行くと、反響のリズムが一定ではない為にズレた反響音が元の音にズレたまま重なり合う。それが幾つも繰り返されると元音の多くの音域が(ノイズ)()定位キャンセリングで打ち消されてしまうのだ。


 以下の波線を波形として例えるなら。


 →時間軸

 ↓ 元音 〜〜〜〜〜〜

 発 反響音 〜〜〜〜〜〜

 生 反響音  〜〜〜〜〜〜

 軸 反響音   〜〜〜〜〜〜


 上の波線が全て重なると、元音の中音域や被さる高低音域もが(ノイズ)()定位キャンセリングで打ち消され、反響も反響し時間軸がズレた反響にまで反響が重なり、響鳴に共鳴し更に(ノイズ)()定位キャンセリングされて尚残る音だけが古井戸の外へと漏れ聴こえる事から、ズレた音が足された元音には無い音を作り出してしまう。


 全ては水枯れの古井戸が坑道に繋がっていた事から反響が暴れ回って返る為に起こる現象であり、一時話題になった動画で、南極の氷を調べるのに深くまでを採取するのに開いた穴、これに氷を落とすとアニメや映画で使われるレーザー銃のような音になるアレと同じ原理だった。


 呆気なくも解けてしまった【古井戸の宇宙人の謎の声】に、やはり宇宙人説の方が夢があるようにも思えて来るものだ。


 それ故にも【古井戸を爆破したのは宇宙人だった!?】としておこうと思う。

 


ライター:キチカ

カメラ:ティーバ

機材担当:メッシ

 

【改稿理由】

・名前の訂正と別称のルビ入れ。

・解説を解り易くしました。

20240903646

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双穴水鏡山
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[良い点] 古井戸から聞こえる謎の音、そして謎の大爆発。そこに鋭く切り込んでいく記事に引き込まれました。煙草を捨てた登山客とは、本当にいたのか…数々の状況証拠や記者の考察に加えて、ついにはその瞬間の映…
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