プロローグ オルビオン聖領国近隣の伝承より
昔々、諸国を旅する吟遊詩人がいました。
彼は竪琴を奏で、歌を歌ったり伝承を語るのが得意で、どこの国へ行っても彼の演奏には人だかりができました。
そして必ず、その国の王様の前で演奏することになります。
素晴らしい演奏に感激した王様は、たくさんの褒美を吟遊詩人に与えました。
ところが、あるとき、吟遊詩人に褒美を与えなかった王様がいました。
「ただの放浪者のくせに、竪琴を弾くだけで大金をせしめようとはけしからん」
その王様は吟遊詩人をお城に呼びますが、それは褒美を与えるためではなく、牢にぶちこむためでした。
しかしどうしたことでしょう。吟遊詩人は牢に入った次の日の朝には、忽然と牢から姿を消してしまっていたのです。
牢には、吟遊詩人の代わりに、手紙が残されていました。
『この国に呪いをかけよう。王は狼男となり、その王家が国を治めなくてはならない呪いを。呪いを解くには、別の世界からやってきた聖女を妃にしなくてはならない』
こうしてそれ以来、この国では王になる者は必ず、狼男と化してしまうのでした。
こうなると誰も王になりたがる者はいません。王家になりかわれば今度は自分の血筋が呪われてしまうのですから。
そんなわけで、この国では王権を巡る争いが起きず、とても平和で豊かな、民にとっては住みやすい国になりました。
けれど、王にとっては、たまったものではありません。
この国の王はいつも、こんな呪いをかけられた先祖を恨み、血眼になって別の世界からやってきた聖女を探し、見つけることができず、絶望しました。だいたい、別の世界から聖女などやってくるわけがないのです。むちゃくちゃな条件です。呪いはぜったいに解けない、と言っているようなものです。
こうして王様は呪いを呪い、狼男として恐れられながら、寂しく生涯を終えるのでした。