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【第一部完】魔法もどき(マジックイミテーション)—鑑定士カラット・アルデバランの秘密—  作者: 曙ノそら
第一部 鑑定士カラット・アルデバランの秘密
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第8話 最後の魔女、魔法もどき



「まず、この短剣はおよそ四百年前に作られたものだ。そして、この短剣は間違いなく魔法族の手にあったものだ」


 突飛な話に呆然とするライラを置いて「これには私のマジックイミテーションの話をしなくてはいけないね」と言いながらカラットは俯いたことで落ちてきた金糸の髪をかきあげた。


「もう君も察しているだろうが、私のマジックイミテーションは目に力が宿っている。そしてその能力だが、私はこのマジックイミテーションという力で道具の秘めたるもの――要するに道具に込められた魔力や(まじな)い、魔法陣なんかをを読み解くことが出来る。私の目は今はもう誰も作れなくなった魔法具に込められた魔法やその名残りを見ることが出来るんだ」


 カラットは左手の人差し指で自身の桔梗色の目を指差しながら言った。




 魔法もどきマジックイミテーションは、その名の通り、魔法にはなりきれていないが不可思議な力を持つ者、また不可思議な能力そのもののことを言う。


 二百年前、最後の魔法族であるユリリカ・べベロニカ・ミアプラキドスという魔女が享年百四十七歳で亡くなったことで魔法族は絶滅が確認されている。

 かの大魔女ユリリカ・べベロニカ・ミアプラキドスは自らが最後の魔法族になるであろうことを占いで予見していた。自分の運命を悟った彼女は全ての魔法族が消えても最後まで残されてしまうことになる魔法具が悪用されてしまわないように、間違った知識が残ってしまわないように力を尽くした。魔法具は魔法族の魔女や魔法使いが道具などのモノに魔力や魔法陣を刻むことで能力を付加したもので、魔法を使えない人間でも不可思議な力を頼ることができるというものだった。そしてそれは作成した魔法族が死んでからも効果が残るため、ユリリカ・べベロニカ・ミアプラキドスは生前、強大な力の込められた魔法具を全て確認していた。

 魔法族は生まれるたびに魔法族内のコミュニティに登録され、監視される。魔法族は魔法族同士からも非魔法族同士からも、魔法族と非魔法族の間からも生まれるが、総じて魔法の力について学ぶには登録が必須で、登録できなければ杖の入手もできないため、いずれは魔力暴走を起こすことになるだろうというのが知れ渡っていたこともあり、登録漏れはゼロと言い切ることはできないものの五百年に一人いるかいないかだっただろうと言われている。

 また監視といってもそれは金を作ろうとするだとか、人を殺めようとするだとかの監視で基本的に世界の根幹を揺るがすことや人を殺すこと以外には緩いものだったことも登録を促す理由の一つとなったことだろう。

 魔法族は登録されていたこと、そもそも強力な魔法具を作れるのはほんの一握りの魔法族であること、強力な魔法具が作られた際には申請を努力義務として課していたこともあって魔法族の長い歴史あれど、ユリリカ・べベロニカ・ミアプラキドスとその支援者たちは存命中になんとか強力な魔法具の確認作業を終えることができたのだ。


 魔法族が絶滅してしまった理由は、純粋に魔法の力を持つものが生まれなくなってしまったことにあるというのがユリリカ・べベロニカ・ミアプラキドスと彼女を支えた人々の見解である。その傾向は魔法族に登録された魔女や魔法使いの人数を見れば火を見るより明らかだったため、彼女の死後二百年たった今も魔法学やら歴史学やらの研究者の見解は変わっていない。そして魔法族が生まれなくなってしまった理由というのは未だに分かってない。

 しかし、ユリリカ・べベロニカ・ミアプラキドスがその功績によって様々な人に惜しまれながら長い生命と魔法族の歴史に終止符を打ってしばらくして彼女すら予測できなかった出来事が起こった。ユリリカ・べベロニカ・ミアプラキドスが亡くなって十五年がたったとき、なんと魔法とは呼べないものの魔法のような不可思議な力を一つだけ使える人間が散見されるようになった。一時期は魔法族の再来かと騒がれたが、結局使える不可思議な力は一つだけであること、その力の内容は選べないこと、努力しても他の能力を身につけることはできないということから、やがて彼らとその能力は魔法もどき、《マジックイミテーション》と呼ばれるようになっていった。

 マジックイミテーションは生まれつき持つ人もいれば後天的に手に入れる人もいる。ただ生まれつきと言っても、見た目に現れているマジックイミテーションは極々わずかで、()()()に親か本人が気づく必要があった。それには多少成長してからでないと気づけないため、正確に言うと推定生まれつきとなる。

 では()()()()()()()()()とはどれくらいの年頃からなのかというと、これは明確に決まっていないと事務手続き上色々と面倒なので、七十年ほど前に能力の確認が就学児以降は後天的、それ以前は生まれつき、つまり先天的として扱うことと定めた。ただ生まれつきの場合、就学時前となると本人が幼い時分であることや生まれてから当たり前のことが他人にとって当たり前ではないと気づくことが難しいこともあり、登録数としては圧倒的に後天的マジックイミテーションの方が多い。

 マジックイミテーションについての研究はまだそれほど進んでいないため、後天的が生まれた時にはなく本当に後天的に手に入れた力なのかは分かっていない。


 生まれつき、つまり先天的マジックイミテーションにも、後天的マジックイミテーションにも共通する義務がある。それは「マジックイミテーションの発現とその段階で確認されている能力の内容についての報告義務」である。

 これはマジックイミテーションという特殊な力を利用した犯罪を未然に防ぐためであったり、マジックイミテーションという不可思議な力を持つ人々を守るためでもあった。マジックイミテーションは魔法族によって洗練されてきた魔法の中からどれかひとつを使えるのではないかと考えられてきたが、どうしてもその枠に当てはまりそうにないマジックイミテーションの出現も確認されている。

 そのことからも力の扱い方や本人及び周囲が間違った認識をしないためにマジックイミテーションの登録機関は「共に考える大人たち」としての役割も持っていた。


 そしてマジックイミテーションはその力の内容によっては力を使った就業や開業も認められていた。

 不可思議な力といえどその内容は実に様々で、人に外傷をつけることが容易なものもあったわけだが、実際にそういったマジックイミテーションは全体の二割ほどしかいなかった。ただ力というものは使い用なので、想像が容易でない方法で人に外傷をつけることのできるマジックイミテーション自体は二割には収まらないことだろう。

 しかしそれでもマジックイミテーションが便利な能力であることに変わりはなく、それがとある研究分野やとある人、団体に大きな利益をもたらすものも存在していた。それを放置するというのはまさに宝の持ち腐れとなるため、マジックイミテーションのその能力を把握し、申請を受け、能力の活用が見込まれる分野の有識者などと協議の上でマジックイミテーションを用いた就業、開業許可を出すこととしたのである。


 ここまでが、ライラも知るマジックイミテーションについての常識だ。公民や国語の授業でも教科書に載っていたし、マジックイミテーションは自分がマジックイミテーションであるかどうか自分で気づかなくてはいけないことがほとんどであるため、まだ子供の時に学校で何度もこの話をされてきた。


 カラット・アルデバランは分類としては後天的マジックイミテーションにあたる。それは彼のマジックイミテーションが見た目に現れるものではなく、両親ともに自分たちの息子がマジックイミテーションであることに気づかなかったためであった。

 カラットとしては能力自体は就学以前、つまり先天的マジックイミテーションに分類される頃からあったと記憶しているが、実際に自らがマジックイミテーションであると確定したのが齢八つの頃であるので後天的マジックイミテーションに収まることとなった。

 カラットは気がついたときにはその目にときどき変な文字だとかモヤのようなものが見えていた。当然彼は彼の視界しか知らないので他の人間もそうなのだろうと思って疑わなかった。しかしある時、普段は滅多に見ないドラマの一人称視点のシーンを見たことで自分の視界はどうやら特殊であるらしいことに気がついた。そしてそれが八歳のとき、つまりマジックイミテーションであると確定した年齢である。

 カラットの両親はカラットから視界がどうやらおかしいらしいというのを聞いてすぐに眼科に駆け込んだ。しかし当然目自体に異常はなく、次に頼ったのがマジックイミテーション相談ダイヤルだった。そこに電話してカラット本人から聞き出したことを相談したところ、マジックイミテーションの疑いがあるということで、時間をかけて調査した。

 おかげでカラットは小学生三年生の夏休みの二週間を丸々調査と検査で潰されることになった。ただその甲斐あってカラットのマジックイミテーションは道具に刻まれた魔法や魔法陣を見ることが出来るものであると突き止めることができ、この世界に存在する魔法族の長い歴史の賜物である魔法具を見つけ、刻まれた魔法がいかなるものであるか見ることができると分かったわけである。

 そもそも、カラットの能力の発見が遅れた原因というのも魔法具などが普通の家庭に存在していないこともあるだろう。場合によってはもっと大人になるまで魔法具を見ないまま育ち、突然のことに混乱することになったかもしれないが、彼の両親が博物館や美術館が好きでカラットをよく連れて行っていたことがカラットのマジックイミテーションの比較的早期発見につながったとカラットは考えている。


「私自身もいわゆる普通の工芸品とかの鑑定もできるんだが、やはりこの目のこともあって()()()()()()の依頼が多くてね。さらに言えば私のこの名前のせいで宝石や鉱石の依頼も多いんだ……」


 カラットというのはもちろん鑑定士アルデバラン氏の名前でもあるが、カラットという名が彼に名付けられるよりもずっと前から、それこそ魔法族が最盛期の頃にはあることに用いられていた。そう、宝石の質量を表す単位である。

 ただカラットのもとに宝石や鉱石の依頼がよく集まるのは名前が理由というよりは、そもそも宝石や鉱石なんかに力を込めていたり、魔法によって生成された宝石のような石も多くあるというのが理由にある。流石にカラットもプロなのでそれくらいは理解しているが、それでも一応工芸品全般を鑑定できるため、たまには違うものも見たくなってしまうのだ。

 今回、ライラの短剣を鑑定しようと思ったのには彼女の様子からして気になったからというのが最たる理由だが、短剣なんぞ久しく見ていないからというのがほんの少しだけ理由としてあったりする。


「君の持ってきたこの短剣がまさか魔法具とは思わなかったんだが、真実これには魔力が込められている」

「この短剣が、魔法具……魔力?」

「そう。まだ魔法族のいた時代、彼らはその身に宿る魔力を用いて魔法を使っていたわけだが、ただ杖を振って物を浮かせたり何か出したりしていただけではないんだ」

「あ、それくらいなら社会科の授業で聞いたことがあります。確か占いとか、魔法薬とか……」

「そう、それもある。彼らはただ占いをしたり、薬をただ煎じていただけではなく、魔力を利用した占いをしたり、魔法を使って通常よりもはるかに効力のある薬を作ったり……。それから魔力の込められた道具やお守りなんかも作ったり使ったりしていた」


 魔法族がつくるもの中でも魔力が込められた薬を除いた道具類をまとめて魔法具と言うのだと説明しながら、カラットは左腕を上げてシャツの袖に隠れていた銀色の、海の波によってできた泡沫のような泡の花のような腕輪を見せて指し示した。


「これも魔法具の一種だよ。私たちマジックイミテーションも含めて現代の人間は誰も魔力を使えないからこれらを本当の意味で使うことは出来ないと考えられているけど、その込められた力の恩恵に預かることは出来るとされている」


 ライラはそうなんですねと頷きながらも驚いていた。自分はこれっぽっちも不可思議な力など持っていないものだから、マジックイミテーションについてはまあそんな人もいるのだなというくらいの認識だったし、魔法具というものも社会科の授業で聞いたことはあったが、コラムにチラッと載っているくらいのものだったからなんだか本とかテレビの中の世界が急に隣に座ってきたような感じだ。……と、いうか。


「マジックイミテーションって、魔力を持ってないんですか?」


 マジックイミテーションではない自分が魔力を持っていない、使えないというのには頷けるが、魔法()()()とはいえ魔法のような不可思議な力が使える人々も魔力を持っていないという話をライラは聞いたことがなかった。


「お、いい質問だね。正確に言うと、魔力というのはマジックイミテーションであるかないかに関わらず全ての人が多少は持っていると言われている。というのも魔法族がそういった発言をした記録が残っているんだ。しかし非魔法族はそれを使うことが出来ない。それが私たち現代人を含む非魔法族と魔法族と呼ばれた人々との大きな違いの一つだね。まあ私の目でも人の魔力は見えないから実際には魔力も持っていないのか、人の持つ魔力が小さすぎるのか、はたまた私の目が見れるのが道具限定なのかが微妙なとこだが、これは魔法族がいない今結論は出ないかな」


 カラットは腕輪のつけた方の手をひらひらと振りながら言った。

 実際問題、魔法具というのはさまざま残っているとされている。魔法族が途絶えてもう二百年も経つが、魔法族が消えてからよりも魔法族が存在していた期間の方が圧倒的に長いのだ。当然その歴史だけの魔法具が生まれた。

 最後の魔法族ユリリカ・べベロニカ・ミアプラキドスが強力な魔法具に関しては力を制御したり、破壊したり、国に厳重な管理をするようにしてもらった。しかしその他の、例えば転んだり事故に遭った時に大事にならないような守りの魔法がかけられた魔法具だとか、作物の豊作を願うような魔法具などは数が多すぎることと放置されたが故の被害が想定されないこともありそのままにされた。

 こういった魔法具は意外と残っていて各地に点在している。魔法族と関わりがあったような歴史のある古い家なんかにはたいてい何かしら一つくらい先祖代々伝わる品として魔法具が大事にされているのだ。



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