学校中の男子を夢中にさせている美少女に告白したが、実は学校中の男子を振り返らせていたのは俺だと知らされたので、全力で逃げたいと思います。
ストレス溜まってると軽い文章を書き殴りたくなりますね。
初BL (もどき)です。なろうの中の美少女に告白する話を見て思いつきました。
よろしくお願いします。
「難波さんずっと好きでした!俺と、つつ付き合ってください!!」
目の前で、学校一の美少女、難波美弥さんが固まってしまっていた。
そうだよな、俺みたいな成績も身長もぱっとしないし、顔も別にかっこよくないモブ男が告白してくるなんて思うはずないよな。
でも親父の転勤で今学期末に転校することになってしまって、チャンスが今しかなくなってしまったのだ。それに星占いで「一位は蟹座のあなた!ずっとできなかったことを勇気を出してやってみよう!」なんて背中を押されれば魔が差してしまうってもんだ。
だから俺はこうして期末テスト最終日の放課後に難波さんを呼び出して玉砕覚悟で告白したわけだ。あわよくば連絡先を交換しようと下心を抱いて。
難波さんのことを窺っていると、彼女は次第に困惑の表情を浮かべ始めた。
(やった!気持ち悪がられてはいないぞ!)
そう思って畳みかけようとした瞬間、彼女の方から口を開いてくれた。でもそれは全く思いがけない言葉だった。
「なんてことしてくれるの!」
「へ?」
そのまま俺の胸ポケットのスマホを奪い取ると、スマホに向かって、
「安心しなさい!私は長岡くんとは付き合わないわ!」
なんて言い始めたものだから。
俺は唐突にフラれたことと難波さんの行動の意味の分からなさに、頭が真っ白になった。
「切っといたわ」
難波さんは律儀にスマホをポケットに戻してくれたけれど、それどころじゃない。いや、難波さんの次の言葉で俺は更なる混乱の底へ突き落とされた。
「長岡くん。今すぐここから逃げた方がいいわ。いや、逃げなさい」
「んん??」
「ほら、聞こえない?長岡くんの告白を聞いて男子達が近づき始めてる」
「……もしかして」
確かに……ざわめきが、近付いてきている気が、する。
難波さんに告白したせいで、抜け駆けしたことを嗅ぎつけた男共が近付いてきてるのか?!
「難波さんの……」
「ばか!狙われてるのは長岡くん、あなたよ。ああ信じられない!自分で気付いてないなんて」
「俺?」
この瞬間の俺はかなり間抜けな顔をしていたと思う。
だって俺が、狙われている?しかも男から…?
「そうよ!もう!私がスマホの電源切ったのもなんでか分かってない?知らない間に監視アプリ入れられてるわよ。ってもうそばに……しっ。目線だけ動かして。二階の窓」
難波さんに耳元に口を寄せられて舞い上がったのも束の間、俺は悲鳴を飲み込んだ。
ばちっと目が合ってしまったのだ。
男共が俺のことを、見ている。
しかも見間違いじゃない。その目は熱に浮かされたように潤んでいた。
身体中を怖気が駆け上る。
「やっぱり気づいてなかったのね……。男子があなたを見る目はもう、獣のようよ。噂では長岡くん以外のクラスの男子の裏グループができてて隠し撮りの裏取引も行われてるとか」
「ひっ。でも難波さんはどうして」
「私には男子の標的になってる自覚があるから色々調べて自衛してて、それで知ったの。……長岡くんは今まで自覚なかったからこんなに無防備なのね。今日のところはひとまず学校から出て逃げなさい」
背筋を虫が駆けずり回っているような悪寒に、今にも息が止まりそうだ。足音が、間違いなく近付いてきている。
思わず難波さんを縋るように見上げてしまったが、彼女は俺を見捨てなかった。俺の目をまっすぐ見て、任せなさいというようにうなずいてくれた。
なんて頼もしいんだ。惚れてしまうじゃないか!もう惚れてるんだけど。そして俺の初恋は散ってしまったけれど。
そうして、この道の先輩難波さんから逃走ルートを教えてもらった俺は、一目散に逃げ出したのだった。
「くっ……あんな顔、反則よ。無碍にできないじゃないの」
何か難波さんが呟いていたけど、俺の耳には届かなかった。
「……っ、……っ。体育館の渡り廊下っ」
――期末テスト最終日で運動部はもう部活が始まってる。だからこそ体育館の周りは人気がない。おすすめは体育館の渡り廊下と外廊下を通って西門へ抜けるルートよ。
俺は身を屈めつつ速やかに渡り廊下を通りきった。目の前には体育館の入り口。脇には階段があって、体育館の二階部分と繋がる外廊下へ続く。
「あの子、めちゃくちゃ可愛い女の子に告ったって」
「っ!」
不意に野太い声が響いた。俺は慌てて掃除用具入れの陰に身を隠した。
「聞いた。難波さんだろ?一年で一番美人とかいう噂の」
「でも振られたらしいな。走って逃げたって。可愛いなぁ、……あああ!慰めてあげたい!」
「やべ。想像するだけでソソる!」
あの子って誰だ。可愛い?それに慰めるってナニするつもりだ。ソソるって何だ。
ツッコミどころが多すぎて処理が追いつかない。フリーズしてる間に、声は体育館へ入っていったようだ。俺は物陰から飛び出すと、息を殺して外廊下への階段を駆け上がった。
走っているのはもう惰性のようなものだった。身を隠しながら走ることも忘れてしまっていた。頭がうまく回らない。俺の脳味噌をとりとめのない思考が渦巻いていく。
学校はどうなってしまったんだ。
学校中がゲームでよくある魅了の魔法に掛かってしまったのか?実は俺が学校中を魅了の状態異常にしてしまった?それとも……。
現実逃避であることは理解している。
でも、この異常事態を意味付けるためには、何か理由を考えざるを得なかった。
外廊下を慎重に駆け下り、生け垣に身を隠しつつ、西門前付近まで来た。
西門は正門より少し小ぶりだが、一応俺達学生が登下校で使うことができる門だ。正門の方が国道に面しているので、あちらを使う学生の方が圧倒的に多い。
ということで「この中途半端な時間帯だから、西門にはほぼ人はいないはず」という難波さんの読み通り、門前にはほぼ人がいなかった。
だが、目視で三人、男子生徒がいる。何を話しているかまでは聞こえないが、敵である可能性がある以上、決して見つかるわけにはいかない。その時だった。
「腹減ったぁ……。ポテト食べたい」
「お、いいな。駅前寄ってくか?」
「!」
油断して後ろから人が来るのに気付かなかった。俺は咄嗟に生け垣に分け入って息を殺した。二メートルほど向こうを、二人の男子高生が通り抜けていく。頼む。そのまま通り過ぎてくれ。そして、俺に気付かず帰ってくれ。
自分の心臓の音が口から飛び出そうなほどうるさく鳴る。数秒が数分にも感じられた。
幸い二人はこちらに気付くことなく通り過ぎた。ほっと息を吐くのも束の間、早く帰れという願うも虚しく、二人は門でだべっている三人と合流してしまった。楽しそうに話している。
待てども待てども五人とも帰る気配はない。
それに対し、高校生にもなって、一人ぼっちで、薄暗い木立の中にしゃがみ込む俺。
なんで俺はこんな目に遭っているんだろう。そろそろ足が痛い。
湿っぽい土の匂いと、クリスマスツリーっぽい細い葉っぱのスッとする香りが俺を余計惨めにする。
そういえば、小学生の時はこんな木立の中に秘密基地を作ったりしていたな……。宝物なんかを持ち込んで、秘密の抜け道とかを作ったりして……。意外と木立の中は空洞があって、探検には最適だったんだ。
「……それだ」
俺は細心の注意を払って木立の中を進んだ。ほどなく隙間から道路が見える。五人に見つからないよう覗き込むと、生け垣から道路までは一メートルぐらいの段差になっていた。
ここから飛び降りてやる。
五人は相変わらず何やら盛り上がっている。
今だ。
木立を一気にかき分ける。
がさり。
不吉な音がした。
決して小さくない音に内心舌打ちしたが、そのまま塀の縁に身を躍らせる。
鋭い声が何か喚く。
気付かれた!
「ッ!!」
俺は素早く飛び降りると、西門に背を向けて思い切り地面を蹴った。腕を振り子のようにスイングさせて、次の一歩を素早く踏み出す。
後ろの声はまだ何か喚いている。
捕まってたまるか!
世間の目なんて気にしていられない。
俺は必死で走った。景色が次々後ろへ流れていく。
おかげで息が上がって喉が焼けるように痛い。
「はぁ……、はあ……」
でも、走れなくなった頃には、うちの学校の生徒が見当たらないところまで来ていた。
角を曲がればうちがある。
「やったぁ……。助かった……」
……俺は無事に逃げることができたのだ。
「ただいま」
平静を装っていたが、家の扉をくぐった安堵感は半端なかった。家にはいつも通り母さんがいた。
「おかえり。京也、恭仁くんが来てるから部屋に上がってもらってるわよ」
「ヤスが?はーい」
恭仁は、中学の時親の転勤で今の家にやって来てから出会った。隣に住んでいる親友だ。家が近いからと一緒に帰るようになったのが付き合いの始まりで、価値観が近くて意気投合したのだ。クラスは違うが、高校でも一番仲が良い。
そういえばヤスと先週発売されたゲームをする約束をしてたんだった。俺達はゲームの好みもぴったりなんだ。
それに今朝、親の転勤で引っ越すことも話しておかないといけないと思っていたんだった。どうやって打ち明けようかと思って今日学校では言うタイミングがなかったんだけど、親友に黙って引越すなんてできないからな。
学校の異常事態で頭がいっぱいになっていて、そんなことも忘れていた。
「遅かったな。一緒にゲームしようって言ってたのに」
「すまん。別件で立て込んでて」
「ふーん」
「待ったろ?テレビつけてくれててもよかったのに」
ヤスは座布団にあぐらをかいて、母さんが出した茶請けのわらび餅をつまみながら、麦茶を啜って待っていた。まるで我が家のようなくつろぎ具合だ。頻繁に互いの家を出入りしているから当然と言えば当然か。
俺もピッチャーからグラスに麦茶を注いでから、座布団を引っ張ってきてヤスの近くに座る。
「今日のテストどうだった?」
「現国やばい。京也は?」
「俺も。登場人物の心情とか知らん」
「それな。まあでも――」
「終わったもんな!おつかれ!!」
「おつかれー!さあ、早速やろうぜ」
麦茶のグラスが澄んだ音を立てる。俺達はゲームを始めた。
新作をした後、俺達は数年前に発売された対戦アクションゲームを始めていた。大手のゲーム会社のキャラ達とゲストキャラが共演して対戦できるあの人気ゲームだ。
二回戦に差し掛かった頃、俺はやっとヤスに打ち明ける決心ができた。
「なあ、ヤス」
「なに」
「俺、今学期終わったら引越すことになったんだ」
「…………おじさんの転勤?近い?」
「そう。……今までよりは近いけど、それでも隣の県」
引っ越し慣れているとはいえ、友達との別れは慣れるものではない。幼稚園卒園の時と小学校で何度か転勤で引っ越ししたが、その度に友達とだんだん疎遠になっていってしまうのは虚しかった。いずれヤスともそうなってしまうかもしれない。
「きょうや」
耳元で囁く声がした。びくりとして振り向くと触れ合いそうな場所に恭仁の顔があった。
「そんな寂しそうな顔、しないで」
恭仁の手が俺の手首を掴んだ。
そして腕を引っ張り上げられて、くるりとターンしたかと思うと、俺は仰向けにベッドに寝転がされていた。
両腕は恭仁の右手で、頭上で束ねるように押さえつけられている。
恭仁が俺の胴に跨り、こちらを見ていた。
この眼は、知っている。
さっき学校の男子共が向けてきた眼だ。
潤んでトロンとした雄の眼に映る自分は、間抜けな顔を晒していた。
俺は自分の迂闊さを呪いたくなった。
お前もか。畜生。
恭仁はどこか泣きそうな顔をしていた。
「俺、実はもう知ってたんだ。転勤のこと」
「なんで……まだ」
「俺、京也のそういう信頼しきった無防備なところ、好き。難波さんから聞いたんだろ?」
「まさか」
「うん。全部聞いてたよ。アプリで」
「……じゃあ、クラスの裏グループつくったのも」
「それは俺じゃない。俺、京也が誰かのものになるのなんて我慢できないもん。……離れていってほしくない。俺、転勤することも、難波さんに京也が告白したのも、聞いて、……耐えられなかった。俺、京也のことが好きなんだ。誰にも渡したくない」
恭仁の左手が顎に掛かる。
強張った俺に、少し愉快そうに笑い掛けてきた。
「……っ、おい」
「愛してる。俺は、京也と離れるのは辛いけど、絶対忘れないよ。だから」
恭仁の端正な顔がゆっくり近付いてくる。吐息がかかってゾクリと寒気が走った。
「京也も俺のこと、一生忘れないで」
数秒の出来事だった。でもその数秒で、俺達の関係は変わってしまったのだと理解した。思わず涙が滲んでしまったが、俺は、言わずにはいられなかった。
「恭仁っ……。どうしてなんだよ。俺達いい友達だったじゃないか。どうして」
「転勤の話聞いて、今日しかないんじゃないかって思ったんだ」
「『ずっとできなかったことを、勇気を出してやってみよう』って。背中押されて」
「…………あっ、そう」
ヤス。お前も蟹座だったな。
俺は場違いなことを考えていた。
お粗末様でした。