狐の嫁入り
続きもの、狐の婚礼の3話目です。お楽しみください。
第3話 嫁入りの同行
「たれか‼」
花嫁に襲い掛かる黒い影に、俺は咄嗟に石を投げた。手頃な木の枝を手に、透析にひるんだ陰に襲い掛かる。
「人間じゃ‼」
「待て、花嫁様を助けてくれておるぞ‼」
ざわめいた周囲には目もくれず、俺は影に容赦なく枝を打ち付けた。一応、剣道の段持ちの俺は、影をはじき返すと、地面に倒れた影に、もはや人の形をしていない行列の参加者が襲い掛かる。悲鳴を上げて、影は消えた。
「ジンヤ、君強いね!」
呑気にハリーは言うが、俺は冷や汗をかいていた。狐の嫁入りを見たものは、死ぬ。いまさらその恐怖で、背中が濡れる。
花嫁行列の中から、振袖を着た女性がこちらに駆け寄ってくる。今までに見たことのないほどの美貌に、俺もハリーも思わず見惚れた。
「姉をお助けいただいて、ありがとうございます。」
丁寧にお辞儀をすると、俺たちに微笑んだ。
「それにしても、なぜ人がこのような場所に?なるべく人に会わぬ経路を進んでいたと思うのですが?」
美しい黒髪をさらりと揺らして、彼女が小首をかしげる。
「僕は、日本の伝承などを記事にするために、このあたりの人の話を聞いたりしているんだ。詳しい人がいるからと村を訪ねて回っていて…。」
ハリーの顔が真っ赤になっている。確か、彼の好みの女性は、淑やかな大和撫子だったはずだ。目の前の彼女のような。
「俺はその案内役だ。まさか狐の嫁入りを見てしまうなんて思いもよらなかった。」
そういった俺に、彼女は淑やかに微笑んだ。
「伝承のように死ぬのをご心配ですか?姉の恩人にそのようなことは致しませぬ。」
その後ろに、いつの間にか中年の男女が立っている。
「娘をお助けいただき、ありがとうございます。」
「もしよろしければ、このままご同行いただき、できれば婚儀にもご参列いただけませんか?礼がしたいのです。」
俺が断りの言葉を紡ぐ前に、
「ぜひ!狐の婚礼、見たいです!」
とハリーが答えた。
ため息をついた俺に、狐の化けた姿であろう3人がにこやかに俺たちを行列に導いた。
「本日はこの先の宿屋にて泊まる予定でございます。改めて、本人からも礼を言いたいということなので、是非とも。」
父親のにこやかな言葉に、俺たちは行列に交じって歩き出した。
お楽しみいただけましたでしょうか?