番外編:神話
ディーナの正体と、ディーナとオスカーの魂の関係性についての来歴。
あとがきに作者の補足。
蛇足かもしれないので、設定説明のようなものを好まない方はブラバ推奨です。
なにもないところに原初の女神が現れた。
女神が足を下ろした場所に始まりの大地が広がり、大地の果てに深淵なる海が満ち、そして大地と海を繋ぐように久遠の空が照らされた。
女神が空を寿ぎ、海を慈しみ、大地を撫でると、まばゆく輝く一本の苗木が生まれた。
するとそこが新たな世界の中心と定まり、苗木の化身たる最初の精霊が現れた。
最初の精霊は王となり、王たる権限をもって異なる資質を持った四体の精霊を呼び出すと、生まれたばかりの苗木を育むよう命じた。
精霊たちが育む苗木を源として大地に恵みがもたらされ、やがてそこは楽園となった。
楽園には幾柱もの神々や精霊、様々な種の命が生まれ、永く栄えた。
しかし時が経つと楽園には『よくないもの』が多く生まれるようになった。
『よいもの』と『よくないもの』は争うようになり、楽園は次第にほころびていった。
これを憂えた女神が腕を振ると、ひとつだった楽園はいくつもの層に別たれた。
神々の世界と精霊の世界、そして『よいもの』の世界と『よくないもの』の世界に。
しかし『よいもの』と『よくないもの』の世界の境界線は曖昧だった。
『よくないもの』の力が濃くなりすぎると、たちまち『よいもの』は『よくないもの』に呑み込まれ削られていった。
女神は調和を失い衰退してゆく下界を眺めると、涙を一粒流した。
すると涙は下界に落ちてゆき、『よいもの』と『よくないもの』の境界に辿り着くと、ひときわ美しく輝いた。
涙の輝きは境界に均衡と調和をもたらし、衰退しかけていた世界をあるべき姿へと正した。
精霊たちは女神の涙を愛しみ、その輝きを護ろうとするものたちに祝福を与えた。
こうして祝福を受けたものたちは、女神の涙の守護者となった。
そして世界の在り方に満足した女神は、世界の維持と繁栄を精霊王へ委ね、いずこかへとお隠れになった。
これが、女神と、精霊と、祝福者、そして女神の涙のはじまりの物語である。
*補足*
『女神の涙』がディーナの魂の最初の姿となります。『涙』は女神そのものではありませんが、女神の持つ力の片鱗を受け継いでいます。
ただ現在のディーナに『女神の涙』としての記憶は皆無で、すでに人間として何度も転生を繰り返し、特別な力もそれほど持っていません。
魂の奥では女神との繋がりが切れてはいませんが、それが表面化することはなく、作中に出てきたように精霊の声が聞こえる、精霊に好かれるという程度です。
これは、ディーナの魂が女神としてより人間として生きることを望んでいるためでもあります。
そしてオスカーは、『女神の涙』の守護者となった『初代の火の祝福者』の魂の持ち主です。
守護者たちは皆『女神の涙』を敬愛しましたが、『火の祝福者』は彼女を女性として深く愛し、想いを捧げて『女神の涙』と結ばれました。
もちろん現在のオスカーにも古代の記憶は残っていませんが、彼の魂から彼女を求める想いが消えることはありません。
ふたりは転生をするたびに惹かれ合い、恋に落ちます。
「36.懐かしい夢」の中で精霊たちがディーナを導くのは、精霊が彼らの魂の関係性を知っているからです。
ディーナが死の運命に捕らわれたのは、個人の歪んだ欲望に加え、『よくないもの』が『女神の涙』を世界から排除しようと働いたためであり、それを阻止するために精霊王も力を貸したのです。




