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結局、散歩には行けずライカが眠ってしまった後、タカシはそっと立ち上がり、お父さんの部屋へ向いました。
ドアの鍵はかかっていません。
研究用の大事な資料もあるから、本当はタカシ一人で入らない約束をしてあるのだけれど……
イタズラは子供のトッケンだよね。
そうつぶやき、肘掛け椅子をふみ台代わりにして、本棚の上に置かれた木箱を下へおろします。
こわれたライカの銀の首輪を、お父さんがしまっておいた木箱です。
前は気づかなかった事が、今ならわかるかもしれない。
そう思い、そっとふたを開くと、中には昔のまんま、ピカピカ銀色に光っている首輪があって、タカシには読めないロシア語の小さなプレートもあり……
アレッ、昔のまんますぎて変だぞ?
首輪もプレートも曲がっておらず、傷一つ付いていない。まるで新品みたい。お父さんが直してくれたのかな?
タカシは首をかしげながら、銀の首輪をもってリビングルームへ戻り、寝息を立てているライカのそばに座りました。
せっかく直っているんだし、銀の首輪をライカに付けてみたくなったのです。
きっとすごく似合うよね。
ワクワクしながら見慣れた赤い首輪を外し、銀の首輪を巻いて、ロック式の金具をカチャリとはめたら……
うわっ、まぶしい!
首輪全体から光があふれ、タカシは思わず顔を手のひらでおおいました。
そして、おそるおそる指の間から前を見ると、いつの間にか起き上がっているライカと目が合います。
その瞳は澄んでいました。
白いにごりは目の中から消え、しなやかな体に力がみなぎっていて、一番元気だった頃まで若返ってしまったようです。
「ら、ライカ、どうしたの?」
「ありがとう、タカシ。あなたのおかげ」
ライカは軽やかにクッションから下り、タカシの顔を優しくなめました。
「銀の首輪をあなたが付けてくれたから、若い体を取り戻せたわ」
「っていうか、ライカ、喋ってる!? うそっ! ホントは前からお話できたの?」
ペロペロなめられながら、タカシはおどろきで目をシロクロさせています。
「ねぇ、お散歩、行きましょうか?」
はじめて聞くライカの声は見た目と同じ、優しくおっとりした声音でした。
「いつもタカシが連れていってくれる公園のずぅ~っと先まで、光の速さで飛ばせば、きっと気持ち良いわよ」
細長い鼻先が窓の方を向きます。
すると首輪が発した光よりもっと強い光のかたまりがそこに現れ、タカシたちをさそうようにユラユラ揺れ始めました。
「ウソ……何なの、コレ?」
「通りがかりのUFO」
「それって、空飛ぶ円盤でしょ!?」
「ふふっ、ホントは私が呼んだの。長い間、かくしてきた海の底から」
「こんなに家の近くへ来たら、ご近所の人が大さわぎだよ」
「その心配はいりません。UFOは普通の人には見えないから」
「ぼく、見えるけど」
「だって、私の特別なお友達ですもの」
ライカがウィンクしたとたん、UFOから発する光に吸い込まれ、気が付くとタカシは機械だらけの操縦室にいました。
コクピットには、カッコいい宇宙服に身を包んだライカがいます。
60年以上前、ロシアのスプートニク2号にのった地球最初の宇宙犬とそっくり同じスタイルです。
「私は六年前、このUFOにのって種ヶ島へきたの。宇宙へ行く計画を再スタートさせた日本の様子をしらべるために」
「どこから?」
「私の本当のお家は月にあります」
「お月様の上? じゃ、お父さんの作ったロボットに見つかっちゃうよ」
「月の裏側の、すごくわかりにくい所にあるの。色んなセンサーの働きを狂わせる仕組みもあって……」
ライカが鼻の先とつま先を両方使って機械を操作すると、一人と一匹の間に光のスクリーンができ、いくつかの映像とデータをいっしょに映し出しました。
それを見て、ライカはフンフンうなずきます。
「ん~……15年くらい前、ある国の無人探査機が月の裏側へ着陸してから、何度も付近を調べたみたいね。日本だって今回の計画が成功したら、もっと活動範囲を広げていくでしょうし……」
「いつか、見つかっちゃうかな?」
「い~え、私達の科学は地球上のどの国より、ず~っと進んでいます。それに、もし見つかりそうになったとしても、基地ごと他の場所へ移動するから大丈夫」
「なんか、ライカは地球の人……じゃなくて……え~、つまりその……地球の犬じゃないみたいな言い方をするんだね」
「ふふっ、あ~ら、そう聞こえたかしら?」
微笑んで優雅に首を傾げるライカの姿を見ながら、タカシは「えいっ!」と自分のほほをつねってみました。
ライカが元気になったのはうれしいけれど、お話したり、いっしょにUFOにのっていたりする事が、どうしても信じられません。
でも、痛い。
やっぱり夢じゃない。
読んで頂き、ありがとうございます。
何かもう、冷房を付けててもキッチリHPを削って来る暑さですね。
昨日、ある大きな病院に行ってきたのですが、朝の内に診察を済ませて昼頃に帰りのバスへ乗ったら、病院へ向う車で大渋滞が起きていました。
ちょっと見た事無い量の車が見慣れた道で長い列を作っており、コイツは見慣れぬ光景です。
原因はとにかく……今、体調を崩したらアカン。ヤバすぎる。
皆様、くれぐれも御自愛下さい。




