Episode1
この物語はフィクションです。
作中の個人名・団体名・事件などはすべて架空のものです。
犯罪を助長させる可能性のある描写が含まれますが、
現実で行う場合犯罪行為に当たることがあります。
決して真似をしないで下さい。
平和で変わらない日常に無意識の内刺激を求めてしまっていたのか、いつもの帰り道で唐突にそれは現れた。
羞恥心など無いと言わんばかりの全裸の男が住宅地で道の真ん中を堂々と歩いていた。
さらにその男は頭に馬の被り物をしていた。だから正確には全裸ではなく全裸馬仮面男かもしれない。要するに変態だ。
不意にその変態と眼が合う。こちらが気付いたのだからあちらも気付くのが当然といえるだろう。深淵を覗くときのあれだ。
一見馬の被り物に見えた仮面だが、まじまじと見てみると繋ぎ目や隙間は見当たらず、毛並みも本物と遜色のない艶があり、その瞳は瞬きまでしていた。
まるで本物の馬の頭がそのまま首から生えているのではないかと思うほどよくできていた。だから全裸馬仮面男ではなく全裸馬男かもしれない。要するに変態だ。
変態は奇声をあげると同時に興奮して襲い掛かってきた。対する僕はといえば急なことに呆然としており、声すら出せず固まっていた。
正気に戻るのが遅れ、背を向けて逃げ出そうとしたときには手が届くところまで迫ってきており、勢いのまま突き転ばされる。
これは夢なのかと現実逃避しようとしたが体中の痛みがそれを許してはくれなかった。
痛みを堪えて立ち上がろうとしたが、腕と腰を掴まれて組み伏せられた。
振り返ると馬男が僕のとは比較にならないほどの大きく勃った竿を僕の局部に擦り付けており、さらに太腿の間に挟んでは腰を打ち付けていた。
興奮したような息遣いと生暖かい感触で体中に怖気が走り、僕はようやく声を出して全力で叫んだ。
「変態だああああああぁぁぁぁぁ!!!!!誰か警察呼んでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
僕は他人に見られることもお構いなしに繰り返し大声で路地や住宅に誰かいないか叫んだが、無慈悲にも誰も助けには来なかった。
不思議なことにこれだけ騒いでも住宅地であるのに誰かに見られている気配が全くない。それどころか普段から人通りが少ないわけでもない通学路なのに他の学生が通る気配すら無い。
数秒か数分か経った頃か、意外と早く拷問のような行為は唐突に終わりを迎えた。
突然動かなくなったかと思うと馬男は僅かに震えながら腰を押し付けてくる。
何か嗅いだことのない生臭い匂いがして自分の腹を見ると、粘り気のある濁った牛乳のような液体が大量に付着していた。服から溢れた液体が地面に零れ落ちて小さく水溜まりを作るほど馬男のその行為は長く続いていた。
僕は当事者であるのにあまりの衝撃映像に抵抗することすら忘れその行為を傍観していた。
実際に見るのは初めてだが知識として理解してしまった。僕は馬男の慰み者にされたのだと。
遭遇した事実に絶望して声を上げる気力も残ってないのに現実は残酷もので、馬男が力を緩めることはなく地獄はまだ続いた。
再び腰が打ち付けられ体を激しく揺らす。恐らくは馬男が満足するまでこの行為は終わらないのだ。
僕はただ泣いて助けを祈るしかなかった。
これ以上酷いことにならないように耐えていたが、激しく動いたためか上着が捲れてお腹が少し露出していた。
それに気づいて興奮したのか、服越しで我慢ができなくなったのか僕の服を引っ張り、主に下を脱がそうとしていた。
服に執着するおかげで拘束がなくなったので立ち上がって脱がされないよう必死に抵抗した。
ベルトのおかげでなんとかなっているが凄い力で引っ張ってくるため腰に食い込んでおり、脱がされるのは時間の問題だろう。
仮に今警察を呼んだとしても駆け付けるまで二~三十分は掛かるだろう。恐らくそんなには耐えられない。そして呼ばれる可能性は限りなく低い。
半ばもう諦めていた。馬男以外誰も見てないし死ぬわけではないしさっさと満足させて終わらせて帰って風呂入って寝て忘れようとそんなことばかり考えていた。
「ねぇねぇ助けてほしい?助けてあげよっか?助けてあげるよ」
突然耳元で耳障りな声が聞こえて振り向いて見ると、猫のような犬のような鼠のようなぬいぐるみがおちょくるように浮いていた。
悪魔の囁きというのだろうか。アニメで見るこうゆう存在は原因だったり首謀者だったり黒幕だったりすることが多いため直観的に関わり合いにはなりたくないと思った。
馬男のほうは脱がすことに夢中なのか気づいていなく、僕も抵抗するのに必死なのでふざけた存在に構っている余裕はない。
しかし現実は残酷にも選択肢は黙って汚されるか悪魔に頼るしかなく、だったら消去法で選択肢は一つしかない。
僕は黙ってベルトに手をかけた。
「しょうがないなぁ。助けてあげるよ」
一瞬の出来事だった。肩や足の風通りが良くなり、明らかに自分の服装が変わったことに気付いた。
自分の身に何が起きたのか理解したくなくて現実から目を背けるように空想の存在を見る。
どこから出したのか悪魔は手鏡を持っており、笑いを堪えながら見たくない現実を突きつける。
そこに映っていたのはかつて封印したはずの僕の黒歴史と瓜二つの人物、救世天使セラフィエルそのものだった。
長い銀髪に青い瞳と天使の輪、自分の姉が元になっているため体格と性別も変わっており全体像は把握できないが目で見て確認できる部分は以前に僕が書き上げたデザイン通りになっている。姉の顔で蔑みの眼をしているのは別として。
「ギャハハハハハハ!!!魔法少女!変身した!ギャハハハハハハハハハハハ!!!」
笑いを堪えきれず、悪魔は僕の戸惑う様子が面白いのかただ馬鹿にしているのか理由はわからないが邪悪に笑っていた。
こいつは後で殺す。
真っ先に処理すべき敵は突然姿が変わったことで驚いたのか距離を取った馬男のほうだ。
馬男はさらに興奮したのか相変わらずすごい勢いで突っ込んでくるが、僕もこの姿で先程の二の舞にはなりたくないため理不尽な現実に向き合い応戦した。
「いけっ魔法少女!必殺技だ!」
外野の悪魔がウザいし思い通りにするのも癪だけど迷ってはいられないと理解し、自分がかつてウキウキで想像した必殺技を叫んだ。
「ライトロードパニシュメント!」
馬男は全身を光に包まれ跡形も無く静かに消滅する。
そこにはなんて事のないいつもの住宅地に戻っていた。魔法少女と言う異様な存在を残して。
目の前の危険は無くなったが自分のしたことを冷静に考えてしまった。
僕は自分が助かるために人を殺してしまったのではないかと思い、こんな姿にした元凶を睨む。
必殺技でまた爆笑するかと思ったがそんなことはなく、悪魔はむしろきょとんとしていた。
「えっ、被害者なのにそんなこと考えるの?どうせ我以外見てないから完全犯罪なのに。お人好しだなぁ。僕は人殺しなんだぁってこのまま罪悪感に苦しむのを見るのも乙なものだけど、全然気にしなくていいやつだよ。あれは人間じゃなくて欲望の塊と悪魔が混ざり合った特に名前を持たない新種の怪物なんだよ。多分発生してそんなに時間経ってないから運よく一撃で倒せたけど、我のよう」
「ライトロードパニシュメント!」
「んぎゃあぁぁぁぁあぁぁ!!」
なぜ心が読めるのかわからないし、話長そうだしむしゃくしゃしてやった。反省はしないし後悔もない。元凶は消したしこれで元に戻れれば御の字だ。
「な~んちゃって。残念でしたぁ~。我を消せば元に戻れるとか思ったかな?ん?ん?今の力じゃ我は倒せないし倒しても元に戻れるとは限りませ~ん」
僕の周りをぐるぐると周りながら盛大に煽ってきていた。人を苛つかせるにも才能がいるらしいが今まで生きてきた中で一番ウザい。
「て言うか、途中で遮られたせいで自己紹介できなかったじゃん。我にこんな扱いをするなんて、マッキーとの初めてを思い出して嬉し恥ずかし懐かしくって興奮するじゃないか!もっとやってー!」
前言撤回。後悔したし反省する。喜ばせるだけならもう関わろうとしなければいいだけのこと。無視すればいい。しかし、この格好で帰るわけにもいかないし、せめて解除する方法を聞き出さないと。
「あっやべっ、ゴホン。我の名はガルドリアム。中央精霊協会公認の大精霊である。我とあっ」
唐突に名乗ったかと思うと背後に何かの気配がして振り返る。
白と赤が日本の国旗を表すように統一された服装はまさに日本が誇る伝統衣装の巫女服そのものであり、一目で女性だとわかりながらかっこいいと言う言葉が似合う背の高い黒髪美人が僕を、ではなくガルドリアムと名乗った存在に目を向けていた。
ガルドリアムは明らかに動揺した様子で巫女さんに怯えており、僕も状況がわからず困惑したがこいつが何かやらかしたのは空気でわかった。
「驚かせてしまって申し訳ない。ただこいつの処遇については私に任せてほしい。あと私が務める神社までついて来てくれると助かる。色々と話さなければならないことがあって。今から時間を貰ってよろしいかな?」
声色は丁寧で優しいが、巫女さんはそう言いながらガルドリアムの頭を鷲掴み、袖から取り出した小さな木製の箱を開けた。
「あっちょっと待って聞いて乱暴にされたらぁぁぁぁあ」
最後まで騒がしく抵抗していたが、明らかに体積の釣り合わない木箱に吸い込まれた。
最初から最後まで煩いやつだったが、もうこいつの声を聞かなくていいと思うだけで感謝せずにはいられない。ありがとう謎の巫女さん。クソ悪魔ざまぁ。
僕は色々と聞きたいことがあったのでこのままついて行くことにした。ただこの格好はお互い目立ち過ぎるということなので車を手配してもらうことになり、待つ間に身の上を話すことになった。
「一先ず車の手配は済んだから自己紹介でもしようか。私は天道真姫。八柱神社に務める者です。君の、出来れば本名を聞いてもいいかな?」
天道真姫さん。名前まで凛々しいとは恐れ入る。そして本物の巫女さんであることを知ってさらに好感度上がる。この人は無条件で信用できると確信した。
そして本名を聞きたいのは当然だろう。こんな痴女みたいな恰好のやべー奴に救世天使セラフィエルと名乗られても頭イかれてると思われかねない。あと恥ずかしくて僕の精神が持たない。
「はい。僕は澤田透と申します。光陵学園に通っています。あの、この格好は決して自分が望んでなったものではないので弁明させていただきたく存じます」
「そんなに畏まらなくていいから、ゆっくりでいいよ。その姿になったのもおおよそは見当がついてるから。原因はこいつのせいだろう。むしろこいつしか考えつかない。悪気はない、とは言い切れないが大目に見てやってほしい」
例の木箱を取り出して厄介そうな諦観のような慈しむような複雑な顔で見つめていた。
きっと僕には計り知れないとんでもエピソードがあるに違いないと、僕はこいつに嫉妬していた。どうやってこんな素敵な巫女さんと仲良くなったのか。悪魔だからだろうか。悪魔なら大人しく滅されればいいのに。
クソ悪魔のくせに生意気な。
「クソ悪魔のくせに生意気な」
思わず本音が漏れてしまいどう受け取ったのかわからないが、天道さんは背中が見えるくらい深く頭を下げて謝罪していた。
「こいつの性格が捻じ曲がったのは私にも非がある。どうか許してほしい」
「えぇっと、どうして天道さんが謝るんですか?」
「そもそもこいつを野放しにしたのが間違いだった。私が仕事を疎かにした、私の怠慢が原因だ。君を巻き込んでしまったことを謝罪させてほしい。申し訳ない」
誰も見ていないとはいえ、悪いと思えない人に謝られるのはすごく罪悪感があるため、一旦謝罪を受け入れることにした。
「わかりました許します。なので頭を上げてください」
「本来なら神社についてから謝罪するのが礼儀なのに、こんな形になってしまいすまない。だがどうしても先に謝っておきたかったんだ。正式な謝罪についてはご両親を交えてまた改めて」
「それはやめてください。こんな格好になったのが知れたら恥ずかしくて死にます。というかこの格好を解除することって出来ないんですか?できるだけ早く解除したいんですけど」
「解除の方法は契約次第だからガルドに聞けばわかるけど、今その格好を解除するのはあまりお勧めできないかな。私にもどうなるかわからないから。ただ望まない結果になるのは間違いないよ」
断言するということは根拠があってのことだから、隠すようなことでなければ話してもいいはず。
「興味本位なんですが思い当たることがあれば聞いてもいいですか?」
「例えばだけど、1.元の姿に戻り全裸になる。2.その姿で全裸になる。3.元の姿に戻りその格好になる。4.戻らない可能性がある。ぱっと思いつくのだとこのくらい。他にも色々デメリットがあるんだけど詳しいことは神社で話すから」
素直に元に戻る選択肢がないらしい。
「ろくでもないのはわかりました」
「あぁ、ガルドが最初からまともな解除をしないことは私が経験済みだから先に教えられたのはよかった」
つまり天道さんも魔法少女に変身できて、さらに全裸に剥かれた可能性があるということではないだろうか。
なにそれ見たい。
アニメだと変身解除で全裸は割とあるが、実際にも起こりえるとはロマンがあるな。自分の身に起きなければだけど。
「そういえばその悪魔って一体何者なんですか?名前は聞いた気がしますが」
「それも詳しいことは神社で話すけど、こいつの名前はガルドリアム。悪魔ではなく公式の立派な精霊だよ。と言っても会って話したらわかると思うけど、不愉快な奴だから嫌われることのほうが多くて、悪魔と間違うのも無理はないと思う。元は悪魔だからあながち間違いではないけど、どうかこいつのことは精霊として扱ってほしい」
「精霊と悪魔の扱いが違うのは何となくわかりますが、どうしてそこまで庇うんですか?」
「私がガルドの契約者だって言うのもあるけど、言霊というのがあって、悪魔と呼び続けたら本当に悪魔に戻ってしまうかも知れないから。だからできるだけ精霊として呼んでやってほしい。もしくはガルドリアムと名前で。私みたく愛称で呼んでもいいから」
「わかりました。僕も愛称で呼ぶことにします」
「よかった。なんて呼ぼうか」
「ニャ〇ちゅう」
「それはやめておこうか」
一目見て絶対にこれだと思った我ながら自信満々ぴったりの愛称だと思ったのだが採用ならず。
他の候補といえばカードをキャプターする方か、僕と契約して魔法少女になる方か。流れ的におそらく不採用なのは間違いない。
「では普通にガルくんで」
「君は素直でとても助かる。ガルド相手だとこうはいかない」
言い方で普段から苦労してきているのが伝わってくる。
「そういえば、こいつは何で人の嫌がることがわかるんですか?心でも読めるんですか?」
「ほぼ正解だ。無表情の相手でも寝ている相手からでも感情や思考を読み取れる。さらにそれを踏まえた上で煽ったり嫌がらせをしてくるのを生き甲斐とする迷惑極まりない奴だ」
「僕は心読めないですが、心中お察しします」
「すまない。つい愚痴をこぼしてしまった。君も大変だっただろうに」
「まぁ、大変でしたがお陰で助かったので。出会って長いんですか?」
「私が出会ったのも君と同じくらいの時だからそこそこだと思うよ。他の精霊使いに比べたら」
「なるほど。他にも精霊使いなるものがいると」
精霊使いと聞くと途端にファンタジー感がしてワクワクしてきてしまうが、これ以上関わるのはいかがなものか判断に迷う。
「これも神社で詳しく……ようやくお迎えが来たようだから取り合えず行こうか」
天道さんが歩き出したのでついて行くと、路地を曲がった先で辺りを見回すスーツ姿の男性がいた。
十分見える距離だと思ったが、目の前まで近づいたところでようやく気付いてもらい、車に案内された。
眼が悪いのかと思ったが、運転してこれるのにそんなことはないはずと思い直し、天道さんに尋ねたが「それも神社で」と言われ流石に少し不審に思ったが、人差し指を口の前に置く内緒ポーズに心ときめいたのでノープロブレム。
車で移動する間は基本的に会話はなく、話しかけていい雰囲気でもなかったので大人しく空気を読んで黙って過ごした。
ご拝読いただきありがとうございます。
誤字脱字があれば順次編集します。
物語の進行の都合や苦情があった場合、書き足しや修正または削除する場合があります。
ご容赦ください。