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第一話 激ヤバ!五稜郭大結界決戦8

「オルァッ!!」

 討子は一直線にピエロへと向かっていき、光る爪で攻撃する。しかし、すべての攻撃はピエロの持つ包丁によってことごとく防がれてしまう。

「クソッ……ザコだったら一瞬で切り裂けるのに……」

「早くお肉になあれっ☆」

 ピエロも反撃してくるが、不意打ちでなければ動き自体はそこまで早くないので、討子は素早く動いてかわしきる。

「ならこれでどうっ」

 再び討子はピエロに向かって走り出す。

「ははっ、単純だね☆」

 しかし、討子の速さに慣れたピエロは、カウンターの要領で向かってくる彼女へ包丁を振るう。このまま、討子の頭が真っ二つになるかと思われたその時、


 カシャッ!


 カメラのシャッター音と共に、討子の携帯からまばゆい光が放たれた。

「グワッ☆」

 先ほどまで暗闇だったこともあり、余計に光を強く感じたのかピエロも思わず手で目を覆った。

「テメェらみてぇな陰キャには効くだろ! んでもってコイツもくらいな!」

 身動きを防いでいるうちに、討子はその手の光の爪で、ピエロのわき腹を切り裂いた……かに見えた。

「な、なんで……」

 ピエロにはほとんどダメージが入っておらず、逆に討子の光の爪がボロボロと欠けていた。

「ちゃんとカラダも鍛えないといいお肉にはなれないよッ☆」

「グッ!?」

 この一撃で決めるつもりだったためか、油断していた討子は視界が復活したピエロの反撃をくらい、魂美が座っている方向へ吹っ飛ばされ、破棄された机の山へ突っ込んだ。

「いてて……チッ、いくらなんでも硬すぎだろ」

「そりゃそうさ、そいつはただの悪霊じゃない、実体化した悪霊だ。その爪で切りたいなら、そいつの持つ霊力以上の力で切らなきゃダメだね」

 椅子に座ったまま魂美が呆れたように言う、

「マジ? ただでさえあの包丁に防がれないよう、気を付けないといけないのに……」

「なんだ、そんなの簡単さ。包丁ごとぶった切ってやりゃあいい」

「……それができねぇから困ってんだろ! ボケたかババア!」

「ボケてんのはそっちだクソガキ。いいか、言いたくねぇがテメェのカラダにある霊力はあのピエロ野郎よりも上なんだよ」

「え!? そうなの!?」

「テメェの攻撃には無駄が多いんだよ。だから力が分散して切れるモノも切れねぇ」

「んなこと言ったってどうすれうおっ!?」

 ピエロが二人の会話を黙って聞いている訳もなく、話の途中でピエロが襲いかかってくる。

「早くキミ達を料理しないと☆お客さんが待ってるんだ☆」

「クソッ……だれがこんな廃墟なんかで飯食うかよ」

 ピエロの猛攻をさばきつつ、なんとか反撃の糸口を掴もうとする討子。しかし、隙を作れたとしても肝心の攻撃が通らないのであれば意味がない。八方ふさがりとなってしまった彼女は、攻撃をかわし続けるしかないのだが、

「ッ!?」

 落ちていた机に足をとられ、躓いてしまう。そしてそれをピエロは見逃さない。

「ギャルひき肉入りまぁす☆」

 今度こそ包丁が彼女の頭に向かって振り下ろされる。これまでかと思わず目をつぶってしまう討子。

「…………あれ?」

 襲い来る痛みに身構えていたが、いつまでたってもそんなものは来ない。恐る恐る目を開けてみると、そこには鞘に入った刀でピエロの攻撃を防ぐ魂美がいた。

「ババア……なんで……」

「このままテメェがぶっ殺されるのを見物してても良かったんだが、そうなったらアタシが弟子屈にグダグダ言われちまうからねぇ。ほら、さっさと立ちな。あと3分でコイツを叩き切ってみせなっと」


 ドガッ!


 そう言って魂美がピエロを蹴り飛ばすと、壁まで一直線に吹き飛ばされていった。唖然とする討子をよそに、魂美はレクチャーを続ける。

「いいか、霊力っつーのはイメージがすべてだ。あの悪霊は『噂』っつー人々のイメージによって、霊力が実体化してあれだけ強くなった。ならそれを今度は、お前自身のイメージでやりゃいいだけの話だ」

「……あーしのイメージ……」

「お前みたいに大量の霊力を持っていても、それを扱うイメージができてなきゃ宝の持ち腐れだ。イメージが強ければ強いほど、実体化した霊力の力も強大になる。逆にイメージが漠然としていると霊力が分散して弱くなっちまうんだよ。まずは、あのクソピロを一撃で切り裂く自分自身の姿を想像するんだ」

「そんなこと急に言われても……」

「それがダメなら、アンタが一番強いと思っているモノを想像しな。それと自分自身を重ね合わせるんだ。そのものになろうとしなくていい、どこか一部だけでも自分のカラダに憑依させる感じだ」

「一番強いモノ……」

 討子は脳ミソをフル回転させて、これまでの人生で見て感じた「一番強いモノ」をイメージする。

(強いって……格闘家とか? いや生身の人間が勝てるイメージがしないし……アニメとかは……ダメ、そういうの全然見ないからイメージできない……えっと……何か……何か……)

 パッと強いモノが思い浮かばない討子。しかし、状況は待ってくれない。

「いいね……☆ 強いババひき肉と、弱いギャルひき肉、合いびき肉にしたらバランスがいい合いびき肉になりそう☆」

 吹き飛ばされたピエロが立ち上がって、討子へと向かっていく。魂美も念のため刀に手をかけ、いつでも攻撃できるように構える。

「えっと……強いモノ……強いモノ」

 ブツブツと口に出しながら必死で考える討子。だが、ピエロは目前に迫っている。

(なにか……あんまり昔じゃ記憶が曖昧でダメだ……最近会った強いモノ……あぁクソッ! これだけは考えたくなかったのに!)

「……ここまでか……」

 魂美が刀を抜こうとしたその時、


 ダッ!


 討子がその脇をすり抜けて、ピエロへと向かっていった。

「ッ!?」

 魂美も驚いたのか一瞬カラダが固まってしまってしまう。最終的には討子とピエロだけがお互いの攻撃の間合いに入る。もし、ピエロの攻撃を受けてしまえば、今度こそただでは済まない。

「ハッハー☆」

 襲い来る包丁、対する討子も応戦しようと右手を構える。その手から伸びた光の爪は先ほどよりも、か細く、輝いていた。

「あれは……」


 その形はまるで、刀のようであった。


 そしてピエロの包丁と、討子の光の爪が交錯する。


「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 ギィィィィィンッ!


 衝突した瞬間、金属音に似た甲高い音と、凄まじい光が発せられる。お互いの力が拮抗しているのか、討子とピエロは鍔迫り合いのような形になる。


「ハハッ☆ ボクの包丁は世界一なんだ☆ これで世界中の人をハッピーにするんだ☆」

「うるせぇ! あーしは今、これまでの人生で一番最悪の気分なんだよ……! だからさっさとぶった切られろこのクソピエロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 討子の叫びと共に爪の光はいっそう強くなり、ついにはピエロの包丁を打ち砕いた。

「ハッ☆ そんな……」

 そしてそのまま光の爪はピエロのカラダを真っ二つに切り裂いた。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ……☆!」

 ピエロの断末魔と共に、切り裂かれたカラダは光に包まれ、ポロポロと崩れ去っていった。そして一瞬の静寂が訪れたのち、

「イヨッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 勝利の咆哮が真夜中の廃墟に響きわたった。

「どーだ見たか! やってやったぞ! このあーしが!」

 討子は魂美の方へ振り返り、自慢気で憎たらしそうな表情で言った。

「……そうだね、クソガキにしてはよくやったよ」

「チッ……偉そうにしやがって……内心ではビビってんじゃねぇの?」

 思っていたよりも普通のリアクションで拍子抜けしたのか、討子は煽るように魂美へ詰め寄る。

「まぁ……流石にビックリしたよ……まさか……


 アンタがアタシをこんなに尊敬してくれているなんてねぇ……」


 魂美は今までで一番の満面の笑みでそう言うと、討子はギクッと、カラダを震わせた。

「っ……な、なんのこと……? はー、言ってる意味ゼンゼンわかんねー、え? ボケたの? え? マジでなんのことだかわかんない~」

 討子の目線はあちこち飛び回り、一目で焦っていることが伺えた。

「いやぁ……まさか、あんだけクソババア呼ばわりしてたのに、一番強いモノでアタシをイメージしてくれるとはね……ホント素直じゃないねぇアンタは」

 そんな彼女に畳みかけるように追い打ちをする魂美。討子は顔を真っ赤にして反論する。

「ちっげぇし! 調子に乗んなよクソババア! アタシは……あれ、そう! 昨日テレビで時代劇見てアレ強そうだなって思ったからああなっただけだし! テメェのことなんか1ミリもかんがえてねぇよバァカ!」

 しかし、冷静さを失っている討子の、誰が聞いてもすぐわかる嘘、小学生並みに低い語彙力による罵倒は魂美にとってはノーダメージ、むしろ醜く足掻く彼女を見て楽しんでいる節さえある。

「わかってるわかってる、それも尊敬の裏返しなんだろ? いやぁJKに慕われるってのも悪くないね。よし、気分がいいから帰りにラッピにでも寄ってくか?」

「あーもうウザイウザイウザイウザイウザイウザイ! うるせぇ! ババア! 死ねッ! 死ねッ! あとラッピは買ってけ! あれね! チャイニーズチキンバーガーのチーズと目玉焼きトッピングしたやつね! あと、ラキポテとブルーベリーシェイクも!」

 罵倒した後でもしっかり注文はする討子。

「そんなに食ったら太るぞ」

「今日はいっぱい運動したからいいの! あー奢りだったらガラナも買ってもらおっかなー」


 そんなことを仲良く言いながら、二人は廃墟を後にするのだった。


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