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第一話 激ヤバ!五稜郭大結界決戦4

 トントントントン……



「んっ……んぅ……」


 階下から聞こえてくる包丁の音で討子は目を覚ました。


「……あれ…………? ここ……どこ?」


 討子はすぐ目に入ってきた見知らぬ天井に戸惑うが、徐々に目が覚めていき昨日の出来事が頭に蘇ってくる。

「あー、そっか。あのクソババアの家にいるんだっけ……ダル……」

 ノソノソと体を起こして改めて周りを見回す。そこは一昨日まで住んでいた見慣れたマンションの一室ではなく、どこか古びた印象を受ける子供部屋だった。寝ぼけまなこのまま、近くのテーブルに置いていたスマホで時間をチェックする。

「まだ7時……んー、まぁ目ぇ覚めちゃったし起きるかぁ……」

 ベッドから降りた討子は、魂美から借りたヨレヨレのパジャマのまま部屋から出る。

「早くあーしの荷物届かないかなー。これ以上ババアの匂いが染みついたダサぇパジャマ着たくないんだけどー」

 討子はパジャマの裾を不快そうな顔で嗅ぎながら、文句をブツブツ言いつつ階段を降りる。1階に着くと味噌汁やご飯など、朝ごはんのいい匂いがしてきた。そして同時に討子のお腹が音を立てる。

「……なんかこういうの久しぶりかも」

 彼女の頭の中では数年前の記憶が呼び起される。狭いキッチンで下手ながらも一生懸命、朝ごはんを作る父、そしてそれを見かねて手伝う自分、そんなどんな家庭でもあるありきたりな光景。だがそんな何気ない光景に彼女は郷愁を感じていた。


廊下を渡ってリビングに行く。


 この家はダイニングキッチンのため、リビングから料理をしている魂美の姿が見えた。エプロンを着けてキッチンに立つ姿が一瞬、先ほど脳裏によぎった父の姿と重なる。


「……ん?」


 だが、それはモノの例えではなく、本当に一瞬だけだった。


 なぜなら、討子がすぐにその光景のおかしさに気付いたからだ。違和感は主に右手、特に握られている道具にあった。トントンという音から包丁を持っているのだと思ったが、それにしては取っ手がデカすぎる……というかゴテゴテとしすぎている。

 

 そう彼女は料理用の包丁ではなく、



 昨日幽霊たちを皆殺しにした妖刀で味噌汁のネギを切っていたのだ。




「オイ! ババアァァァァァァァァァァ!! その手を止めろぉぉぉぉぉ!!」

 討子は物凄い剣幕で魂美に詰め寄る。

「なんだいクソガキ、朝ごはんが待ちきれないのかい? 食いしん坊だね、ちょっと待ってな」

「違ぇわクソババア! あーしが朝ごはん待ちきれなくてキレてるように見えるか!? とりあえずその危なっかしい凶器をしまえ!」

 魂美は”まったくしょうがないねこのわんぱくガールは”と、言わんばかりのと表情をしているが、一方の討子はバチバチにキレていた。

「何にキレてるんだい? ……あー、味噌汁にネギ入れない派?」

「味噌汁には豆腐とネギ一択だよ! ……ってそうじゃなくて……てめぇに衛生観念はねぇのか!? それならすぐ保健所に通報してやるよ!」

「なめんじゃないよ! アタシが何十年主婦やってきたと思ってんだい!」

「その結果がこれならテメェの主婦生活には一ミリも価値はねぇよ!」

 魂美はなぜ眼前のJKがキレているのか分からずポカンとしていたが、討子の目線がずっと手に持った刀を追っていることに気付き、ようやく理解したようだった。

「あー、もしかしてこの刀が汚れてるんじゃないかって心配してんのか? それなら気にすんな。この刀はなんかよくわかんない呪いの力で汚れたり、切れ味落ちたりしねぇから安心しな」

 そう言いながら討子は自慢気にその刀を見せつける。確かに先ほどまでネギや他の具材を切っていたはずだが、刀身に汚れは一切ついていないどころか、水滴すらついていない。だが、討子が気にしているのはそんな事ではない。

「いや、なんかよくわかんない呪いが込められてる刀で料理すんなっつってんの!」

「こいつだったら研いだり洗ったりしなくていいから、いつでも綺麗な包丁として使えるし、便利でいいだろ」

 化け物を切り裂く呪いの刀を、まるで通販番組の便利な包丁みたいに使う魂美。しかし、説明を聞いてもやはり討子は納得しない。

「それで昨日の幽霊とかもぶっ殺してんだろ!? それで作った料理食ってあーしが腹壊したらどうすんの!?」

「幽霊や呪いで腹壊すなんてことあるわけねーだろ。非ィ科学的なこと言ってんじゃないよ」

「その非科学的な連中をぶっ殺してるてめぇが言うことじゃねーだろババア!」

「あーもう、ごちゃごちゃうるさいね! 文句あるんだったら食うじゃないよ!」

 魂美はイラつきながらそう言い放つと再び料理に戻る。討子は何か言いたげだったが、これ以上言っても無駄だと判断したのか、口に出かかった罵詈雑言を胸の中にしまった。

「チッ……もういいわ……顔洗ってくる」

 討子は不機嫌さをアピールするように、ドスンドスンとわざと床を鳴らしながら洗面所へ向かう。まだ家に慣れたわけではないが、どこに何があるのかはなんとなく理解しており、迷うことなく洗面所の扉を開ける。洗面台には化粧水や歯ブラシなど、様々なモノがごちゃごちゃと置かれており、生活感が感じられた。若干汚れている鏡には、不機嫌そうな顔をした自分の顔が写っている。

「はぁ……一日目でもう出ていきたくなったんだけど……チッ……歯磨き粉のセンスもねぇのかよ」

 文句を言いつつも、歯を磨き始める討子。

(あー、あと1年もこんなとこに住まなきゃいけねぇのか……だりぃ……つーかあんなことがあったのに今日から普通にガッコってイカレてんのか……)

 討子はボーッとしながら、頭の中で文句をタラタラと垂れ流す。

(バイトの量増やして別のとこで一人暮らし始めるか……? いや、そんな金ないし……まぁババアのせいで住み心地は最悪だけど、家賃や生活費かかんないのはデカいしなぁ。しばらくはここに住んでやっか)

 討子はそう決意すると、ささっと顔を洗って身支度を整え、リビングへ戻った。

「ホラ、朝飯できたからさっさと食いな」

「期待はしてないけど、せめて食えるもんは出してよね」

 そんな悪態をつきながら席に着く討子に、魂美はイラつきながらも茶碗を渡す。食卓に並んでいるのは、ごはん、味噌汁、納豆、焼き魚、そのほか小鉢がいろいろと、ザ・日本の朝ごはんと言えるラインナップであった。

「へぇー、思ってたよりマシじゃん。さすがババアなだけのことはあるわね」

「どういう意味だそれ」

 討子はさっそく朝ごはんを食べようと箸へ手を伸ばすが、魂美にチョップで止められる。

「いてっ! 何すんだババア!」

「いただきますを言いなクソガキ! 食材とアタシに感謝をしてから食うんだよ!」

「チッ……うるさいな……い・た・だ・き・ま・す! これでいいんでしょ!」

「感謝の念が足りないと言いたいとこだが、まぁ許してやろう」

 そんなやり取りをしながら、討子はようやく焼き魚を口にする。口の中で身がホロホロと崩れ、程よい塩っ気が口に広がり、そこにごはんをかっこむことで、口いっぱいに美味しさが広がってくる。昨日の夜から何も食べてなかった討子は、夢中で食べ進める。そんな彼女の様子を見て、魂美はニヤニヤと笑っていた。

「クソババアの作る飯の味はどうだい?」

 それに気付いた討子は急いで箸を止め、少し顔を赤らめながら言う。

「ま、まぁまぁってとこね。お情けで70点をあげる」

「そりゃどーも」

 討子がそのままごはんを食べ続けていると、

「むぐっ!」

 喉を詰まらせてしまった。手元の牛乳は空、となるとこの状況を打開できるのは、例の味噌汁しかない。

「……ッ!」

 覚悟を決めた討子は、急いで味噌汁を口に流し込んだ。

「んぐっ……ぷっはぁ……あぁ……飲んじゃった」

「別に腹壊したりマズいわけでもないんだから文句言うな」

「だからそういう問題じゃ……」

 討子はそう言って改めてジッと味噌汁を見つめると、再びおずおずと口にする。

「……まぁ、味噌汁には罪はないから頂いてあげる」

 味に文句はなかったのか、再び朝ごはんを食べ続ける討子。しかし、台所に抜き身で出しっぱなしになっている妖刀を目にして、最後に心配そうな顔で魂美に問いかける。


「念のため聞くけど……あの刀で人とか切ってないよね……?」


「……今からテメェを一人目にしてやろうか?」

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