やる気ですか
普段よりもお洒落をしたマチルダは、男子寮と女子寮が別れる中庭のベンチでそわそわとロルフを待つ。以前夕食を逃したマチルダとゾフィの為に軽食を持って来てくれたロルフと一緒に過ごした場所。
ここで待っていれば、ロルフが男子寮から出てくればすぐに気が付くだろう。
そう思ってここに座ってからどれだけの時間が経ったのだろう。朝食は軽く済ませた程度で、昼時を前にした今腹の虫がくうと小さく鳴き声を上げた。
「まだ待ってるぜ…」
「諦めたら良いのに」
コソコソとマチルダの様子を伺いながら何か囁いている生徒は多い。寮の入り口に陣取っているのだから、いつまでも同じ場所で人を待ち続けているマチルダは気にされて当然だ。
マチルダ自身も分かっていた。どれだけ待っていてもロルフは姿を現さない。きっと、昼間にしてほしいと言ったあの言葉は、あの場を切り抜ける為に出た言葉だったのだろう。いつまでも待ち続けるのは、ただの意地だった。
一緒に外出するからと浮かれていた自分が恥ずかしい。きっと来てくれる、言ってしまったからには約束を果たしてくれる。そう期待していた筈なのに、心の何処かでは来ないだろうとも思っていた。好きだという感情は一方的なもので、ロルフにとっては迷惑でしかないのだろう。
ふうと溜息を吐き、次の鐘が鳴ってもロルフが現れなければ部屋に戻ろうと決めた瞬間だった。
「え…?」
ばしゃりと頭から水が降って来た。何が起きたのか分からず、ぱちくりと目を瞬かせるマチルダは全身ずぶ濡れになっていた。
折角おめかしをしたのに台無しだ。ゾフィが綺麗に整えてくれた髪も、すっかり乱れてしまっている。
「ごめんあそばせ」
クスクスと嫌な笑みを浮かべながら近付いてくる女子生徒たち。見覚えがある生徒たちは、皆リズの取り巻きたちだった。
「魔法の練習をしておりましたの。まさか人が居るなんて思いもしませんでしたから…」
「…訓練場に行った方が宜しいかと」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ、両腕を組みながら偉そうにしている女子生徒に苛立ちながら、マチルダは頬に張り付いた髪を指先で退ける。アーマーリングに姿を変えている魔具が水に濡れ、鈍く輝いていた。
「早くお部屋にお戻りになられた方が宜しいわ。風邪を引いてしまいますもの」
「この程度で体調を崩す程軟ではありませんわ」
「まあ、濡れたままここでお過ごしになられるの?フロイデンタールさんは変わっていらっしゃるのね」
後ろに控えていた生徒が口元を抑えながら大袈裟に驚いてみせる。何が目的で濡れ鼠にしてくれたのかは分からないが、事故ではなく故意である事は分かっている。もし本当に事故ならば、真っ先に謝罪をする筈なのだから。
「人を待っておりますの。どうぞ私の事はお気になさらず、鍛練に集中なさって」
「では私共でお待ちしておりますわ。お相手の方がいらっしゃいましたら、きちんと伝えておきますから」
「お優しいお言葉感謝します。お気持ちだけいただきますわ」
「分からない方ね」
スッと細められた目。じろりとマチルダを睨むその生徒は、ずいと距離を縮めて低く囁いた。
「たかが男爵家の娘が、調子に乗るんじゃないわ」
「仰る意味が分かりませんわ。学園内で身分は関係ありませんもの」
己の力で成り上がれ。この学園では己の能力がものを言う。力の無い物は身分が高くとも意味は無いし、逆に能力さえあれば孤児であろうと成り上がれる。そういう場所で男爵家の娘というマチルダの地位は無意味でしかなかった。
「たった二年の間しか通用しない常識を真に受けるだなんて。身分に意味は無いと言われていても、卒業すれば身分は絶対なのよ。貴方が王宮最高術師にでもなれば話は別だけれど」
きっと自分が伯爵家の娘で、マチルダよりも上の身分にいるからこれだけ偉そうに出来るのだろう。もし今無遠慮に攻撃すれば、三秒数える間に彼女は地面に倒れ伏す事が出来るだろう。ヒールで踏みつけてやったら気分が良いだろうか。
それをしないマチルダの優しさに気付く事もないまま、女子生徒はふふんと鼻を鳴らした。
「外の世界を思い出しなさい。男爵家の娘ごときが、公爵家と仲を深められると思わない事ね」
「…つまり、何が言いたいのかしら」
丁寧に返答する事も面倒臭い。先に喧嘩を売って来たのは向こうだ。
苛々と眉間に皺を寄せるマチルダに、女子生徒はにこりと可愛らしく微笑んで見せた。
「ラウエンシュタイン様の御迷惑になっているわ。だからいつまでも現れてくださらない。ご自分でもお分かりなのではなくて?」
腹立たしい。自分でも分かっていて認めたくなかった事をずけずけと言われる不愉快さを初めて知った。黙らせてやろうかと拳を握りしめた。ゆらりと立ち上がった途端、マチルダの視界から女子生徒たちが消える。
「悪いな、遅くなって」
「ラウエンシュタイン様」
肩越しにマチルダを見たロルフは普段と装いが違う。ぼさぼさと伸ばし切りの髪は整えられ、背中で綺麗に纏められていた。
前髪は長いままだが、その隙間から覗く金色の目はいつも通り美しい。呆けた顔でロルフを見つめる女子生徒たちが、おろおろと慌て始めたようだ。
「何で濡れてるんだ?」
「雨雲の悪戯ですわ」
「随分局所的だな。話が終わったならフロイデンタールを譲ってくれないか?先約は俺なんだ」
さっさと消えろと圧をかけるロルフの視線に、気まずそうな顔をした女子生徒たちはぱたぱたと小走りで消えて行く。
助けてくれた事への感謝と、来るのが遅いと怒りたい気持ちでどうしたら良いのか分からないマチルダは、拳を握りしめた格好のまま固まっていた。
「あー…君が何時間もここで待ってるって聞いて…時間の約束はしていなかったから、昼前くらいで良いかと思ったんだ」
申し訳なさそうな顔をして、ロルフはぽりぽりと頬を掻く。
女性の支度には時間が掛かると聞いた。だから朝起きて食事を済ませてから支度…それなら昼前くらい。そう計算したんだと説明するロルフは、深々と頭を下げてマチルダに詫びた。
「さっきの子たちにやられたのか?」
「…ええ」
「そうか。待ってるから着替えてくると良い。それとも延期するか?」
ロルフの言葉を理解出来ず、マチルダはぽかんと口を半開きにしてロルフを見上げる。
どこからどう見ても公爵家の息子にしか見えない、きちんと身なりを整えたロルフを初めて見た。もしかしたら入学式の時にはこんな格好をしていたのかもしれないが、その時はまだロルフを認識していない。
整った顔立ちをしていると思ってはいたが、こんなに美しい人だと思わなかった。これでは敵が増えてしまう。先程遊んでくれた女子生徒たちも、ロルフを見てほんのりと頬を染めていた。
「こ、このままで良いです!」
「駄目だろうそれは…風邪を引いたら実習に行けないぞ。単位が取れない」
「これくらいでは風邪なんて引きませんもの」
待たせている間に帰ってしまったらどうしよう。他の女子生徒にじろじろ見られるのも嫌だ。素敵な人だと知られたくない。自分だけが知っていれば良い。
どうにかして服と髪を乾かす魔法を思い出そうとするのだが、慌てている頭ではなかなか思い出せそうになかった。
「びしょ濡れの女の子と出かける趣味は無いんだ。着替えに行かないなら、俺は帰る」
「や、やだ!」
ひしっとロルフの手を掴み、今にも泣き出しそうな顔で縋りついた。お願いだから行かないで、一緒にいて。可愛いと思われたくて着飾った。それは台無しになってしまったが、チャンスすらなくなってしまうのは嫌だ。
「着替えます、着替えますから…どうかお帰りにならないでくださいませ!」
「う…分かった。分かったから抱き付くんじゃない!早く行ってくれ!」
早く行けと慌てふためくロルフに、マチルダは絶対に帰るなよと視線で圧をかけると、これ以上駄々を捏ねる前にと女子寮へ向かって走り出す。
先程嫌がらせをしてくれた女子生徒たちはしっかりと顔を覚えた。今まではリズの取り巻きとしか認識していなかったが、敵視してくるのであれば話は別だ。黙ってやられてくれると思うなよ。ふつふつとした怒りを押し殺しながら、マチルダは自室に残っている他の私服を思い浮かべて走り続けた。
◆◆◆
一番のお気に入りのワンピースは台無しになってしまったが、実家から持って来ていた他の服があって助かった。無難に白いブラウスとグリーンの膝丈スカートになってしまったし、ゾフィが整えてくれた髪もいつも通り降ろすだけになってしまった。
折角初めてのデートをするのだから、可愛いと思ってほしくて頑張ったつもりだったのだが、残念な事にそれは叶わない。それが腹立たしくて堪らないのだが、今はロルフと並んで歩けているだけで良しとしよう。
「で、結局何があったんだ?」
「魔法の練習をされていたそうです。運悪く狙った場所へ飛ばせなかったようですね」
聞きたいのはそういう事ではないとは理解している。だが、嫌がらせをされましたなんて話をしたくなかった。何となく恥ずかしかった。
誰よりも美しく、誰よりも強い女として立っていたいのに、よく分からない理由で嫌がらせをされるなんて無様にも程がある。
「確かリズ…えーと、ローゼンハイン嬢のご友人だったか」
「あのう…ローゼンハインさんとは昔馴染みなのですよね?」
「ああ。父親同士顔を合わせる事が多かったし、同じ歳だからよく遊んでたんだ」
公爵家同士の、同じ歳の男女の子供たち。王家の遠縁であるローゼンハイン家と、王家と血筋の交わらない力のみでのし上ったラウエンシュタイン家。互いに縁を結び合えれば良いと考えていたのか、父親同士我が子を連れて交流を繰り返したのだとロルフは言った。
「では、その…ご結婚のお約束など」
「それは無い。リズは王太子妃候補だったからな」
「そうなのですか?!」
知らなかったのかと呟いたロルフは、更にリズについて教えてくれた。
ローゼンハイン家に生まれた唯一の女児。幼い頃から魔力を持っていると分かってはいたのだが、成長するにつれ力を増した。魔法を扱う事にも長け、何より美しく育った。
学園内でもマチルダとリズのどちらが好みかなんて派閥があるそうだが、マチルダ本人はあまりそういった話に興味はない。恐らくリズも同じだろう。
「王太子妃に選ばれはしなかったが、王宮術師として迎え入れられる事は決まってる。あわよくば、側妃にでも迎えられたら良いとでも思ってるんだろう」
「側妃…ということは、未来の国王陛下の御子を宿すかもしれない、という事ですね」
「そうだ。だからリズは自由を謳歌する筈の学園生活でも恋人を作る事は許されていない。出来るだけ男子生徒と関りを持たないようにとも言われてるらしいから、俺ともあまり会話をしなかったんだが…最近また話すようになったな」
久しぶりに話していると少しだけ嬉しそうに微笑むロルフの表情に、マチルダはぐっと唇を噛み締める。
学園に来てからロルフが女子生徒と会話をしている所なんて殆ど見た事が無い。それで安心していたし、一番近い場所にいるのは自分だと思っていた。だが、実際はそうでは無かったらしい。
一番近くにいたのは、麗しき公爵家令嬢リズ・トリシャ・ローゼンハインだったのだ。
家柄も容姿も良く、能力も文句無し。そんな人がすぐ傍にいたのだから、弱小男爵家出身の自分では太刀打ち出来ないかもしれないと思った。
「許されない仲を…望んだことは無いのですか?」
「無いな。リズは俺には勿体ない」
「何故ですか?」
「あれだけの美人で公爵家令嬢。魔力も強くて魔法を扱う事にも長けている。そんな人が、異形である俺なんかを選ぶ必要は無いからな」
異形と自分を嘲笑するのは何度目なのだろう。一度だけ見せてもらったあの姿は、他の誰かには受け入れてもらえなかったのだろうか。
生まれて初めて見た特別な魔法。一体なんという生きものなのか分からない姿へと変わったロルフに恐怖を覚える事なんてありはしなかった。美しいとさえ思うあの姿を、ロルフ自身が貶さないでほしかった。
「君ももっと良い人に出会えるだろうに」
「ロルフ様以外に興味ありませんもの」
「変わってるな。上学年に第三王子殿下がいることを知らないのか?」
「ああ…そういえばそのようなお話を聞いた事はございます」
この国に王子は三人いる。王太子である第一王子と、その補佐を担う第二王子。彼らはとても仲が良く、争いになるのは嫌だからと、第二王子は兄が立太子したその日に王位継承権を放棄したそうだ。
そして、第三王子は政よりも冒険を好む。正当な王家の人間ならば皆魔法を扱う事が出来る。折角魔法が使えて、しかもそれなりに強くなれる事が確定しているのだからと、少々自由人な王子様はギルド所属を目指しているそうだ。
「第三王子だが、王位継承権は現在第二位。気に入られれば一生不自由する事無く生きられるだろう」
「男爵家の令嬢が、王子様と結婚するお話など聞いた事がございますか?」
「無いな」
「もし気に入られたとしても、私は正妃ではなく側妃でしょう。私は一番でなければ嫌なのです。愛しいお方の一番傍で、一番深く、愛されなければ意味がございません」
だから王家になど興味はない。貴族ではあるが、王家に嫁げる程の身分ではない。もし仮に嫁げたとしてもせいぜい側妃。つまり正妃を迎えることを許さなければならない。
一番で無ければ嫌だ。他の人に目移りなんてしようものならば、きっと怒りに我を忘れてしまうだろう。
「君の夫になる人は大変だな。もし愛人でも作ろうものなら殺されそうだ」
「ええ、御相手の方ごと焼き尽くしますわ」
「…冗談とは思えないな」
ひくりと口元を引き攣らせ、ロルフはマチルダから視線を逸らす。
夫になる人は大変だなんて言っているが、その夫にと望んでいるのはロルフしかいない。それを分かっているのか、それともにっこりと微笑んでいるマチルダの表情で思い出したのか、他の話題に切り替えようと小さく唸っているロルフに、マチルダは嬉しそうに身体を寄せた。
「近い!」
「良いではありませんか、デートですもの」
「君は嫁入り前の女性なんだぞ!少しは恥じらいを覚えたらどうだ?普段から脚を見せたり走り回って俺を追いかけたり…」
慌ててマチルダから距離を取ったロルフの顔は赤い。歩きながらではあるが、再び距離を詰めようとしたマチルダに向かって腕を命一杯付き出すと、ロルフは声を荒げた。
「頼むからそれ以上寄るな!」
「何故ですか!」
「怖いんだよ!」
そう叫んだロルフは、しまったと言いたげな顔をする。対し、叫ばれた側のマチルダはきょとんと呆けるしかなかった。
黙っていると近寄りがたいと言われる事はあるが、怖がられる事はあまり経験が無い。
「怖い…」
「いや…あの、そうじゃなくてだな…」
「顔つきがキツイと言われる事は度々ありますけれど…怖いだなんて」
ほろりと泣き真似をしてみせると、ロルフは慌てふためきながら違う!と繰り返した。
思わず出てしまった言葉で傷付けてしまった事に気が付くと、どう言い訳をすべきか考え始めたようだ。
「その…君が怖いというよりは、君のような人が怖いというか…」
「お言葉の意味が分かりかねます。女が怖いということでしょうか?」
「女性が怖いわけではないよ。…綺麗な人が怖いんだ」
本当にロルフが何を言っているのか分からない。綺麗な人が怖いという言葉の意味も分からないし、怖がられている事を嘆いたら良いのか、それとも綺麗な人認定された事を喜べば良いのか、それすら分からない。
「…私は綺麗な人、という事で宜しいでしょうか」
「とびきりの美人だよ、君は」
「ロルフ様の好みでしょうか!」
「いや、全く」
好きな男に綺麗だと言われるのは、女にとっては喜ばしい事だ。好みだと言ってもらえたら更に嬉しいのだが、ばっさりと切り捨てられてしまえば、がっくりと項垂れるしかなかった。
「顔を変えられる魔法があれば良いのに」
「変える必要は無いだろう」
「ロルフ様に愛される顔になりたいのです」
「いい加減諦めてくれないか…友人としての付き合いなら歓迎なんだが」
「ロルフ様の一番になりたいのです!」
「一番の友人、でも良いだろ」
友人では満足出来ない。どうにかして恋仲になりたい、ゆくゆくは妻になりたいと思っているのに、想い人はそれを受け入れてはくれない。それがもどかしいのに、ロルフは必死で訴えるマチルダをあしらって逃げるばかり。
「ああほら、あそこだろ?ツキヨグサの花畑」
項垂れるマチルダの横で、ロルフは遠くに見えた真っ白な花を指差した。
太陽の光を反射し、キラキラと輝く真っ白な花畑。まるで絨毯のようにも見えるその光景に、マチルダの目はキラキラと輝いた。
「綺麗…」
小さくそう呟き、胸の前で手を組んで見惚れているマチルダに、ロルフはゆるりと口元を緩める。普段はしつこく追いかけ回され迷惑しているのだが、こうして普通の女の子のように美しい景色に見惚れてしまう姿を見るのは新鮮だった。
「ほら、もっと近くで見るんだろう?」
「はい!」
頬を染め、嬉しそうに微笑むマチルダに、ロルフの胸がどきりと鳴った。
結婚なんてしない、頼むから諦めてくれ追いかけ回さないでくれと言っているくせに、こうして二人で過ごす時間を作ってしまうのは、ロルフが自分を好きだと追いかけまわしてくる女の子に惹かれてしまっているから。それを自覚していて、離れなければと思っているのに、もう少しだけ、ほんの少しだけ…そう自分に言い訳をして、赤毛の優等生に甘えてしまっている。
「少しくらいなら摘み取っても構いませんわよね?魔法薬の良い材料になりますし」
「誰が管理している場所でも無いんだし、少しくらいなら良いんじゃないか?」
ロルフの言う通り、今向かっている花畑は誰かが管理しているわけでもない。
ただ繰り返し、毎年同じように地面を美しく飾ってくれる花が植わっているだけ。薬草としての価値はそれ程高くは無いのだが、あの場所に生えているツキヨグサはとても質が良い事で有名だ。だと言うのに、不思議な事に取りつくされてしまう事は無いようだ。
「まあ…絨毯のようですわ!」
さわさわと髪を揺らす風。地面で揺れている花たちもまた、ゆったりと風に踊っていた。
甘く軽やかな香りが鼻を擽る。少々目に痛い程輝く白い花が、マチルダとロルフを迎えてくれているように見えた。
「凄いな…」
「真夜中はもっと…美しいのでしょうね」
「ああ…そうだな」
卒業するまでは見られないであろう光景。それを想像した二人は、ほうと小さく息を吐く。微かに触れた指先が絡み合ったのは、美しい光景に呆けていたせいで何も考えていなかったからなのか、それともそういう雰囲気に流されただけだったのか。
どちらでも良い。もしかしたらどちらでもないのかもしれないが、今はただ、しっかりと絡めた指を解く気にはなれなかった。
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作中に出てくるツキヨグサは、実在するツキヨグサとは異なります。




