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礼拝堂の囚われ人たちⅠ

「ん? あそこにいるのは……」

 

 墓地からの帰り道。

 俺とウェンディが、礼拝堂の前まで戻ってこようとしていた時であった。その石造りの建物の入口に、人影が見えた。

 あれは――サンガ村の村長さんと、村人のおじいさんだ。


「おっ。これはこれは、ウェンディさんに、ノシュア君」


 村長さんは、道の向こうからやって来た俺たちに気づいて、片手を大きく振った。

 ウェンディが先行して、ヒュンと彼らの元へ飛んでいく。


「どうしたの? そんな格好をして」


 ウェンディの言うとおり。村長は頭から足まで、全身をがっちり鉄の鎧で固めていた。まるで、これから戦いに赴く武人のようである。


 反対に、村長の隣にいた年期の入ったおじいさんは、ごく普通のローブ姿であった。その手にはパンの入ったカゴと、皮袋の水筒を抱えている


 後から追いついた俺に、村長さんがおじいさんのことを紹介してくれた。この礼拝堂を管理している祈祷師(きとうし)だという。


「うちの母の墓に参ってくれたんだね。息子から話は聞いたよ」


 ありがとう。と村長さんはにこやかに言った。そして「して、ちょうどいいところに会いましたな」とも。


「ああ、いえ……それで、お二人はここでなにをしているんですか?」


 俺が尋ねると、祈祷師のおじいさんは困った顔をして、ため息を吐いた。「それがですじゃ……」と、ちらっと礼拝堂の石の扉を見てから、しわくちゃの口を開きかける。


 と、その時。


「開けろッ! ここから出しやがれッ!」


 石の扉のせいでくぐもってはいたが、誰かの叫ぶ声が聞こえた。さらに荒々しく、ドンドンッと扉を叩く音も。

 俺は目を見開いた。多少くぐもっていようとも、その乱暴な言葉使いでピンときてしまったのだ。


「あの盗賊か!」


 盗賊フリック。

 子分のガンスと一緒に、サンガ村へ盗みを働きに来た小悪党だ。村人が石化したのをいいことに、火事場泥棒のような真似をして……最終的には、なにがあったのか泉のある洞窟で石になっていた男である。


「ええい、静かにしたまえ!」


 鎧を着た村長さんも、負けじと扉に向かって声を張り上げる。もっと扉から離れろと村長さんが命令しても、フリックは聞く耳を持たず、出せ出せと訴え続けていた。


 盗賊フリックも、ウェンディや村人たちと同様に時間経過で石化が解けたらしい。しかし、奴の悪事はサンガ村の少年によってばっちり見られていたため、解放と同時にすぐお縄についたとか。


「やれやれ、往生際の悪い奴だ」

「まったくですじゃ……」


 ふたたび、祈祷師のおじいさんは重い息を吐いた。


「拘留して置く場所がないとはいえ……まさか、このお堂を代わりにするしかないなんてのう。ここは祖先の霊を弔う場所なのに、罰当たりじゃ……」

「まぁまぁ、じいさん。今回だけは勘弁してくださいよ。今、ムコー村にお役人さんを呼んでいるから、明日の朝には引き渡せますとも」


 二人の会話をよそに、俺はふと周囲の山林を見渡した。


(もう一人の相方――ガンス。あっちはどうしたんだろう)


 モンスターを操る笛を壊したから、もう悪事はできないだろう。おそらく、ひとりで山を下りたのかもしれない。


(もっとも、あの巨体と気弱な性格を考えると……元々あいつには盗賊業自体向いていないと、俺は思うけどな……)


「いいじゃない。ずーっと、閉じ込めておけば」


 両手を腰に当て、ウェンディはぷりぷり怒っている。


「狭い場所に入れられる息苦しさを、あいつも味わえばいいんだわ」


 そう言って、石の扉に向かって彼女はべーっと舌を出した。

 ウェンディはフリックに捕まっていたから、当然奴への心象は最悪だ。


(きっと今、鉢合わせでもしたら――)


 光の球(ブライトボール)で消し炭にされることは確定だろうな。と俺はどこか他人事のように思った。


 ふと、俺の目が祈祷師のおじいさんが抱えている食料に止まった。どうやら、なかの奴に食事を持ってきたらしい。


「おじいさん、そのカゴと皮袋を貸してください」


 俺は手を差し出して、言った。


「なかの奴に渡すんですよね? 俺が代わりにやりますよ」

「おお、本当かい!」


 ため息ばかりを吐いていたおじいさんの顔は、たちまちぱっと明るくなった。


「そりゃ、ありがたい。わしも年寄りなもんだから、正直、この役目はおっかなくてのう。それに――」

「ノシュアちゃん、気をつけてね」


 なにかあったらパンチよ。

 シュシュと拳を振る妖精の言葉に、俺も「おう」と応えた。

 念のためウェンディとおじいさんには、危ないから礼拝堂から離れておくように言っておく。


 入口ではいまだ、重い扉越しに村長さんとフリックとの言い合いが続いていた。 


「頼むよぉ~、村長さん。納屋でも、どこでもいいんだ。なんだったら井戸の底でもかまわねぇ。とにかく俺をここから出してくれよ!」

「ここが一番まともな場所なんだ。辛抱したまえ!」

「うぅ、クソ野郎……」


 俺は村長さんの元に近寄った。目配せをして、あとは自分がやると伝えた。

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