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VS盗賊コンビⅠ

「誰でい! そこにいるのはッ!」


 慌てて首を引っ込めるも……ダメだ、奴らとばっちり目が合ってしまった。

 隠れた木の幹の向こうから、ザッザッとこちらへ近づいてくる足音が聞こえた。仕方がない、俺は剣を抜いて奴らを前に姿を現した。


「な、なんだ、ガキかよ。驚かせやがって……」

「ふぅ……おいら、寿命が百年縮まったでよ」


 盗賊の一人、フリックは俺の姿を見るなり、チッと舌を打つ。その隣、もう一人の盗賊のガンスはふくよかな顔を緩ませて安堵の息をついていた。

 二人の反応は対照的であったが、どちらにしても、若造だからと侮られるのは面白くない。俺は早々に武器を前へ構えて、二人の男に問いかけた。


「おまえ達が、この近辺に出る盗賊ってやつだな?」

「あん? ガキの癖にいっちょまえに武器なんざ構えやがって。大人なめんじゃねぇぞ、こら」


 汚い言葉を吐くフリックは放っておいて、俺はもう一人のガンスのほうへと顔を向けて、視線で訊ねた。


「あ、ああ、そうだよ。おいら達、泣く子も黙るバローア盗賊団の一員なんだな」

「バローア盗賊団?」


 聞き慣れない名称に肩眉を上げると、ガンスは「ほれ、こいつを見るべ」と、のたのたゆっくりした動きで大柄の身体を半回転させる。

 左肩に巻きつけた腕章の布を、彼は俺に見せつけた。木綿の布には、焼き印で黒いトカゲのマークが施されている。どうやらこれが、バローア盗賊団なる組織の証らしい。


「おいッ! 俺様を無視して話を進めてるんじゃねぇ!」


 横から、地団駄を踏んだフリックが口を挟んだ。ジロリとガンスを睨んで黙らせると、腕を組んで偉そうにふんぞり返る。


「これだから田舎モンは、情報が遅れてて世話が焼ける」


 いいだろう、俺様が特別に教えてやらぁ。

 と、なんの親切心か、向こうから勝手につらつらと喋りはじめた。


 フリックの話によると、バローア盗賊団とは、ここ最近勢力を増してきた新しい盗賊集団らしい。東大陸の北部を中心に暗躍を広げ、現在団員数は五十名近くいるとか。

『来る者は拒まず、去る者は容赦なし』の冷酷な親玉を筆頭に、窃盗・強盗から暗殺、盗品売買まで器用にこなす危ない組織とのことだ。


「元は南部のでけぇ盗賊団のグループから独立しただけあって、その道の者にゃ『将来、脅威になる組織ランキング、ナンバーワン!』とまで噂されてんだぜぇ?」

「ふぅん……」


 興味なさげに半目になった俺に、フリックはすっかり酔った口調で大きく笑った。


「ハハハッ、どうだ小僧、ビビったか!」

「んでも、兄貴やおいらはまだまだ下っ端から抜け出せないんだけどねぇ……」


 謙虚で正直者のガンスの横っ腹を、フリックが肘で小突いた。「余計なことを言うな!」と声を荒げる彼の様子に、俺はなんとなーく相手の事情がわかってしまった。


「要するに、下っ端盗賊のおまえ達は……そうだな、おおかた組織に上納する金品にでも困って、こんな辺鄙(へんぴ)な場所で、ちまちま人を襲っているってところか」

「んなッ!」


 俺の挑発に、フリックは図星とばかり顔を引きつらせた。


「うわッ、兄貴。こいつ人の心が読めるべ!」

「バッカ言ってんじゃねぇや!」


 またもフリックはガンスの腹を小突いた。

 さて、こちとら盗賊もどきの漫才なんて見ている場合じゃないんだ。だけど、煽っても煽らなくとも、大人しく道を通してくれる相手じゃないのは明白である。


(となると――)


 実力行使しかない。俺は厳しい目で相手と対峙した。


「こんのガキ、もうただじゃおかねぇ!」


 フリックも腰のベルトから武器を引き抜いた。奴の手に、鋭利な短剣が握られる。

 遠目で見るに、相手の武器は俺のショートソードよりも刀身がだいぶ短い。しかしリーチが短いからといって油断することなかれ――奴は左右の手に、二刀の短剣をそれぞれ握りしめて戦闘の構えを取っていた。


「寛大なるフリック様に免じて、荷物だけ置いてきゃ命は見逃してやろうとは思ったけどよ……」


 へへへ、とフリックは下卑た笑い声を上げる。


「少し痛い目を見せて、世間の厳しさってもんを思い知らせてやらにゃ気が済まねぇや」

「兄貴ぃ、子ども相手にそんな大人げな――」

「うるせぇガンス! てめぇも、さっさと戦いの用意をするんだ!」


 兄貴分に怒気を飛ばされて、ガンスはあたあたと背後に積んであった荷箱や袋を漁りはじめた。

 なにをする気だろう。と、俺が目で探りを入れようとした時、先にフリックのほうから飛びかかってきた。


「人生の先輩に立てついたこと、たっぷり後悔させてやらぁ!」

「!」

 

 俺は剣の柄を両手で強く握りしめた。

 左、右と振り下ろされる短剣の二連撃――ガギンッ、ガギンッ、弾ける金属同士の雄叫びを耳に、俺は猛攻を剣で受け流す。 


「んにゃろめッ!」

 

 ふたたび、フリックは二刀の短剣を振りまわす。時折、鋭い切っ先を俺の顔面や腹めがけて突き刺そうとしながら、息のつく限りの素早い攻撃を仕掛けてきた。

 鈍色の刃が光るたびに、甲高い音が山林のなかに木霊した。斬撃は受け止め、刺し攻撃を身交わしで対処しながら、俺はフリックの攻撃の癖を見極めていく。


(威勢がよいだけで、がむしゃらに振りまわしているだけだな……)


 指南を受けていない典型的なチンピラの剣術だ。まぁ、うっすら予想はしていたが――俺はふっと、口端を上げる。

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