表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カオヤイのピー  作者: さっさん
7/7

カオヤイのピー7

 万策が尽きて諦めた時だった。発砲音が響く。

 タン、タン……数発分の音が山にこだまする。


 グロック17の聞き慣れた音だった。呆気に取られていると、虎が動きを止めた。そして顔面から鮮血を噴射し、ドサリと地面に倒れる。


「ラッシュ、無事か!」


 俺が混乱していると、何者かに強い光で照らされた。懐中電灯の光だ。

 その向こう側から金髪の女性と、白ブチ眼鏡をかけた黒人――メガミとゾフィの姿が見えた。


「実地訓練でウルトラレアを引き当てるたぁ、流石だぜ、ラッシュ!」


 銃殺された虎を尻目に、ゾフィが軽口を叩いた。銃を持っていないから、仕留めたのはメガミの方だろう。

 俺は無事だ、と頷いて答える。体に力が入らなかった。腰が抜けたかもしれない。

 メガミが拳銃を仕舞い、虎を一瞥する。


「あ、ああ……それよりも、ヤバイんだ。とにかく逃げよう」

「何があった? 皆心配していたぞ」


 俺がそう話すと、メガミは怪訝そうな顔をしていた。

 質問された俺は、言葉がまとまらず答えられなかった。

 深く息を吐く。よろめいた。だが、逃げなければ……。


 歩きながら話そうと提案し、周囲を警戒しつつ野営場所を目指した。

 その一路で、二人に伝える。虎に追われて村を見つけた事。村の人間が俺を殺そうとしてきた事。銃も恐らく奪われた事。あと隠し部屋、血痕、人骨……等々。


「そいつは本当かよ? そもそも、この辺に村は無ぇ筈だが……」


 眼鏡の位置を指で直すと、ゾフィが答えた。(にわ)かには信じがたいのだろう。

 俺自身も未だ、半分くらい夢なんじゃないかって思っていた。急に映画やゲームの世界に巻き込まれたみたいで、現実味が感じられない。


「……人喰い村、という事か」


 メガミが物憂(ものう)げな表情で呟く。

 そういえばここへ来る前、「カオヤイにはピーが居る」と言っていた。ピーとはお化け、幽霊という意味だ。

 何か知っているのだろうか。


 カオヤイの幽霊、か……。

 後ろを振り返れば、そこにはもう追ってくる姿は見えなかった。




 これは後の話だが。俺達はその後、無事野営していた地点に戻る事が出来た。

 そして大よその方角と距離から、村があった場所を割り出す。タイ警察に伝達して、後日調査隊を派遣してもらった。すると、確かに村が存在していたそうだ。

 だが、住居は(もぬけ)の殻で、人間はたった一人を除いて居なかったという。そんなだから、生活していた形跡はあれど、廃村に誰かが住みついていたのでは? という憶測さえ行き交った。

 じゃあ、俺が出逢った村民は何だったというのか。夢か、幻か。

 ちなみに俺が泊まっていた宿、その別の部屋から被害者が一人見つかったらしい。衰弱死寸前だったようで。生きたまま足を縛られ、監禁されていた。

 男の名前はタヌマと言った。




 ――バンコク北東部に位置する、カオヤイ国立公園。その実は山岳であり森林地帯である。

 面積にして約二千平方キロメートル。(ふもと)には樹海が広がっている。


 グーグルマップにより全世界が網羅された現代、衛星写真により地球の表皮全てが丸裸になった。

 だが、木々に覆われて視認する事が出来ない深奥。そこには知られざる秘密の集落が存在する。

 観光ガイドにも載っていない民泊があったのだ。


 村民は迷い込んだ人間に優しい言葉を掛け、宿を案内する。しかしその裏では殺害する計画を練り、タイミングを虎視眈々(こしたんたん)と狙う。

 一人、また一人と殺していき、身ぐるみを剥ぎ、金品に換え、死体は焼却して埋める。入り口が巧妙に隠された、人間の解体部屋まであったそうだ。

 家の中からは大量の硝酸が見つかった。これは、焼却して白骨化した遺体を溶かす為のものであった。――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ