カオヤイのピー4
どれくらい時間が経っただろうか。
起きると、二つの目玉が俺を覗いていた。照明が遮られて薄暗く、ただ静かに、そいつは俺の顔を覗き込んでいた。
「え……?」
人の顔。男の顔である。ギョッとして起き上がると、それが先程の店主であると知れた。無機質的で、感情の一切を感じさせない。凡そ人間らしさというものが全て抜け落ちたかのような顔だった。
飛び起きて店主を凝視する。すると表情を一変させ、にこやかな笑顔に戻った。
「お風呂が沸きましたので。お知らせに、と」
「あ、はい……」
そして「鍵、空いてましたよ」、と付け加えて去っていった。
部屋の扉がゆっくりと閉まる。その折、ドアの隙間からこちらを窺い、闇に呑まれたかのような眸子が舐るように俺を見ている。そうして最後、ドアが完全に閉じられた。
「何で……」
一瞬、殺されるのではないかとさえ感じた。今でも、心臓は破裂するかのように鼓動し、胸の辺りに息苦しさを覚える。
気味の悪い男だ。だが文化の違いかもしれない。
それに外部の人間だから、警戒されているのかもしれない。
異質、恐怖を感じながら、しかし風呂には入りたいと思った。汗まみれで、しかも川に落ちている。道中、何度か転んだ。そんな状態でベッドに寝転んでいたわけで。少し汚してしまったようだ。
これは悪い事をしたな……。
俺のマナーに問題があったし、もしかしたら怒っていたのかも。