第21話
それから私たちは、服屋と靴屋を探しに向かった。昨日行ったところではない。あそこは評判の良い店だと聞いていたが、奴隷と知られてしまったところで買えば、また蔑むような目で彼らを見るに違いない。それに、奴隷に衣服を買い与えている人がいると知られたら、私が目立ってしまう。それはまずい。
別にあんなところで買わずとも、服屋なんていっぱいあるし、外から見えるように展示されている服は、ぱっと見だが質が良さそうだから問題ないだろう。
歩きながらガラスケースに入った服や靴を流し見て、男性衣服専門店へ入った。彼らの見た目からは、奴隷とはわからないようで、中にいた店主も店員も普通の客と同様に扱ってくれた。
二ヶ月分の服と靴を選んでこい、と言って私は彼らを店内に散らした。もちろん、私の服も男物だからここで選ぶつもりだ。私が女だとバレるわけにはいかない。それに、どの服屋でもそうだが、ワンピースやロングスカートといったヒラヒラ系ばかりで、ズボンがない。生存率を上げるために、私はズボンを選択する。ある程度、買い物かごに服を入れて、ふと彼らがどんな服を選んでいるのか気になって、覗いてみることにした。
「な、なぁ……おまえら本当にそれ買うのか?」
ただ、覗くだけのつもりだったのだが、ぽろりと疑問を口にしてしまう。
エルフは古代ギリシャに出てくる白い布で丈が短く右肩だけを出して胴に巻きつけるようなエクソミス服。そして、鬼人といえば鬼のパンツすなわちトラ柄パンツを手に持っていた。
「エルフの一般的な部屋着なのです……駄目、でしょうか?」
(ああああざとい! 無意識っぽいが、あざとい!)
眉を下げ、捨て犬がこちらを見てくるような目で見てくる。人の悪意的な感情には敏感な方だが、私のそのセンサーには引っかかってないようなので、間違いなく無意識だ。無意識が一番怖い。
(一瞬、可愛いと思ってしまった……)
緩みそうになった顔をぴっと伸ばして無表情をなんとか維持する。このところ表情筋が地味に忙しない。
「じゃあ、オレのこれも……駄目なのか?」と横から視界に入ってきたのは、どーんと広げられたトラ柄パンツ。
(笑いそう、マジで)
「鬼人に人気なのはトラ柄パンツなんだ……」
「あぁ……そう、か」
そう返事をして、私は一度深くこくりと頷く。
(やはり、昨日は遠慮してたのか……)
昨日行った服屋では、カッターシャツといったシンプルな服ばかり彼らは選んでいた。だが、今日はそれぞれ個性的なものを選んでいる。それが、その少しずつの変化が、とても嬉しかった。
(案外、奴隷らしさから抜けるのも結構早いかもなぁ)
それにしても、古代ギリシャ風の服と鬼のパンツか……王道っちゃ王道だが、いざそれを目の前にして見てみると、「え? やっぱり君たちの種族って、それ着るの? マジ?」と思ってしまう。こればかりは、異世界人の感性だから仕方があるまい。
「あの……ご主人、様?」
鬼のパンツで笑いを堪えようと、口に片手を当てて、何かしら考えるふりをしていたら、エルフに顔を覗き込まれる。
「あぁ、すまん。服のデザインにどうこういうつもりはない。好きに選べ」
そう言って、背を向けてふたりの側から足早に離れた。これ以上ここにいると、笑いそうだったから。
考えるふりをして、笑いを堪えようと口に当てたままの手の中で、暫く口をきゅっといつもより固く結んでいた隼人であった。
(あの鬼人が、トラ柄パンツか……ちょっと可愛いな)




