第17話
今日ここへ来て良かった。ここへ来なければウルジーの話を聞けなかったし、今後生活していく上での不安が拭えなかっただろう。取り敢えず、無属性の魔結石さえ持っていれば、魔道具は使える。
(ちょっと待てよ……?)
私は首を傾げながら少し頭を下げて、指で顎を摩り考える仕草をした。何か重要なことを忘れているような、はて何だったかと記憶を辿り、ハッとしウルジーに向き直る。
「そういえば、お聞きしたいことが」
「なんだ、あんちゃん?」
「魔法学院にも家庭教師にも魔法について教えてもらってないのですが、魔結石による魔法の使用は法に反しますか?」
(入国審査の時に言われた通りなら、もしかして魔銃は使えない?)
しまった忘れてたと内心、頭を抱える。他に自衛出来る方法といえばと、ふと痺れ粉が思い浮かび、ローダの薬屋でまた聞いた方がいいだろうかと考える。
「いんや? 法に反するのは、自分の体内にある魔力で魔法を使う場合だけだから魔結石は含まれねぇ。その法があるのは、魔力暴走による被害を無くすためだからな。それに、魔結石自体高額で買う奴が少ねぇし、買う奴がいたとしても、日常生活用の魔道具に使う無属性の魔結石ぐらいだしな! まぁ、魔力が少ねぇ奴の為ってこともあって、生活上不便にならないように魔結石が禁止されてないってのもあるのかもな! あんちゃん、もしかして法に反したと思ったのか? ガハハハハハハ!」
ウルジーが私の引き攣っているであろう顔を覗き見て、天井に向かって大きな口を開き豪快に笑った。
(あっぶねええぇぇぇ……マジで焦った)
「ハハハ……てっきりさっきの試し撃ちで捕まるかと思いました」
「そんなんで捕まってたら、この国のもん全員犯罪者だぜ!」
(それもそうだな……)
不規則に動く心臓を落ち着けるために、私は一度大きな深呼吸をしたのだった。
***
ウルジーとの話が終わった頃、リンジーに呼ばれた。
「ガキンチョ! ふたりの武器、決まったぜ!」
「有難うございます。調整は必要ですか?」
「あぁ、もう調整しといたし、ガキンチョがウルジーと話してる間に、奥で試し斬りもしたしな!」
(試し斬りまでしてたのか……)
そんなにも長く話し込んでいただろうかと不思議に思いつつ驚く。
「有難うございます。ところで……おまえら、武器はそれだけでいいのか?」
「あぁ」「はい」
見ればふたりの手には武器が一本ずつしか握られていなかった。
(なんだか心許ないな)
「リンジーさん、護身用に身につけておくような短剣等はありますか? それを二本ずつ彼らに見繕ってあげてください」
「わかった」
振り返って彼らを見ると、私が言ったことが何かおかしかったのか、鬼人と狼人はぎょっとした顔で固まっていた。
「護衛なら、自分の身もちゃんと守れるようにしとけよ?」
彼らにそう言うと、ふたりは感極まった様子で、鬼人は「あぁ……」と手のひらで目を覆って俯き、狼人は「はい……」と瞳を潤ませぐっと歯に力を込めるとローブをグイッと引っ張り顔を隠した。返事をした彼らの声は小さく弱々しかった。




