第6話
ドアの側に設置されていた電気のスイッチらしきもの──壁に埋め込まれた魔石に触れて奴隷用の部屋に灯りをつけてから、中へ入った。
奴隷用の部屋には内鍵がついていない。反対に外側からは鍵がかけられるようになっている。恐らく、奴隷を閉じ込める為だろう。
ドアを閉めて窓側にある丸椅子に腰掛け、椅子の脚にもたれさせるように麻袋を置く。そして、今日履いていたブーツの中に手を突っ込み、つま先部分にあるものを取り出す。さらに、今日穿いていたズボンのポケットにあるものも取り出してテーブルに置いた。
テーブルに置いた四つのしわしわな包み、この中に入っているのは、『痺れ粉』だ。ローダの薬屋でケシの実を購入した後、自衛のために役立つものはないか聞けば、これを勧められたのだ。
この痺れ粉は食人植物を殺して乾燥させてからすり潰し、沸騰させた湯につけて毒の調整を行い、人体に害がないくらいに抑えたもの、だそうだ。
(結局、使わなかったな……)
奴隷商館とかで揉めることがあったら、自分も奴隷にされる可能性があると考え、すぐに取り出せるズボンのポケットと捕まった時用に靴に仕込んでおいたのだ。
この粉に触れると、触れた箇所から身体全体に痺れが広がり、三十分程度動けなくなるらしい。
包みの結び目は特徴的で、花弁のような形状になっており、投げてどこかに当たった衝撃で中の粉が吹き出すようになっているようだ。
四つの包み紙をテーブルの端によけておく。そして、本屋で買った『契約書の書き方』の本と辞典、それから雑貨屋で買ったもう一冊のノートを取り出し、テーブル上に置いた。
私はステータスを表示し、カウントダウンを確認する。
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書字自動言語翻訳解除まで
あと残り0日 13:30:19
※種族異世界人により神の慈悲で音声自動言
語翻訳は免除
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(あっという間だったな……)
彼らが明日起きてくる時間は、遅いかもしれない。その場合、不動産で契約書にサインする時には読めないし、書けなくなっているだろう。
(ステータスも、読めなくなるのか?)
不安に駆られ、ノートに自分の元のステータスと偽造用に複数のステータスをこの世界の文字と日本語を使って書き写す。
それが終われば、さっくりとした内容の日記を書いて、今日歩いた道と回った店の地図と名前を書く。そして、明日の不動産契約のために、『契約書の書き方』の目次を開いて、不動産が用いるであろう契約書のページを読み込み、翻訳するように日本語でそこに直接書き込む。
最後に開くのは辞典だ。この世界の単語の真横に日本語で読み方を直接書く。単語と接続詞等を繋げて綺麗な文章に訳せなくても、単語さえ読めれば大体の雰囲気で何が書かれているかわかるだろう。
この作業は朝方まで続き、私は一睡もすることもなかった。




