第5話
しっかりと入念にケシの実の液体を塗り込み、実を服用する。鏡前で身だしなみを整え、胸に巻いたコルセットが透けないか寝巻きを確認する。
(大丈夫そうだな。まぁ男物だし、それもそうか)
宿のスリッパを履いてバスルームを出ると、窓側に置かれた一人用のソファに腰掛けながらコーヒーを啜る龍人、ローテーブル前のソファに寝っ転がって足を組む狐人、食事をしていた席に座るエルフ、何故かドア近くに椅子を移動させてそこに座る狼人と鬼人がいた。
(狼人と鬼人は護衛か?)
奴隷商館にいた時よりも随分と落ち着きが見られる。雰囲気がギスギスしておらず余裕が感じられた。まぁ、龍人と狐人は相変わらずだ。
水分補給をして、少し休んでから彼らに声をかけた。
「話したいことがある」
そう言って、皆に椅子に座るよう促す。
「金はあるが、いま持ち家がない。だから明日、不動産に行く。住む上での条件として、何かあるか? 欲しいものとか」
ついさっき雑貨屋で買ってきたノートとつけペン、ボトルインクを麻袋から取り出し、書く姿勢をとる。
「主治医としては、治療器具とか医学書、薬品、それから治療するための清潔な部屋かな」
(意外とまともな発言)
「我は、身体がでかいのでな、なるべく大きなベッドと、新聞が欲しい。最近の社会情勢が気になる」
(うん、まぁそうだよな)
「自分は……護衛です。鍛錬のため、庭か部屋があると有難いです」
(相変わらず、真面目)
「オレは力が強い。力のコントロールができなくなる時があるから、頑丈で壊れない部屋が欲しい」
(え、鬼人ってそんなに、やばいの……?)
「私は、なるべく静かなところがいいです」
(やはり人間が多いところは怖いか……)
《ノート》
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狐人→治療器具、医学書、薬品、清潔な部屋
龍人→大きなベッド、新聞
狼人→鍛錬する場所(庭や部屋)
鬼人→頑丈で壊れない部屋
エルフ→静かな場所にある家
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「わかった。王都の外れにある広い土地の家にでもするか。そういえば、この辺で不動産はあったか?」
「さっきの服屋の近くにあったような気が……」
(おぉ……成長したなぁ)
鬼人とため口で自然と喋ってる。
「ここは王都だからな、店なんていくらでもある。そんなに歩かずとも直ぐ見つかるだろう」
「そうか、聞きたいのはそれだけだ。では今日はゆっくり休むといい」
私はテーブルに手をついて立ち上がると、ボトルインクの蓋を閉める。そして、テーブル上に広げた文房具を麻袋へしまった。奴隷用の小部屋へ続くドアを半開きにしたところで、ぴたりと動きを止め彼らの方を向く。
「そうそう、急ぎではないので、不動産に行くのは明日の何時になっても構わない。それと、俺が出てくるまで勝手に中には入らないで欲しい。今から少しやることがあるのでな、おやすみ」




