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第2話

 眉間に寄せた皺を指で押さえながら、ふぅっと息を吐く。


(そう簡単に上手くいくわけないよなぁ……)


 一刻も早く彼らを普通の日常へと戻してあげたい。だが、私には私の事情があるから直ぐには手放してやれない。疑念を抱きながら共同生活しても、その疑念がいつか晴れるとは限らない。仕方ない……。


 押さえていた指を下ろして彼らに向き直る。


「わかった。おまえたちとも『血の契約』を結ぼう。効力の強いものの方が、おまえたちも安心できるだろう? 狐人と契約を交わしたのは、契約を結ぶのなら俺の主治医になると条件を出されたからで、特別扱いしたわけじゃないからな」


「待ってくれ! アンタあの時、いや、ご主人さ───」


「言葉遣いなんて一々気にしない。喋りやすい方で喋ればいい」


 敬語に言い直そうとした鬼人の言葉を遮り、そう伝えれば、彼は言葉を呑み込むかのように一度頷いた。


「アンタあの時、"血の契約はひとりだけしかできない"って言ってなかったか……?」


「あぁ、言った。だが嘘は言ってない。血の契約と主従契約は全く別のものだから身体にほとんど影響はない。ただ血の契約と血の契約の場合は、反発して身体に負担がかかるんだ。だから、注意事項には血の契約の重複した契約はやめとけって書いてある」


「負担がかかる、とは具体的にはどのような症状が出るのですか?」


(エルフでも血の契約は知らないのか……。もしかして森に籠ってたから、とかか?)


「双方共に症状が出るわけじゃない。重複した契約をしている方のみだ。症状は主に倦怠感だな。そんなに危険はない」


(嘘だ。本当は倦怠感じゃないけど、私以外がどうこうなるわけじゃないし、問題ない)


 後ろめたい気持ちを隠そうとしたいが為か、「そんなに危険はない」と言ったところで私は瞼を閉じ、突き刺さる彼らの視線から数秒逃れた。


 納得していないような、困っているようなそんな顔だが、もうしたい質問がないのか誰も口を開かなかった。


「他に聞きたいことがないなら、選んできてくれ。これは命令ではなく、"願い"だ」


「どう違うのですか?」


 ラピスラズリが零れ落ちそうなほど、見開かれた。


「命従紋が機能するか、しないかの違いだな」


 彼らは、しぶしぶ納得したのか、大人しく店の中へ入り、選びに行った。その間、私は近くの雑貨屋と本屋に寄って、そこで必要な物を購入した。


 ようやく選び終えた彼らの衣服やその他諸々の会計を済ませた後、試着室で買った服に着替えてもらい、私たちは宿へ向かったのだった。




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