第29話
蝶ネクタイの男の呟き④
ようやく冷静になった私は、この奴隷商館に他のお客様が入らないよう、玄関のドアに営業終了の看板をかけておきました。
貸し切りにした理由を尋ねてみますと、図書館と役所に用事ができたとのことでした。狐人と恐らく何かあったのでしょう。あのキツネに騙されていなければ良いのですが……。
レオリオ様が次にいらっしゃったのは、午後十七時半頃でした。そして、VIP専用の部屋でまた奴隷資料を手渡して仰ったのです。
「購入する奴隷を決めた」
一体どの奴隷なのでしょう。私にはレオリオ様のお考えは読めませんから、内心わくわくしながら佇んでおりました。
「55番、3番、17番、24番、97番……以上だ。97番に伝えてくれ、準備は整った、とな」
驚くあまり裏返った声で返事をした私は、レオリオ様を応接室へご案内した後、奴隷の確認と契約のための準備をしに行きました。
天才の考えることは凡人には理解できないとよくいいますが、レオリオ様がそれに当てはまるのか、それとも、ただの物好きなのか……。
正直なところ、レオリオ様がご指定された奴隷は、VIPの中でも問題のある奴隷ですから、こちらとしては有り難かったのです。
それから先は衝撃的すぎて、はっきりとは憶えていないのですが、三年後に奴隷を解放するだとか、命を縛る血の契約をしたりだとか、拘束具を外すように仰ったり、色々ありました。ですが、その中でも鮮明に思い出せる言葉がございます。どのような基準で奴隷を選ばれたのか───。
「購入履歴のある者は、少しでも外の空気を吸えているのだろう? だが、おまえたちはここに居た期間が長く、長らく外の空気を吸えていないだろ」
奴隷を引き連れ、カミュアを後にするレオリオ様の背を暫く見つめ、私はレオリオ・ヒーラギという人物の本質が少しだけ理解出来たような気が致します。
彼は、私に命令口調で圧をかけたりはしましたが、レオリオ様に対してとった失礼な態度を咎めることは一度もございませんでした。(なかば脅しに近いものはありましたが)
そして、主従契約を結んだ奴隷達との軽快な会話を目の当たりにし、奴隷にも気遣いの出来るただ思いやりのある優しい方なのではと思い至りました。
レオリオ様は、"頭が足らなくて物の価値を知らぬ、金など持っていないただの平民"ではなく、思いやりのある優しい方。全体を通してみても、この奴隷商館へいらっしゃるどのお客様よりも良いお客様でした。
これで、私の話はお終いでございます。
長らくご静聴頂きまして、誠に有難う御座います。それでは、失礼致します。




